第20話 【ジェイナ視点】ジルデの鷹
煌びやかな黒い摩天楼、空を飛ぶたくさんのスピーダー、そのひとつによく見慣れた白いスピーダーが飛んでいく。ここは裏宇宙、ジルデ帝国の首都サーミラ。
白いスピーダーが目指すのは、ジルデ帝国司令部である。
ジルデ帝国司令部には、すでに何人かの中将クラスの軍人が彼女を待っているはずだろう。
司令部前にスピーダーを停めた少女は、ヘルメットをとると、薄水色の髪が見えた。
エントランスの警備兵に挨拶を軽く済ませる。警備兵のひとりが言った。
「ジェイナ中将。おかえりなさい」
ん、とジェイナ・ラビロウは答えた。いつもの軽い声色とは打って変わって、彼女の声には威厳が備わっている。
司令部のとある一室に、ジルデの将官クラスの人間が集められていた。
ジェイナがその部屋に着くと、いきなりピンクがかった髪色の女の子に抱きつかれた。
「ジェイナ、ジェイナ! 会いたかったよぅ……!」
まるで飼い主を待っていた愛犬のように、女の子ははしゃいでいる。そういえば、ミーナとはここ最近は無線でやりとりしている仲だった。リアルで会うのは久しぶりだった。
「ミーナ、ちょっとここ。どこだか分かってる?」
「将官級会議だけど?」
首を傾げるミーナに、悪気はないようだ。ジェイナが言った。
「TPOわきまえて」
「……はい」
しゅんと萎れたミーナを他所にジェイナは席に着く。
すでにジェイナを入れて八人の中将が席に座っていた。
がっしりとした体格の男や、胸元を大きく開いた服のお姉さん、あるいは少年のような風貌の男、そして老人など、見た目はさまざまなジルデ帝国の中将たち。彼らの視線がジェイナに注がれる。
がっしりとした体格の男、ベルダナがジェイナに言葉をかける。
「今回の領地視察、ご苦労だったな。なにか面白いものはあったか、ジェイナ」
「んー、ないかな……」
「ジルデの鷹が何を言うか」
ジェイナは興味がないふうに毛先で遊んでいた。ミーナが割って入る。
「ジェイナ、ジェイナ! でも、なんか楽しい話あったでしょ? ターミュスでさ」
「ちょ、ちょっと、ミーナ。その話は止めてよ」
ほう、とベルダナが言った。ベルダナは黙ってジェイナの言葉を待っている。ジェイナは仕方なく口を開いた。
「ターミュスで面白人材を発見しちゃった。あは」
「ジェイナが気に入ったの? 妬けちゃうな」
ミーナがうつむくと、頬を赤らめた。
そこにジルデ帝国大将ガルフがやってきた。ガルフは、赤く短い髪で、黒い瞳の武人だ。威圧感がすごい。
ジェイナはガルフを見つめてから、切り出した。
「各地の新陳代謝する要塞を破壊し、エーゼストリア領を解放している存在がいます。あたしはおっさんと呼んでいる存在です。おっさんは、要塞戦のエキスパートのようです。とにかく要塞を壊したがるの。新陳代謝する要塞の成長が追いつかないほどに……」
ガルフは両手を絡ませる。ジェイナの説明を待っている。
「あたしは、おっさんをジルデの仲間に加えたいと思っている。いいでしょ? ガルフ」
懇願するかのようにジェイナは言った。ガルフは視線を落とす。
「そのおっさんというのは、エーゼストリアの軍人ではないのかい?」
「おっさんはフリーランスよ。見たところ、所属は別にあるのかも」
「いいだろう。ジェイナ中将。その男の力、我々ジルデ帝国の礎となってもらおう」
ジェイナは微笑んだ。ミーナも同じだ。
ところがガルフがジェイナを睨み付ける。ジェイナは、何も言えなくなってしまった。
「まだ、何かを隠しているな。ジェイナ?」
「あは。バレてたか~」
ジェイナは正直に、前回のワープ時、マップにない区域を発見してしまったことを話した。
「早く言え。新たな領地だ。進軍を始めようじゃないか」
「あは。でも進軍するとさ……」
歯切れが悪いジェイナ。ガルフが尋ねるとジェイナは、
「おっさんを仲間に引き入れられないと思うんだよね? そうでしょ、ガルフ」
ガルフは太い腕を組んだ。少ししてから答えた。
「その男に交換条件を出してみてはどうだ。進軍が嫌ならば、我々の仲間になってもらう。それでいいだろう?」
ジェイナは、ぱぁっと目を輝かせた。
「いい! ナイスアイデア、ガルフ。やっぱりバリガルフ~」
バリガルフの意味はさておき、将官級会議が終わった。席に残っていたジェイナにミーナが話しかける。
「そのおっさん、ミーナに相手させてよ。ジェイナのお気に入りなら味見したいな?」
「味見ってなんだよ、おっさんはあたしのおっさんだよ。手出すなよ。身の程を知れ」
「ええ~、だってぇ。でもでも~」
「気色悪。おっさんには、あたしから話してみようと思う。そのとき来るってことでいい?」
ミーナはこくこくと頷いた。ミーナが腕を振り上げた。
「じゃあ、ジルデ帝国におっさんメンバー加入ってことで!」
「おっさんは多いよ。すでに」
「冷静だにゃあ」
ジェイナの頭のなかに大将や中将が浮かんだ。
「ミーナは美少女なので、渋いおっさん歓迎です!」
ジェイナはおっさんの顔をイメージするも、渋いとは程遠いなあと思うのだった。




