第18話【運営視点】未確認事象、継続中
眼鏡をかけた新人スタッフが難しい顔つきで画面を睨んでいた。
仕事場には、好きな騎士姿の美少女のフィギュアがいくつも並んでいる。ウインナーケースはもちろんのこと、フィギュアへの愛が詰まった職場だ。
後ろを振り返るとベテランスタッフがコーヒーを啜っていた。
「飯島先輩。どう思いますか?」
ベテランスタッフは状況について考え込んでから言った。
「今朝、中央星系に異常な数の艦隊が描画されて、一時的にシステム全体で遅延が起こった」
「プレイヤーたちは気づいていないみたいですが……」
ベテランスタッフは溜め息をついた。
「いや、やっぱり時刻は市場にだって影響しうる要素だし、問題だよ。千歳。この件で確認しておきたいことあるんだけど……」
「例の10万4000隻のことですよね?」
「そう、この艦隊のログ。所属も分からないからシステムが自動生成したものっていうのが有力だ。前に隠しマップの話をしたときに、GOBOの中枢システムが作った幻の話を覚えている?」
新人スタッフは口元をやや開き、思い出す。そんな話をしたことがあった。たしか――
「〈ライデン〉。その画面にいるよね?」
新人スタッフはベテランスタッフに問われて、背筋に冷たいものが走った。
「やっぱり、〈ライデン〉が関係しているのでしょうか? つまり隠しマップから増援を呼んだってことですか? それって宝具みたいなものじゃないですか」
「他社の作品を無闇に仕事場で言うんじゃない」
新人スタッフは足元を見た。
「……すみません。でも、こんなことチートですよ」
「でも〈ライデン〉本人が工作をしているログは見つからない。たびたび、隠しマップに飛んで、要塞を壊して、交易をしている。実に模範的なプレイヤーだよ」
「ん~! でも何かありますって……」
ベテランスタッフが腕を組んだ。
「ただ、チーフに話してみようと思うんだ。GOBOの中枢システムが何をしたがっているのか。どこへ向かおうとしているのか。スタッフ全員が考えないと……」
「これは、予兆なんですね?」
「そうだ。スタッフ側で考えておけっていう石田先輩の意思だよ」
石田先輩――、GOBOのシステムを実質一人で設計した天才ゲームエンジニア。去年亡くなった。
とつぜん、新人スタッフが顔を綻ばせた。
「やっぱり、ここはイベントを発案するべきですよ!」
「いろいろ誤魔化そうとしている気がするが、いい線だと思う。よし、チーフに掛け合ってみよう」
「はい!」
こうしてスタッフたちは精力的に働き始めた。3ヶ月後、大型イベント「チームで無敵艦隊を撃破せよ」が開催された。
*
イベントの開催? こんな中途半端な時期に珍しいな。
俺は、イベント概要をさっと見ている最中、限定ドロップアイテム「月夜のオオカミ着ぐるみ」に目を奪われた。
キュルルに着せたい気持ちが湧き上がってくる。きっと可愛いに違いない。
――で、問題はイベント内容だ。
チームで無敵艦隊を撃破せよだって? 俺はぼっちプレイヤー、ライデンなんだぞ。
始まった途端からすでに無理ゲー臭がしている。
俺は迷った挙げ句、あろうことか掲示板に書き込んでいた。
*
【GOBO】GOBO初心者交流スレ Part.57
22:ぼっちのプレイヤー
初書き込みです。冬の大型イベントに誘うチームがいなくて、寂しいイベントになりそうです。
23:名無しの商人
なんなら時間決めて、みんなで集まろう。どの勢力? 場所と時間を書き込んでいって!
24:孤独の職業軍人
連合。木星。20時。
*
つぎつぎに書き込まれていく情報を見つめる。
すごい量の書き込みがある。俺のマウスを動かす手は震えていた。




