第5話 中央要塞セドナをあっけなく……
中央星系まで航行してくると、商船や軍艦がたくさん航行している。輸送艦や、護衛する軍艦、あるいは中央要塞セドナへ向かう戦艦などさまざまだ。
列の中に俺の艦隊も入った。やや俺の艦隊は大きさで目立つとはいえ、特に変わった様子はない。だいじょうぶだ。
中央要塞セドナに着くと、すでに帝国、連合、同盟と入り乱れて、要塞攻撃が行われている真っ最中だった。レーザーの光やミサイルが飛んでいくのが見えた。
俺も、セドナのまえに戦列を作る。そして、息を整える。キュルルが上目遣いで俺を見てくる。
「だいじょうぶ」と頷いてみせる。息を吐くと、俺は叫んだ。
「――放てぇ!」
俺の艦隊からレーザーとミサイルが飛んでいく。次弾を装填しつつ、着弾まで待つ。
ものの数秒だった。セドナに火柱が上がる。
「つぎだ、あれ……?」
様子がおかしい。
セドナがガラガラと沈んでいく。俺の目は点になった。
――は?
〈全チャ:セドナ陥落!!〉
〈全チャ:俺たちのセドナがぁ……〉
〈全チャ:誰よ、誰よ、誰よ?〉
〈全チャ:どこの所属? 同盟?〉
全チャットが矢のように飛んでいく。慌てて、俺は黙り込む。いくらなんでもおかしい。少しほかの艦隊と紛れて、ことが過ぎ去るまで待つか……
〈全チャ:ランキングを見ればわかるのでは?〉
〈全チャ:その手があった!〉
皆が息を飲んだ。ランキングの上位に、ライデンつまり俺の名前があった。
〈全チャ:ライデン!!〉
〈全チャ:ライデン!!〉
〈全チャ:ライデン!!〉
ライデンの名前が繰り返し全チャットに流れる。俺は、めちゃくちゃ居心地が悪くなってセドナ宙域から離脱した。
いや、おかしいだろ。セドナがあんなに柔らかい要塞なはずがない。
――ってことは、表宇宙には、俺の攻撃に耐えうる要塞が存在しない?
いや、待て待て。
「きゅー?」
キュルルを抱いて撫でてやる。目元を細め、気持ちよさそうにするキュルル。
俺はその温かさにほっとするが、全チャットのライデンコールは鳴り止まない。俺は思わず、VRHMDを頭から取った。
キッチンに急いで、コップに水を注いで口をつけてゴクゴクと飲み干した。
すこし落ち着いて、踵を返すが、クローゼットの角に足の小指をぶつけた。
「痛って……!!」
俺は、床に転がる。足をバタバタさせる。テーブルの脚に、脛をぶつけて、また悶絶した。悪いことは重なるものだなと冷静になりつつも、痛む足を抱えた。
痛みがだんだんと和らいでいき、ふたたびベッドでVRHMDを被った。
全チャットをいちどミュートにした。
俺は騒がしい中央星系から離脱しながら、自分の居場所について考え込んでいた。
セドナよりも硬い要塞は、ほとんどないと言われている。帝国も連合も、同盟すら今ある要塞の耐久力を超える要塞を開発できていないはずだ。俺は宇宙船のデッキで縮こまりながら、震えている。
――太一ちゃん! きらい!
あれはいつだったか。ずっと昔の子どもの頃、みんなが作った砂の城にじょうろで、水を注いで壊したことがあった。
どうして昔のことが思い出されてくるのか。俺は胸が苦しくて苦しくて堪らなくなった。
キュルルが俺の頬を舐めてくれる。塩辛い涙の味がしただろう。
こいつが宇宙でいちばん強い要塞戦のプレイヤーだ、笑え。笑うがいいさ。俺は、ワープし始める宇宙船のなかでうずくまった。
じょうろで砂の城を壊した日、どうやってみんなに謝っただろうか?
――いや、あれから一人きりだったじゃないか。
俺は、そうやって一人でなんとかこれまでもやってきたのだから――
これからも、そうしてやっていくしかないさ。
俺は気づくと、裏宇宙を航行していた。三勢力の戦艦は見渡す限り、どこにもいない。
マップを見ていると、すでに壊したはずの要塞のあった場所に、すでに要塞が建っていた。誰が維持しているんだ? という疑問はどうでもよかった。
俺は要塞戦を始める。
*
シェンラオ同盟掲示板は、ライデンを賞賛していた。
セドナすら手中に収める力に皆が酔っていた。中堅も新米もベテランすら、皆が彼を誇っていた。
リーシェン:私、ライデンのこと見直したわ。
フブキ:俺も!
イオ:もっと要塞壊してほしい……
クライセン:ひとつの国くらいの戦力があるなら、もう同盟一強じゃん。
リーシェン:で、ライデンはいまどこに?
イオ:それがマップ上のどこにもいないんだよね、何でだろう?
フブキ:訓練要塞にもいないな。
*
ライデンのスキルの上昇により、裏宇宙の小要塞すらも、だんだんと【耐久】を落としていく。
すでに各スキルのレベルは300を超えていた。
表宇宙では、ライデンの一撃に耐えうる要塞は存在しないとされていた。
しかし、帝国の科学力は侮れなかった。
帝国は秘密裏に、巨大要塞を建造しつつあり、同盟の戦勝ムードは糠喜びに過ぎなかった。
ライデンは気づかず、裏宇宙の要塞を攻撃し続けていた。




