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ダンジョン遺品整理士のおっさん、作業配信で深層を散歩していたら人類最深到達者だとバレました  作者: yamaarashi


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9/13

第9話 遺品になる前のお客様を、背負って帰ります

 上層を、走った。


 いつもの早足ではない。この八年で、たぶん初めての全力だった。

 通路の角を曲がるたびに、驚いたゴブリンが壁に張りつく。中層の大きなトカゲが、慌てて天井へ逃げていく。


《コメント欄》

 ガチ勢A:え、速っ

 名無しの中層民:カメラ追いついてない

 七瀬(モデレーター):等速です。たぶん

 霧咲レイ(公式):二十階を八分で通過しました。人類の記録ではありません。もう何の記録でもありません

 ジン信者:頼む、頼む


 浮遊カメラが、時々置いていかれそうになる。

 ひよりさんが遠隔で速度の上限を外してくれたらしく、モーターが悲鳴のような音を立てていた。


 四十階。五十階。

 黒い狼の群れが、道の両端に分かれて頭を下げた。


『灰島さん、ジンさんの配信、大蛇が……!』


 イヤホンから、ひよりさんの声。

 手首の端末の小窓で、灰色の大蛇が大きく口を開けていた。ジンは剣を杖にして、まだ仲間の前に立っている。


 五十六階。

 五十七階への階段を、俺は一段飛ばしで駆け下りた。


 手首の端末の時計を見る。ゲートを入ってから、三十八分。

 約束より、二分早い。


   ◇


 大蛇の牙が、ジンの頭上に迫っていた。


 ジンは目を閉じなかった。

 最後まで相手を睨んだまま、剣を振り上げようとして――。


 その剣の横を、俺の火ばさみが通り過ぎた。


 かちん。


 大蛇の上あごの牙を、火ばさみの先でつまむ。

 そのまま、ぐっと押し戻した。


「失礼します。そちらの方は、ご依頼品です」


 大蛇の頭が、天井近くまで跳ね上がった。

 白く濁った目が、ぎょろりと俺を見下ろす。


《コメント欄》

 名無しの中層民:きたあああああ

 ジン信者:間に合った!?

 kuro_tama:牙を火ばさみでつまむな

 ガチ勢A:石喰いの顎の力、鉄骨を噛み切るって言われてるんだが


 ジンが、呆然と俺を見上げていた。


「……あんた、なんで」


「妹さんからのご依頼です。少々お待ちください」


 大蛇が、もう一度口を開けた。


 俺は工具ベルトから、養生テープを一巻き取り出した。

 布製の、いちばん粘着力の強いやつだ。


 飛び込んできた鼻先を左手で押さえ、上あごと下あごを、ぐるぐると巻いていく。


 一周。二周。三周。


 大蛇は首を振って暴れたが、テープは剥がれなかった。

 しばらくもがいてから、大蛇は不思議そうに自分の口を見つめ、やがて岩の隙間へずるずると逃げていった。


「テープは、あとで剥がしてくださいね」


《コメント欄》

 ガチ勢A:養生テープで深層の大蛇の口を封じた

 名無しの中層民:テープは、あとで剥がしてくださいね(やさしい)

 元探索者:布テープ最強説

 Abyss_Watcher:WHAT KIND OF TAPE IS THAT

 ジン信者:ジンが生きてる……


   ◇


 四人の容体を確かめる。


 盾役の大熊さん、回復役のミナさん、斥候のソウさんは、意識がなかった。

 脈はある。呼吸もしている。魔素酔いだ。急いで上の階に運べば、助かる。


「皆さん、少し窮屈ですが我慢してください」


 俺は防炎養生シートを広げ、三人を一人ずつ包んだ。

 それをロープでまとめ、背負子にくくりつける。大熊さんだけで、たぶん百キロはあった。


 背負い上げると、ジンが目を丸くした。


「……三人、まとめて?」


「ジンさんは、こちらへ」


 俺は、ジンを右腕で抱え上げた。


「は? ちょ、待て、俺は歩け――」


 ジンは一歩踏み出そうとして、そのまま膝から崩れた。

 俺は、もう一度抱え直した。


「ご依頼は、持ち物一式の回収です。ご本人も含めて、と承っておりますので」


《コメント欄》

 kuro_tama:お姫様抱っこ

 名無しの中層民:A級探索者がお姫様抱っこされてる

 ジン信者:ジン、顔真っ赤で草

 ガチ勢A:大人四人担いで深層付近を歩くおっさん

 霧咲レイ(公式):救急車、ゲートに三台待機しています


   ◇


 帰り道は、ゆっくり歩いた。


 急げば四人の体に障る。魔素の濃い階から薄い階へ、少しずつ慣らしながら上がっていく。


 五十階を過ぎたあたりで、腕の中のジンがぽつりと言った。


「……なあ」


「はい」


「ヤラセって言って、悪かった」


「いえ。疑うのは、大切なことです」


 ジンは、しばらく黙っていた。


「十年だぞ。俺が毎日潜って、ようやく五十五階だ。あんたは、何年だ」


「八年です」


「なんで、そんなに強くなれたんだよ」


 俺は少し考えた。


「強くなろうと思ったことは、ないんです。ただ、ご遺族が待っている物を探して、深いところに長くいただけで」


 ジンは、ははっと乾いた声で笑った。


「……ずりいなあ、それ」


 それきり、彼は目を閉じた。

 眠ったのだろう。腕の中の重さが、少しだけ増した。


   ◇


 八王子ゲートの外は、人であふれていた。


 救急車の赤い光。報道のカメラ。スマホを掲げた野次馬。

 その人垣を、霧咲さんが剣の鞘で押し分けて道を作ってくれた。


「灰島さん! 一言お願いします!」

「深層の救助は協会の規定外だそうですが!」

「黒崎さんとは和解されたんですか!」


 マイクがいくつも突き出される。

 俺は背負子を下ろしながら、一つだけ答えた。


「ご依頼品を、ご家族にお返しするところです。少し、道をあけていただけますか」


 記者たちが、なぜか一斉に道をあけた。


「お兄ちゃん!」


 制服の女の子が、駆け寄ってきた。

 ミオさんだ。ストレッチャーに移されたジンに飛びついて、声を上げて泣いた。


 ジンは薄く目を開けて、妹の頭に手を置いた。


「……仕送り、止まんねえわ。悪い、心配かけた」


「ばか! 仕送りとか、どうでもいいから!」


 救急車のドアが閉まる前に、ジンがこちらを見た。

 何か言いたそうだったが、言葉にはならなかった。代わりに、小さく親指を立てた。


   ◇


 事務所に戻ると、ひよりさんがパソコンの前で険しい顔をしていた。


 机の上には、ジンのパーティが身につけていた協会支給の通信機が置いてある。

 救急隊員に頼んで、外させてもらったものだ。


「灰島さん。これ、ただの通信機じゃないです」


 ひよりさんは、画面に表示された通信ログを指さした。


「十秒ごとに、現在地を送信してます。送り先は、協会の正式なサーバーじゃありません。個人の端末です。登録者の名前は――真壁」


 霧咲さんが、鞘を握りしめた。


「黒崎を使って、深層の道筋を調べようとしていた……?」


「それだけじゃないんです」


 ひよりさんは、俺の浮遊カメラを机の上に置いた。

 協会の売店で借りた、あのカメラだ。


 ドライバーで開けた底面の奥に、小さな黒い部品が埋めこまれていた。


「灰島さんのカメラにも、同じものが入ってます。最初の配信の日から、ずっと」


 ひよりさんの声が、震えた。


「灰島さんが深層のどこを歩いたか、全部、真壁課長に筒抜けだったんです」


 俺は、黒い部品を見つめた。


「……最初の配信の三日前に、このカメラを予約しました。そのときはまだ、誰も私のことなど知らなかったはずです」


「売店の貸出記録、さっき鷺沼さんに確認してもらいました」


 ひよりさんは、スマホの画面を見せた。


「灰島さんの名前で予約が入った日に、貸出の決裁欄に課長の印が押されてます。普通、カメラの貸出に課長の決裁なんて要らないのに」


 つまり、真壁課長は、ずっと前から俺を見ていたのだ。

 業者用通用口の記録には、入った時刻と出た時刻しか残らない。けれど、八年間、毎週十時間以上も潜り続けている業者がいれば、気づく人間は気づく。


 そして、その業者の名字が「灰島」なら。


「妻の手帳を、私に探させるつもりだったんですね」


 声に出すと、事務所の空気が冷えた気がした。

 八年かけて深層への道を覚えた俺の足跡を、真壁課長は、ただ後ろから追いかければいい。


 そして今夜、俺は五十七階までの最短の道を、二百万人の前で走ってみせたばかりだった。

ご依頼の続きは、本日12:10に。

続きを見逃さないよう、【ブックマーク】で灰島の作業記録を保存しておいてください。

「ここで切るのか!」と思ったら、下の【☆☆☆☆☆】をタップして評価をいただけると、次の深層へ早く潜れます。

※本作は本文の執筆に生成AIを使用しています。

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