手のひらの小さな守り神
さぁ〜今日も一日お疲れ様、私。
夏美はベッドへ向かう。
あっ、そうだ。ハンドクリーム、塗っとかないと。手が荒れちゃうから。
キャップを開けて、少しだけ手のひらに出す。
柔らかな香りとともに、白いクリームが指先にのびていく。
***
私はハンドクリーム。
夏美ちゃんの夜にだけ現れる、小さな味方。
今日もまた、夏美ちゃんの手に溶け込んでいく。
この手は、朝からたくさん働いた。
レジで精算をして、棚に商品を並べ、お客さんの商品を入れる。
お弁当を温めたり、ゴミを片づけたり、時には思わずこぼれたジュースを拭いたり。
誰にも気づかれないけれど、
この手は今日一日で、夏美ちゃんはたくさんの「ありがとう」を受け取ってきた。
小さく、でも確かに。
けれどその代償に、少し乾いて、少しかさついて、少し疲れて。
だから私は、そっと溶けていく。
指と指のあいだ、手の甲、爪のまわり。
どこも、ちゃんと包み込んで。
私は、誰かに気づかれなくてもいい。
ただ、夏美ちゃんの手が、明日も元気でいてくれるように。
そのためだけにここにいる。
クリームの中にはね、
ラベンダー畑の風と、
あたたかい陽だまりの光と、
そして、ほんのすこしの“よく頑張ったね”が入ってるの。
だから、私が溶けたあと、
夏美ちゃんの手はふわっと軽くなる。
それはまるで、見えないエールをまとったように。
***
布団に入った夏美は、すべすべになった自分の手を胸の上に置きながら、ふぅっと息を吐いた。
「明日も頑張らなきゃなぁ…」
「ありがとう、ハンドクリームさん」
――大丈夫。
私はいつもここにいる。
あなたのがんばりを、ちゃんと知ってるから。
そっと、見えない手袋で包むように、
ハンドクリームは静かに、夏美の夢の中へと溶けていった。
目立たないけれど、そっと寄り添ってくれている存在って、意外と身近にいるのかもしれません。
今日の疲れも、明日の不安も、そっと包んでくれるものがあれば、また頑張れそう・・




