第8話 盗賊のジェイナ
小柄な少女と第一市場カミュランデの出口まで走った。往来する人々が慌てふためいている。走る度に埃があたりに舞っている。
追っ手がビームガンを撃ってくる。俺は振り向きざまに、自分のビームガンで応戦した。
手元を撃つと、相手は悲鳴を上げた。俺の射撃性能を舐めないでほしい。
少女が早口に言った。
「あたしのスピーダーがあるから乗って!」
見れば、カミュランデの出口に二人乗りの白い乗り物があった。座席にふたりで跨がると、少女がアクセルを全開にした。
あっという間にカミュランデから100メートル先に飛んでいく。ターミュスの乾いた風が気持ちいい。
俺は振り落とされないように少女の腰に手を回しながら言った。
「おまえ! 名前は?」
俺の声はスピーダーのエンジン音でかき消される。もっと大きい声で言わなくちゃ。
「名前は!!」
「あは、ジェイナ。ジェイナ・ラビロウよ」
ジェイナのスピーダーは、あっという間にターミュスの荒れ地まで移動していた。
この小柄な少女、俺をどこへ連れて行く気だ? と訝しんでいると、ジェイナが言った。
「あたしのアジトがこの近くなの」
あたりはいつの間にか山岳地帯になっている。岩山の陰にジェイナのアジトがあるらしい。
ジェイナが目立つというのでスピーダーを岩陰に隠すと、俺をなかへ案内した。
……女性の部屋なんて初めてだ。
という感想は置いておいて、さっぱりとしたテントと小テーブルがひとつ、酒瓶が五つの空間。こんなところで女の子が一人暮らしして大丈夫なんだろうか? と親目線になってしまう。
「まぁ、座ってよ」
促されるまま、座ると、腰につけていたピラーがなかった。慌てて、ピラーの行方を探す。あれ?
「おっさん、何探しているの? まさか、これのことじゃない?」
ジェイナの手にはピラーがあった。いつの間に……。
鈍感な俺でも分かったぞ。こいつは盗賊だ。追われていたのは、こいつが何かやらかしたのかも。
「あは。あたし、こんな大金持っている軍人さん初めて」
「返してくれないか?」
「まさか。返すわけないじゃん」
俺たちはにらみ合う。ジェイナは不敵な笑みを浮かべている。彼女は言った。
「あたし。盗賊のジェイナ。カミュランデではよく観光客相手に仕事してるわ」
「わるそうな仕事してるな」
「あは。おっさん、まだ手元にお金あるでしょ。出して」
俺は腰のビームガンに手を伸ばそうとした。できなかった。ジェイナが咄嗟にナイフを喉元に突き立てる。
すんでのところで止まったが、危うく喉を切り裂かれるところだった。
「――下手な真似しないでね?」
俺はひやりと汗をかいた。この場合、相手の話を聞くしか道がなさそうだ。
「目的はなんだ?」
「あは。おっさんの宇宙船、けっこう良いものだよね」
俺は奥歯を噛み締めた。最初から目をつけられていたということか。迂闊だった。
「宇宙船とほかには?」
「へぇ。まだあるの。すごい」
拳を握ると、激しい横揺れがした。
「――なに?」
ジェイナが動揺している。さっきの追っ手だろうか。
俺はジェイナのナイフをビームガンで弾き飛ばした。ジェイナは軽くきゃっと悲鳴を上げた。俺はジェイナのアジトから出ると、上空には大きいスピーダーが飛び交っている。
ジェイナが出てくると、見るからに焦っている。
「あいつら、ファミリーの一員の末端だったの? あちゃー」
「ファミリー?」
「このへんのマフィアよ。あたしも迂闊だったわー」
ジェイナは腕を上に挙げた。伸びをすると、俺に聞いてくる。
「魚心あれば水心っていうじゃない? あたしと護衛契約してよ。おっさん」
は? こいつ頭おかしいんじゃないか? コロッと態度を変えやがって。
「ギャラにも寄る?」
ジェイナはピラーを差し出してきた。それは俺の金!! というのは、飲み込んで、頷いた。
「わかったよ、契約成立だな」
すると、ファミリーのスピーダーが真っ直ぐに飛んでくる。ビームを二発連射する。俺は、回避性能スキル【絶対回避】でささっと脇に避けた。
「あは。おっさんすごい!」
ジェイナも横飛びした。
俺は、射撃性能スキル【ターゲッティング】と【命中】で、相手の頭をビームガンで吹き飛ばした。
「おっさん、やば」
スピーダーからファミリーの戦闘員が転げ落ちた。ファミリーのほかのスピーダーは、遠くで様子を見ている。
つづいて、二つのスピーダーがコンビネーションで俺たちを挟撃しようとした。
俺は、射撃性能スキル【命中】で片方を撃ち抜くと、通り過ぎ様に撃ち抜かれたほうのスピーダーに跨がった。
射撃性能によって培われた動体視力だ。
形勢逆転の兆しだ。スピーダーはじゃじゃ馬だったが、操船スキルに比べれば大したものじゃない。
俺はスピーダーと射撃性能スキルで、つぎつぎとファミリーのスピーダーを撃ち落とした。
スピーダーを地面に停めると、ジェイナがハイタッチしてくる。
「おっさん、やるぅ!」
調子の良いやつ……
俺はしぶしぶハイタッチに応じた。




