第7話【運営視点】未確認事象
PCが並ぶゲーム会社のオフィスで、難しい顔つきをしているスタッフが数人、モニターを睨んでいた。ベテランスタッフと眼鏡をかけた新人スタッフが話し合っている。
「ちょっとこれ、どう思いますか?」
「うーん、石田先輩の忘れ形見としか……」
石田先輩といえば、GALAXY ONLINE BLUE OCEAN の生みの親である。去年亡くなったプロジェクトの功労者だ。新人スタッフも知っている。
「マップが二重になってますよ?」
「通常マップに加えて、別のマップが存在してるってことだな」
「これってつまり、隠しダンジョンですよね」
石田先輩はとにかく遊び心に溢れた存在だったし、スタッフからも慕われていた。そんな彼ならば、こういうことをしてもおかしくなかった。
「さすがに問題ですよ、これ」
モニターには、とある男のプレイ記録が映っている。
「本来存在しないはずのゲームマップ――」
「そこに、プレイヤーが立ち入った」
スタッフたちは、GOBOのシステムを石田先輩から教えられていたが、その全容は天才石田先輩の頭のなかであった。あるいは、もともと別のゲームのうえに、GOBOがプログラムされたのか。分からなかった。
「プレイヤーは?」
「プレイヤー〈ライデン〉、要塞戦ランキング上位者とスレッドが立っていたプレイヤーですね。人気も実力もあるプレイヤーがチート? まさか……」
「いや、チートとはニュアンスが違うよ。この場合は」
「隠しダンジョン内で、交戦中の艦隊と要塞を見つけて、要塞を攻撃したみたいですね?」
ベテランスタッフが両手を組み合わせて、切り出した。
「交戦中の艦隊なんだが、GOBOの中枢システムが生成した幻? みたいなんだよ」
眼鏡をかけたスタッフが口をぽかんとさせた。
「え? どういうことです」
ベテランスタッフが腕を組んだ。コーヒーカップを啜る。
「だからさ、NPCとして自動生成されたプレイヤーキャラじゃなく、GOBO内の中枢システムが応答したみたい? ってことさ」
「そんなことありえるんですか?」
「GOBOの表層システムでは、ゲームの基本的な流れを構築しているけれど、深層システムには、石田先輩の思想が色濃く出てるからな。さっぱり分からないんだよ」
「彼ってやっぱり天才ですね」
石田先輩はゲームを独特な思想で考えていたらしい。
「隠しダンジョンどうしましょう? このまま削除ですか?」
「いやたったひとりとは言え、プレイヤーが接続しているんだ、だめに決まってる」
新人スタッフが口をへの字に曲げた。顔つきが天気みたくぱっと変わり、何か言いたげのようだ。
「――こんな隠しダンジョンどうして、石田先輩は公開しなかったんでしょうか?」
「だよな。一見すると、この隠しダンジョン。とくに問題がなさそうなマップだし」
「ですよねー。たしかに未確認事象が起こるし、安定しないとは思うんですが。ゲーマーとしてわくわくはしますよ」
ベテランスタッフが眉間に皺を寄せて、目を細めた。
「ただ、この〈ライデン〉というユーザーは、どうやって隠しダンジョンに入ったんだ?」
「もうすこしプレイログを見てみましょう、なにか見つかるかもしれませんし」




