第6話 第二王女からの報奨金
裏宇宙の宙域で、目を凝らすと要塞が見えた。すこし船を前進させる。だんだん様子が分かってきた。
裏宇宙の要塞のまわりに50隻を超える艦隊が戦列を組んでいる。しかし、まるで歯が立たない。
初めて見る光景だ。艦隊なんて裏宇宙で見たことがない。
つぎつぎと炎をあげて沈没していく宇宙船、逃げずにさいごまで戦う気なのか。
勇猛果敢とはこのことだな。
――よし助けるか。
重い腰をあげて、要塞に照準を合わせた。
レーザーとミサイルのコンビネーション、まずは要塞の気を逸らす。敵は図体ばかり大きい。小回りの利く宇宙船が有利な理由がここにある。宇宙船を回頭させつつ、要塞に迫る。
向こうの艦隊は、さいしょ戸惑っている様子だったか、援護射撃をしてくるようになった。
俺は要塞の周囲を飛び回る。よくよく弱点をたしかめて、撃ちつくす。
要塞は、思った通り、そこそこ硬いな。それは今までの俺の話。ここからが本番だ。
射撃性能が十分あがった俺は、レーザーの威力を10段階に引き上げられる。いまは、2くらい。これを10にする。
ぐんぐんレーザーの威力が変わり、要塞が熱で溶けていく。
要塞が内部で爆発を起こした。つづいて誘導弾だ。
ふつうの誘導弾を光子誘導弾へ切り替えた。着弾すると、要塞が崩れていく。
――思いのほか、早く片がついたな。
額の汗を拭う。ブリッジにいるとは言え、少しはドキドキもするのだ。
崩れていく要塞のむこうで、援護してくれた艦隊が通信回線を開いてきた。モニターに、桜色を思わせる銀髪の少女が現れる。
「エーゼストリア王国の第二王女、ロゼリアです。助けて頂いて感謝いたします」
王女の言葉にドキリとする。深海色の瞳がにこやかに細められた。
きれいとか、かわいいとか、簡単な褒め言葉で説明がつかない容姿だ。
現代人とは、佇まいが違う気がする。これが宇宙人ってやつなのか。
いや、返事、返事だ。
助かったよかったです! とか?
いや、たいへんでしたね?
なんて返せばいいか分からない! キュルルが不思議そうに俺を見上げていた。
「貴艦は、どこの所属でしょうか? この宇宙では見たことがありません」
何か疑われている!
いや、シェンラオ同盟で通じるの? キュルルの瞳をじっと見ても仕方ない。
俺がわたわたしていると、騎士が間に入った。
頬が痩せた老練な騎士だった。名前はリウジスと言うらしい。細められた鋭い眼差しが俺を睨む。
――ひっ!
怯えているとリウジスはニコッと笑う。やさしい眼差しを向けてきたのだ。意外な反応だ。なぜ?
「ロゼリア王女。この方は、おそらく放浪者でしょう。宇宙を転々と旅しながら、賞金稼ぎなどで生計を立てる者です」
だいたい合っているような、でも微妙に的を外してませんか?
俺は唇を噛み締める。リウジスは目ざとく、その様子を見ていたようだ。
「ロゼリア王女、このお方に報奨金を与えてみてはいかがでしょうか?」
――報奨金って、善行をしたときに貰えるやつか?
*
ロゼリア艦隊と別れた俺は、手元にありえないくらいの大金を受け取っていた。
裏宇宙のお金、裏金。
なんか良くないものみたいだ。
このころには、裏宇宙でも手軽に入港できる星の候補が見つかっていた。
いちど降りてみよう。
ターミュスという惑星だ。ターミュスは商業の星で、裏宇宙のいくつかの辺境星で商業ネットワークを築いていた。
物価が驚くほど安く、何かと便利な星だ。ただ治安が悪いのが難点
だ。
俺も最初に降りたときに、盗賊に金品を掠め取られた。いまは、大金を持っているのでよく警戒しないといけないだろう。
とはいえ、報奨金は【ピラー】と呼ばれる簡易金庫に納められている。【ピラー】はなにかと持ち運びに便利だ。
腰に吊り下げておけるペットボトル大のものである。
俺は、入港した。
乾いた空気だ。唇がかさかさする。
カミュランデと呼ばれる第一市場の人混みを歩いて行く。漢字に見えなくもない看板に、光り輝くネオン。まるで、むかし人工知能が生成した夢のなかのような街並みだ。字はすべて翻訳機にかけて、照合しつつ、買い物を進める。
柑橘類のソーダ割りを買った。ゴクゴクと飲み干すとゲームであることを忘れる清涼感だ。
あちこちで香ばしい肉の焼ける匂いがしている。ラグリという、ターミュス原産の子豚大の動物を丸焼きにしているらしい。そこそこの値段を覚悟で購入してみる。
美味い、柔らかな肉質にとろける脂身。独特なスパイスの風味が食欲を駆り立てる。意外に価格はリーズナブルだ。ラグリ肉を、小麦で出来た皮に包んで食べてみる。これもなかなか……
舌鼓を打っていると、カミュランデで騒ぎが起きている。辺りを警戒しつつ、ビームガンを構えた。
向こうから小さな体が転がり込んできた。何事だ? と思って後ろを見れば、薄水色の髪色の少女が言った。
「……おっさん、助けてよ!」
軍服姿だったことが良くなかったようだ。何か権威がありそうに見えたらしい。咄嗟に迫る男たちにビームガンで応戦していた。
あちゃー、傍観者でいるつもりだったのに。
――俺たち二人は踵を返して走り出した。




