第19話 イベント開始と思わぬパートナー
けっきょく書き込みは100件を超えた。
こんなに書き込みしてくれるんだ、俺も頑張ってぼっちプレイヤーを卒業するんだ。
装備艦隊を準備しよう。基本的に初心者という設定なんだ。イージスネオスは装備するのは止めて、M級コルベットやS級フリゲートなど、初心者でも揃う艦隊を用意した。
準備は万全だ。
イメージトレーニングも忘れてはいない。
艦隊合流して、
『ぼっちのプレイヤーです。初心者です。よよ、よろしくお願いします』
イメージトレーニングで噛んでどうする。しっかりしろ、俺。
艦隊合流からチームになって無敵艦隊を倒すイメージを固める。
だいじょうぶ。
いけるさ。
俺は自分を鼓舞した。
ミッション当日になった。
「合流中の艦隊が48あります」との表示を見る。掲示板での書き込みも注意深く確認した。
たぶん、木星に向かう艦隊があの人の艦隊で、火星はあの人、ポルックスはあの人だ……と目星がついた。
――さて、艦隊合流か。
俺は、艦隊合流を選択しようとした。
待て、深呼吸だ。深呼吸、深呼吸……
どれだけ深呼吸する気なんだ? 俺。
そうこうしているうちに、たくさんの艦隊が過ぎ去っていく。
そうだった。艦隊合流なんて出来れば、俺はぼっちを卒業できていたじゃないか。
できないから、いまの状況がある。
俺は俯いた。
中央星系にはいまごろ無敵艦隊が出撃している真っ最中だろう。迎撃するチームの艦隊。楽しそうなイベント。ドロップするアイテム……
なのに――、
俺は声をかけることすらできない――!
VRHMDを被ってから、2時間。
俺は何のためにこんな苦行を……、
くっ。殺せ! 殺してくれえ!
ゴブリンに犯される女騎士よろしく威勢のいい態度で、宇宙を漂っていた。
匿名掲示板を見ると、つぎつぎとミッションを達成したビギナーたちの報告が流れてくるようになっていた。
いまごろ、俺の書き込みは埋もれてしまっただろう。
そうだよな。
他人に期待するより前に心が折れてしまったんだ。俺は虚無の眼差しで星雲を眺めていた。
俺は一時的に別の星に行ってから装備を、元に戻した。せめて自分らしくやりたい。
初心者なんて、虚偽だ。
俺はライデン。要塞戦のライデンだ。
巨艦、イーオーリスが異様な存在感を示している。
――太一ちゃん、きょうも一人なの?
懐かしい夏の風景が揺らめく。可愛げのある顔でアイスキャンディーを渡してくれたあの子は、いまごろ何をしているんだろうか。
蝉の声も、青い空と眩しい日の光に、溶けていくよう。俺は、虫とり網を置いたのだ。
ふたりで丸太に腰掛けて、木陰で冷たいアイスキャンディーを食べた。あの日も、つぎの日も、夏の日は永遠にも似ていたはずだった……
はっと我に帰ると、遠くに無数の光の点が帯になって見えた。
イベントで集まった艦隊だ。あのひとつひとつが人間で、物語を抱えた存在だ。
俺は、帯が放つビームやミサイルの軌道を目で追った。無敵艦隊の動きも手に取るように分かる。
でもなぁ……
俺はイベントに出られないのだ。
ぼっちだから。
イーオーリスも沈黙している。無理はない。これだけの力があるのに……
とつぜん、青い光の矢のような軌道が艦隊の脇を過ぎ去っていく。あまりの速さに気後れしそうだ。通信回線がとつぜん開く。
「あは。おっさん何してんの?」
軽い声色、聞いたことがある声だ。モニターに映像が映ると、薄水色の髪の少女が笑いかけてくる。あの盗賊だ。
「ジェイナ! ……どうしてここに?」
「あは。なんか、適当に宇宙でワープをしてたら、ここに出ちゃった。えへ」
思わぬ来訪者に、俺は動揺を隠しきれない。
「おっさん。一人なの?」
図星だ。俺は頷いた。
「ああ、実は……」
ジェイナに挨拶のつもりで話していたら、これまでのことが、止めどなく溢れてしまった。相手は年下の少女だ。恥ずかしい。ジェイナは俺を見つめて言った。
「じゃあ、相手の艦隊。あたしらでやっつけちゃおうよ」
――え?
俺は驚きのあまり、何も言えなくなってしまった。
ジェイナの乗るスピーダーは、俺の艦隊と無理矢理に合流した。まるで羽が生えたみたいに俺たちは飛んでいく。
「おっさん。きょうは元気ないね?」
「そんなことないぞ。そんなことないです、はい」
「なんで敬語? ウケるー」
しかし俺の目には涙が浮かんでいた。
光の帯のなかに入っていくと、飛んでいた光の点がつぎつぎと俺たちから遠ざかっていく。無理もない。巨艦に戸惑っているか、恐れているかのどちらかだ。
無敵艦隊が見上げた宇宙空間に浮かんでいる。数は五つ。艦影は、L級フリゲートに近い姿だ。
――なるほど、あれか。
ジェイナのスピーダーからレーザーが飛ぶ。俺もイーオーリスに指令を出す。レーザーが命中して無敵艦隊が炎を上げて沈んでいく。
「あは。おっさんやるじゃん」
無事にアイテムがドロップした。月夜のオオカミ着ぐるみだ。
俺はイベントの余韻に浸ることもなく、その場から離脱した。ジェイナのスピーダーが合流を解除する。
「おっさん、またね~」
ジェイナは変なやつだけれど、信じてもいいのかもしれないな。
キュルルに月夜のオオカミ着ぐるみを着せてやると、キュルルは嬉しそうに尻尾を舐めた。




