枕さんのやさしい夜
お風呂であたたまった夏美は、ぽかぽかのままベッドに滑り込んだ。ふわふわのお布団に包まれながら、大きく息を吐く。
「今日も一日お疲れ様、私…」
すると、耳元にふんわりとした声が届いた。
「お疲れ様、夏美ちゃん。」
「……えっ?」
「私よ。いつもあなたの頭の下にいる、枕。」
「ま、枕がしゃべった…?」
「ふふ。驚かないで。私はずっとここにいたわ。夏美ちゃんが笑った日も、落ち込んだ日も、どんな夜も。」
「そっか…いつも一緒だったんだね。」
「ええ。あのときもよ。覚えてる? 熱が出て、鼻もつまって、咳が止まらなかった夜。あなたはしんどそうで、何度も寝返りをうってた。私はそのたび、そっと形を変えて、あなたの首を少しでも楽にしてあげようとしてたの。」
「…あったね。あの夜、母が何度もお水を持ってきてくれて…ありがとう、枕さんも。」
「それから、あの夜も。初めて失恋して泣きじゃくっていたとき…私は何も言えなかったけど、あなたの涙がぽたぽたと私に落ちてきて、私はそのまま受けとめたわ。『苦しい』って、小さな声で言っていたあなたの気持ち、私はちゃんとわかってた。」
「……うん、あのときは、正直、生きてるのがつらかった。でも、朝起きたら、少しだけ心が軽くなってて…」
「それは、あなたが眠れたからよ。眠るって、不思議な力があるの。心の中の嵐を、少しずつ静かにしてくれる。私はただ、そのお手伝いをしているだけ。」
夏美は、目を閉じたまま、にっこりと微笑んだ。
「今日も、安心して眠れそう。」
「ええ。私はいつでも、あなたの眠りを支える存在。頭の重さも、心の重さも、全部私に預けて。」
部屋の灯りが消え、夜の静けさがやさしく広がっていく。
そして、夏美の呼吸が穏やかに整ったころ──
枕は、そっとその形を整え直しながら、やさしくささやいた。
「おやすみなさい、夏美ちゃん。どんな朝も、あなたが前を向けるように。私はいつでもここで、待ってるからね。」
風邪でつらい夜も、失恋で涙した夜も、枕さんは変わらずそこにいて、ただ静かに受けとめてくれる存在。
目には見えないけれど、そういうやさしさに包まれて眠れる夜は、きっと少しだけ強くなれる夜なのだと…




