ぬくもりは、温度じゃない
夏美がレジカウンターで小物の整理をしていたときのこと。
引き出しのすみから、ぽつりと声が聞こえた。
「僕たちなんてさ…あってもなくてもいいんだよね…」
「えっ?」
思わず手を止めて、耳をすませると――
「売り物でもないし、お客さんに“ありがとう”って言われることもないし。それにさ、僕たち…あったかくもないし…」
そこにいたのは、何枚も重なったおしぼりくんたち。
「おしぼりくん、そんなふうに思ってたんだね…」
夏美はそっと引き出しを閉めて、腰をかがめるようにして話しかけた。
「確かに、あったかくはないけどね。でも、おしぼりくんたちがいてくれて、どれだけ助かってるか」
「ほんとに?」
「うん。外回りの人や、車でちょっと立ち寄った人。お弁当を買った人だって、おしぼりがあると手を拭けて気持ちいい。あったかくはなくても、ちゃんと気配りが伝わってるよ」
「…でもさ、僕たち、カサカサだし、袋に入ってるだけでちょっと地味じゃない?」
「でもね、おしぼりくん。その“さりげなさ”がいいんだよ。そっと寄り添ってる感じがして。誰かを支えるって、そういうことなんじゃないかな」
「…そっか…」
「それに、“おしぼりください”って言われたこと、あるでしょ?」
「うん…ある…!」
「そのひと言は、ちゃんと必要とされてるって証拠。感謝の気持ちは、声に出さなくても、ちゃんと届いてるんだよ」
おしぼりくんは、ちょっぴり照れたように袋の中でくるんと丸まった。
「なんか…嬉しいな。冷たい僕でも、誰かのためになれてるんだね」
「うん。ぬくもりはね、温度じゃなくて、気持ちから伝わるんだよ」
レジ横の引き出しの奥で、そっと重なったおしぼりたちが、なんだか少し誇らしげに見えた。
レジ横で静かに出番を待つおしぼりくんたち。
目立たなくても、感謝の言葉がなくても、
ちゃんと誰かの役に立ってる――そんな存在って、案外多いのかもしれません。
夏美のやさしい言葉が、おしぼりくんの心をちょっとだけあたためてくれました。




