トマト村から届いた甘い贈り物
「今日はね、美味しそうなトマトがあったの。何もつけずに、そのまま食べてみて」
夕食のテーブルに並んだ赤いトマト。
まあるくて、つやつやで、どこかうれしそうに笑っているように見える。
夏美はひとくち、パクリ。
「……美味しい〜! あま〜い!」
その瞬間、夏美の頭の中でトマトの物語がはじまった。
——
「甘いでしょう、私」
赤く色づいたトマトが、にこっと笑った。
「私ね、山のふもとの畑で育ったの。昼はぽかぽかの太陽がやさしく照らしてくれて、夜はお月さまがそっと見守ってくれてたのよ」
「へぇ〜、気持ちよさそう」
「うん、とっても。でもね、毎日楽しいだけじゃなかったの」
トマトちゃんは、少し誇らしげに話し始めた。
「雨が少ない時期は、おじさんが一つひとつの苗に話しかけながら、必要なだけのお水をあげてくれたの。“がんばれ、甘くなれ”って」
「話しかけてたの?」
「そうよ。おじさんの声、あったかくてね、聞いてるだけで元気が出るの。
土も、風も、虫たちも、みんなで支え合ってたのよ。カエルの子たちがいつも応援してくれて、ミミズくんが土をふかふかにしてくれたの」
「まるで、トマト村みたいだね」
「そうそう。みんな仲良しのトマト村。
でもね、ある日、強い風が吹いたの。葉っぱがちぎれそうになって、私も揺れて揺れて、怖くて泣いちゃったの」
「大丈夫だったの?」
「うん。おじさんが、すぐに支柱を立ててくれて、“大丈夫だよ”って手でそっと包んでくれたの。あのときのぬくもり、今でも覚えてる」
トマトちゃんは、ちょっと照れたように顔を赤く染めた。
「だから私は、がんばって甘くなったの。あなたに美味しいって言ってもらえるように、ずっとずっと楽しみにしてたのよ」
——
ふたくち目をゆっくり味わいながら、夏美はつぶやく。
「……ありがとう、トマトちゃん」
母がうれしそうに笑った。
「おいしい? よかった。あなたが喜ぶ顔が見たかったの」
トマトに詰まった、太陽の光と、大地の恵みと、たくさんの“やさしさ”。
それが今、夏美の食卓にある。
心まで満たされる気がして、夏美はそっと目を閉じた。
農家のおじさんや自然に守られて育ったトマトちゃん。
その一口には、太陽や風、土のぬくもりと、人のやさしさがぎゅっと詰まっています。




