第3話【新米艦長視点】ふたご座要塞の大遠征
俺は、フブキ。
シェンラオ同盟の新米艦長だ。
チュートリアルで、Lv.1訓練要塞に赴いたのはよかったが、訓練要塞がなかった。ほんとうだ。信じてほしい。
どういうことだろう。訓練要塞のまわりには途方に暮れた若い艦隊のすがたが多かった。
困惑していたし、行く宛てもなかった。
俺たち、新米艦長たちは仕方なく、主星に戻ることになった。
それから五日後のことだ。
同盟艦隊1000隻が投入される大遠征が立案された。その多くが訓練要塞で訓練もしていない若い艦隊だ。そのなかに俺もいた。
大遠征のワープの先陣を切るのは、エメリッヒ団長だ。切れ長の瞳に、かき上げてまとめた黒髪、頬骨が出ている顔つき、なんとなく近寄りがたいし、人望も薄そうだ。
俺は、正直自信がないままエメリッヒ団長の後ろについていくことにした。
ワープアウトした作戦宙域には、すでに無数の若い艦隊が勢揃いしていた。
〈チャット:フブキです〉
〈チャット:よく来た〉
〈チャット:歓迎する〉
〈チャット:よろしくお願いします〉
出迎えた艦長たちは、若手が多いようだ。顔ぶれを一通り確認した。目の前には、ふたご座の帝国要塞が見えていた。小惑星を改造した中型の要塞である。
俺は、戦陣に加わりながら、高まる期待と不安に胸を躍らせていた。やがて、艦隊が揃い始める。
開戦した。
エメリッヒ団長が、若い艦隊を前線に据えたのだが、何かがおかしかった。
若い艦隊なのだから、とにかく連携も取れていない。照準もぶれている。前線にいることで、ふたご座要塞の攻撃を集中して受け続けている。まるで中堅艦隊の壁にされているよう。若い艦隊たちがつぎつぎと撃沈していく。俺はみるみるうちに苦虫をかみつぶしたような顔になった。
ああ、やっぱり何かを間違えたんだ、選択肢を誤った。こんな作戦に参加しなければよかったのだ……
力が抜けていくようだ。
上も、俺たちを捨て駒にする気だったんだ。訓練も終えていない、新米たちを使って、壁にして。
「――ちくしょう。俺に力があれば!」
拳を握り、吐き捨てるように言ったとき、ふたご座要塞からのミサイルが艦橋に迫ってきていた。冷たいものが首筋を伝う。
「終わりだ……」
俺は目を伏せる。
ミサイルの弾道は、べつのミサイルに弾かれ、逸れた。後ろでミサイルが爆発した。
助かった? どうして……。
背後からミサイルが飛んできた。ミサイルは艦隊の前にある、ふたご座要塞に着弾し、爆発した。
何が起こっているのか分からなかった。俺たち新米艦長たちを救う者がいるはずなかった。すくなくとも同盟軍には。
俺は異様な巨大艦隊が動き出していることに気づいた。ぬっとワープアウトしてくる巨大艦隊の存在感に思わず後退りする。10倍の大きさはあろう。
見たことのない艦影だ。エメリッヒ団長が通信回線をオープンにした。
「ふたご座要塞の攻撃は中止する……、繰り返す、ふたご座要塞の攻撃は中止だ」
「なぜ?」
「要塞戦のエキスパート、ライデンが来たからだ」
「意味が分かりません。誰ですか、そのライデンというのは。エメリッヒ団長……」
「ええい! 私たちは作戦宙域から離脱する」
エメリッヒ団長の慌てように、驚くばかりだ。
作戦を取り止めるってことか? ありえない。取り残された無数の若い艦隊がいるんだぞ?
あまりに身勝手なやり方に憤っていると、巨大な艦隊がつぎつぎとワープアウトしてくる。見たことのない宇宙船だ。
数にして十数隻にすぎない艦影だったが、俺たちは後退した。
艦隊が入れ替わり、ミサイルの弾幕が戦場を覆う。レーザーが突き抜けるように飛んでいく。
ふたご座要塞に炎があがる。
俺たちは、固唾を飲んで見守っていた。俺たち新米艦長たちを救った艦隊は、ふたご座要塞をあっさりと沈めてしまった。
何がいったいどうなって。俺たちは呆然と立ち尽くしていた。
すべてが終わったあと、ワープして作戦宙域から消えていく巨大な艦隊たちに声をかけた。
「ありがとうございます。あなたのお陰で救われました!」
まったく返事がない。ただ時間だけが過ぎていく。
救ってくれた艦隊だ。英雄に違いない。でも、同盟上層部は知っていたはず。
彼は何者なのだ。
チャット欄は、若い艦長たちの疑問で埋め尽くされていた。
そういえば、先輩艦長たちの噂で聞いたことがある。訓練要塞は、日に四度沈む、と。
もしかして、あれほどの艦隊が訓練のために、訓練要塞を沈めていたら……
俺たちが前線に駆り出された理由にもつながる出来事を、巨大艦隊が作ったとしたら……
良くない考えだ。あまりに理路が通り過ぎる。
俺は複雑な思いに胸が引き裂かれそうだった。
――英雄なのか、それとも訓練要塞を落としたそもそもの原因なのか。
そうこうしていると、遠く帝国艦隊が光の点となって見えていた。
俺たちは、撤退準備を始めた。
この出来事が帝国と同盟の勢力図を塗り替えようとは、誰も考えていなかった。




