バスタオルさんのやさしい夜
「ただいま〜」
夏美が玄関の扉を開けると、外より少しひんやりとした空気が頬にあたる。
今日はよく動いたなあ。品出しにレジに、笑顔もいっぱい使った。
でも、楽しかった。おじいちゃんのお客さんがくだらないダジャレを言ってきて、それが妙にツボに入って。思い出しても、くすっと笑えてくる。
「おかえり〜。ご飯もうちょっとでできるよー」
キッチンから聞こえる母の声。
「うん、お風呂先入ってくるね〜」
汗でぴったり張りついたボーダーのTシャツを脱ぎながら、夏美は脱衣所へ。
シャワーを浴びて、湯船につかると、体がふわぁっとほどけていくようだった。
(はぁ〜〜〜〜。今日も、無事終わった)
お風呂から上がり、足元のバスマットをふむと、ふんわり心地よい。
すぐそばには、いつものバスタオル。ふっくらした綿の厚みが、待っていたみたいにそこにある。
「夏美嬢、今日もお疲れ様でしたね」
「うん、バスタオルさん。今日もありがと」
そっと肩にかけると、まるで大きなやさしい手で包まれたみたい。
あったかくて、ちょっぴりひんやりして、でも心までぽかぽかになるような。
「どうか、この柔らかなぬくもりで、夏美嬢の一日が少しでもほぐれますように」
「うん…なんか、涙出そうなくらい気持ちいい」
「おっと、お風呂あがりの水分まで吹き飛ばしてしまいそうですな」
ふふっと笑いながら、髪を拭き、腕を拭き、背中をなでるようにぬぐっていく。
それはただ水分を取るだけじゃなく、今日の疲れや、ちょっとした不安や、がんばった気持ちまでも、ぜんぶぜんぶ、吸い取ってくれる気がした。
「今日ね、ちょっと嬉しいことがあったんだよ」
「おお、それはぜひお聞かせくださいませ」
「レジでおじいちゃんと一緒に来てた小さい男の子が“ありがとう”って言ってくれてね。それがすっごく可愛くて…」
そんな風に、まるで日記をつけるように、夏美はバスタオルに話しかける。
話を聞くように、そっと包みこむやわらかさ。
拭き終わってタオルハンガーにかけたとき、なんだか名残惜しくて、
「また明日ね」
と、つぶやいてしまった。
バスタオルの端が、ちょこんと揺れたように見えた。
まるで、「おやすみなさいませ、夏美嬢」と言ってくれたみたいだった。
がんばった一日の終わり、そっと寄り添ってくれる存在がいるだけで、心はふんわりほぐれていきます。
バスタオルさんのやさしさが、夏美の明日をそっと照らしてくれるような…




