ピッと、こころをそろえて
お客さんの波が落ち着き、店内に静けさが戻った。
夏美はレジカウンターの横に立ち、ふうっとひと息つく。
目の前には、つるんとした画面と、すました顔をして佇む――自動精算機のレジくん。
「今日も忙しかったね、レジくん」
「うん。今日は電子マネーの人が多かったな。ピッて一瞬で終わるから、僕も気持ちいいよ」
レジくんは、まるでスーツの似合う優等生みたいに、静かで整った話し方をする。
お金の受け渡しも、お釣りも、すべて自分でこなす。夏美は、商品の読み取りだけ。
「ほんと、レジくんってすごいよね。私、お金に触らなくてもいいし、釣り銭間違いもないし」
「当然だよ。僕は正確無比なんだから。誰よりも速く、誰よりも正確に――それが、僕の誇りさ」
自信満々のその声に、夏美はくすっと笑う。
「なんか、レジくんってほんとに頼れるっていうか…ちょっと鼻高々?」
「いやいや、それほどでも。でもね――」
レジくんの表示画面がふわっと光る。
「夏美ちゃんが“ありがとうございました”ってお辞儀するとき、僕も少し嬉しいんだ」
「えっ?それ、感じてたの?」
「うん。お客さんの反応だけじゃなくて、夏美ちゃんの声や雰囲気も、ちゃんと僕には届いてるんだよ」
夏美は不意に、胸があたたかくなった。
「……じゃあ、私もちゃんと見られてるってことか」
「もちろん。君の“気持ち”は、僕の中でちゃんとデータとして…いや、心として残ってる」
データ、と言いかけたレジくんに、夏美は笑いながら言った。
「ねえ、レジくん。私、機械相手に話してるって思われたら、ちょっと変な人に見えるよね」
「でも妄想の中なら、誰にもバレないよ」
「たしかに!」
そう言って笑った夏美の前で、レジくんの画面が静かに光り、文字が表示された。
“今日もおつかれさま。”
夏美はそっと頷いた。
誰よりも静かに、でも誰よりも確かに働いてくれるレジくん。
お金には触れなくても、あたたかな何かが、ちゃんとそこには流れていた。
そしてまた、ピッ――とレジの読み取り音が響いた。
次のお客さんを迎える合図のように。
ただの機械かもしれないけれど、そばにいるからこそ通じ合える“ありがとう”の気持ち。
お金を触れなくても、レジくんと夏美の間には、今日もきっと小さなぬくもりが流れていたのかも…




