包み込みお布団さん
夜。
一日の終わり。
お風呂から上がった夏美は、髪を乾かし、パジャマに着替えて部屋の明かりを落とす。
ほんのりと残る湯気と、窓の外から入る春の夜風。
カーテンの隙間から、淡くまあるい月がのぞいている。
「ふぅ〜……今日も、終わった……」
夏美はベッドに腰を下ろし、そっと布団をめくる。
ふんわり、ほのかにお日さまのにおいが広がる。
「今日もお疲れ様、私」
声に出すと、心がふっと軽くなった。
体を滑り込ませると、ふかふかのお布団が、やさしく包み込んでくる。
「……あ〜、気持ちいい……」
そのときだった。
胸のあたりにふわりと響く、やわらかな声。
「おかえりなさい、夏美ちゃん。今日も一日、がんばったね。」
「……お布団さん?」
「うん。今日はね、お母さんが私をベランダで干してくれたの。
お日さまの光と、春の風をいっぱい吸いこんだのよ。」
「うん……わかる。あったかくて、ふわふわで、おひさまのにおいがする……」
「お母さん、優しかったわよ。私をパンパンとはたきながら、
『夏美が気持ちよく眠れるように』って、そっと撫でてくれたの。」
「……お母さん……ありがとう……」
「それからね、風がくすぐったくて、雲がゆっくり流れていくのを見てたの。
その間ずっと、今日の夏美ちゃんのことを考えてたのよ。どんな日だったかな、って。」
「今日ね、ちょっと疲れたけど……でも、乗り越えられた気がする。
こうしてお布団にくるまれると、なんだか報われるっていうか……安心する……」
「そうでしょう? わたしはね、夏美ちゃんの味方なの。
悲しいときも、くたびれたときも、なんにも言わずに、そっと包み込むから。」
夏美は目を閉じた。
お布団のぬくもりが、背中に、腕に、足元に、しっかりと広がっていく。
「今日のいやなことも、ちょっと寂しかったことも……
わたしのなかにぜんぶ沈めてしまいなさい。
朝になったら、軽くなっているから。」
「……ありがとう、お布団さん……」
お布団は、ふわりと深呼吸するように、夏美を包み込んだ。
「おやすみ、夏美ちゃん。
夢の中では、どこにでも行けるわ。空だって飛べるし、笑顔の人に囲まれる世界だってある。
ゆっくり、おやすみなさい……」
そっと頬を撫でるような風。
布団のぬくもりのなかで、夏美の呼吸がゆっくりと深くなる。
静かな部屋に、微かなお布団の声だけが残った。
「また明日、あなたを迎えるために――
私は、ここにいるよ。」
ふかふかのお布団にくるまれる夜は、ちょっとだけ心がほぐれる時間。
おひさまのにおいや、お母さんのやさしさが残るお布団は、まるでそっと話しかけてくれるようです。
「大丈夫だよ、今日もよくがんばったね」って。
そんな声が聞こえてきたら、安心して眠ってしまえそう…




