表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なつみの、ひとりごと日和  作者: ひまわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/68

レディ傘


「さーて、今日は帰るか…」と、夏美は肩をまわして小さく伸びをする。


外に出ると、朝から降っていた雨は、いつのまにか霧のようにやわらかくなっていた。

空は灰色のままだけど、どこか優しい色をしている。

「お疲れ様でした〜」

夏美は傘を開いた。


「傘なくてもいいような、でも…あったほうがいいような…」


そんなふうに思いながら、ゆっくり歩き出す。


そのときだった。

ひゅう〜っと風が吹き抜ける。


「わっ!」

夏美の傘が一気に裏返り、ふわっと広がった。


「エッチ!」


「えっ…?」


驚いて傘を見つめていると、聞こえてきたのは少し気取った、でもどこか品のある声。


「スカートがめくれちゃったじゃない!早く元に戻してちょうだい!」


「す、すみません…」


夏美は慌てて傘の骨を元に戻そうとする。


「私はレディ。たとえ傘でも、スカートがひっくり返るなんて、恥ずかしいことこのうえないのよ」


「…わかってますけど、風が強くて…」


「言い訳はレディに通用しないの。あなた、わかってる?

 私はいつも、あなたを雨から守ってるのよ。しとしとでも、ざあざあでも。

 今日だって、髪が濡れないように、コートが濡れないように、ちゃんと守ってるの」


「う、うん…ありがと…」


「それなのにスカートをめくるだなんて、もう…」


夏美はふぅと息を吐きながら、傘の骨をそっと戻す。

ぱちん、と音がして、傘はようやく本来の姿に戻った。


レディ傘はふぅっとため息をついた。


「まったく…でも、ちゃんと直してくれたから、許してあげるわ。……少しだけ、レディ扱いされた気分だったもの」


夏美は思わず、くすっと笑う。

「はいはい、お嬢さま」


霧雨の中、レディ傘を手にした夏美は、歩き出す。


頭上では、ほんの少しご機嫌を取り戻した傘が、やさしくカサカサ音を立てた。


道端の植え込みに咲いたあじさいが、雨に濡れて、うれしそうに揺れていた。

薄紫、青、ピンク――それぞれの色が、雨粒をまとってほのかに光る。


夏美は立ち止まり、あじさいに目を向けた。

そして、小さく微笑んで、傘の内側を見上げる。


「…これからも、よろしくね」


レディ傘は何も言わなかったけれど、

その骨が、ちょん、と優しく揺れた。

まるで、ええ、もちろん――と、気高くうなずいたように。


そのとき、傘の布地がふわりと広がり、やわらかく夏美を包み込んだ気がした。


「……なんだか、あったかい」


誰も聞いていないのに、ぽつりと呟く夏美。


帰り道の灯りがぼんやりと滲む中、レディ傘はしっかりと夏美の頭上にいた。

雨のひとしずくも、夏美の頬には届かないように――まるで、大切なレディを守るように。


ちょっと風は冷たいけれど、心はほんのりあたたかい。

そんな夕暮れだった。

ちょっと気まぐれで、ちょっと上品なレディ傘。

そんな彼女と夏美の、雨の日ならではの静かなひととき。

傘って、ただの道具かもしれないけれど――誰かのために“守ってる”って、すてきなことかもしれません。

今日もまた、やさしい雨がふたりをつなぐ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ