第21話 ジェイナからの誘い
イベント「無敵艦隊を撃破せよ」は続いた。
しかし、撃破できない艦隊が存在するという噂が囁かれ始めた。
シェンラオ同盟掲示板、ギリデルシア帝国掲示板、エース連合掲示板でも同様だった。
そのことをライデンが知ったとき、ライデンの目の前には、なぜかジルデ帝国の小要塞があった。
俺は、マップを確認する。マップでは、アルデバランだった。表宇宙になぜ裏宇宙の要塞があるんだ?
困惑していると、小要塞から攻撃があった。
要塞からの攻撃を容易く避け、レーザーとミサイルのコンビネーションを浴びせかける。俺の一番艦から三番艦が突撃陣形をとると、小要塞の攻撃を物ともせず、小要塞を破壊した。
――ふぅ。
俺は軽く汗を拭うと、辺りを見回した。ほかにジルデの要塞があるのだろうか? 影はないようだ。
ジルデ帝国の要塞が表宇宙に進出してきているのか。
俺の気分は重くなった。
通信回線に割り込みがあった。映像がモニターに映った。
「あは。おっさん、今日も強いね」
薄水色の髪の少女ジェイナだ。スピーダーが艦隊と並走すると、俺は、いつもの調子で答えた。
「まぁな……、おわッ……?」
とつぜん俺は宇宙船を転進させた。【絶対回避】スキルだ。素早い《《何か》》が突っ込んできた。
またしても通信回線に割り込みがある。モニターに初めて見るピンクがかった髪の美少女が映った。美少女が冷たく歪んだ表情で微笑んだ。
「神速のミーナの初撃を躱せるんだ、すごい……」
俺はこいつはヤバい感じだと悟った。俺はジェイナに向かって叫ぶ。
「おい、ジェイナ! これはどういうことだ?」
「あは。おっさん。あたしたちの仲間になってよ」
意味が分からない。
仲間?
必死に考える。しかし、出てくる答えは俺にとって認めたくないものだった。
――ジェイナ、おまえ。ジルデ帝国から来たのか?
口に出そうにもつっかえる。
俺の初めての友達だろう? ジェイナは。
そんな大した物じゃないとしても、殺し合うような間柄か? いや、確かに最初はそうだったかもしれないが……。
俺の逡巡を捉えたのか。またしても素早い何かが突っ込んでくる。ジェイナと同型のスピーダーと認識できるようになるまで少し時間がかかった。
「わたしはミーナ。ミーナ・クロンダウト。ジェイナの友達で~す。ピスピス」
ミーナと名乗る美少女は、追撃をかける。とにかく素早く、操船スキルを試されるようだ。
俺は必死に舵取りをするが、小回りの利くスピーダーに翻弄される。
仕方なく艦載機を出撃させた。
相手は俺を殺す気なのだ。俺もそういう気持ちでいかなくちゃ。でも……
ジェイナはモニターで不敵な笑みを浮かべている。
俺は、艦載機ファントムでスピーダーに追いつく。いくらスピーダーが素早いとは言え、さらに小回りの利くファントムには敵わないはずだ。スピーダーをロックしたところで、スピーダーがさらに加速して幻のように消えた。
――なっ!
俺は息を飲む。艦橋が揺れた。攻撃を受けたのか?
油断か。
慢心か。
ジェイナ達なら俺を攻撃しないと思ったのか。
俺は、砲撃の先を見る。前方はるか先に、艦隊の影がある。20隻にも満たない。おそらくジルデ帝国の艦隊だろう。ジェイナが冷たい刃のような声で言った。
「おっさん。あたしたち、この宇宙を貰いに来たの。それでね、もしおっさんがあたしたちと一緒に来てくれるなら、宇宙は侵略しないつもり。どうかな?」
「俺ひとりと宇宙? 釣り合わないぜ。それにジルデはエーゼストリアの敵だ。俺が仲間になるとでも?」
ジェイナは温度を伴った声で囁く。
「あは。おっさんは自分の力を過小評価しすぎだって。おっさんとならあたし、宇宙全てを手に入れられるよ? 来て」
甘い囁きに俺はもう駄目かも。
蠱惑的とはこういうことを言うのだろうな。
ジェイナの言うことを聞いて、降参する?
――太一ちゃん、さよなら。
あの子がもう会えないって言ったことを思い出せた。俺は、バス停であの子を見送って、蝉がもう鳴いていないことに気づいた。暗く青い空が落ちてきそうだった。
「……きゅー?」
奥で震えていたキュルルがやってきた。キュルルのつぶらな瞳が俺の腰あたりを見つめていた。
何だ? と思って腰につけてあった【ピラー】が目に映る。おい、【ピラー】が光り出したぞ。なにこれ……? なに……
――光は、ブリッジから外へ。
――宇宙へ光の翼が羽ばたく。
――翼は黄金の艦隊に姿を変えた。
「……なに?」
ジェイナがまぶしさで目を細めると、隣を飛ぶミーナのスピーダーが炎を上げて沈んでいく。黄金の艦隊から砲撃だ。
「ミーナ……! あちゃー、これヤバい感じだ。でもさ。こっちも負けていられない。撃ち方始め!」
ジェイナは、遠くの20隻の艦隊に砲撃の合図を出す。
ジルデ艦隊の砲撃は凄まじいが、黄金の艦隊も負けてはいない。
黄金の艦隊からの砲撃は鋭く、光の雨が降った。あっという間にジルデ側の20隻が散り散りになっていく。
勝機を失ったようだ。ジェイナはそう判断した。
「おっさん。あたしたち帰るね。でもおっさんのこと、諦めてないから!」
ジェイナはそう言い残して、ミーナのスピーダーと共に引き揚げていった。遠くへスピーダーの光点が消え入ると、黄金の艦隊が俺の心に語りかけてくる。
『勇者よ。私はエーゼストリア王国の聖騎士十二柱がひとり、ツァイトフェング。そなたの危機に参上仕った』
俺は【ピラー】を手にする。
そういえば、ムルンのような古い星では、【ピラー】は聖遺物を納めるものと聞いていた。聖遺物が【ピラー】のなかにあったのか?
「聖騎士ツァイトフェング。今回は助かった。またピンチのときは助けてくれよな」
「承知した」
黄金の艦隊は一筋の光となってピラーに収まった。
この様子を誰かに見られていようとは、俺は気づかなかった。とんでもない事態になるとは。




