第14話 商人ライアンとのふたつの約束
ライアンという男が言った。
「入艦許可をいただけますか?」
普段なら許可しないが、武装もしていない様子だし、いいだろう。俺は商船から伸びてきたステアをハッチに接続させる。中から現れたのは、身なりのきちんとした紳士然とした男だ。鼻筋が通った美男で肌の色は白く、滑らかだ。男はふたたび名乗った。
「どうも。私はファウマン商会の者で、ライアン・シューと言います」
ファウマン商会と言えば、シェンラオ同盟内の大手の商会だ。交易をしている者ならば、自然とその名前くらいは聞くだろう。
「ライデンさま。今回は折り入ってお話ししたかったことがあります」
初めて会うのに、何を言ってくるつもりだろう?
ライアンは目を細めて微笑む。
「ここに、9つの惑星での、ライデンさまの交易権利停止の書面があります。カペラ、シリウス、ポルックス、プロキオンなどです。今回はその書面をライデンさまにお渡しするために参りました」
一瞬なにを言われたかわからなかった。交易権利停止? それはつまりどういう意味だろう。
言葉に詰まっていると、ライアンが続ける。
「あなたの市場での振る舞いに、諸惑星の長がストップをかけた形になります」
諸惑星の長が承諾することなんて、ありえない。何か裏がある。俺はライアンを睨む。
「おっと、これは話し合いの場です」
何を議論しようというのだろう。俺は震える拳を握り直した。
「ライアンさん、それで?」
緊張感が走る。ライアンはふたたびニッコリと笑う。
「交易権利停止の書面をこちらで破棄する代わりに、2点の条件を飲んでいただきます」
来たな。何を要求してくるつもりだろう。
「ひとつめは、ライデンさまの商売に私たちも参加させてほしいのです」
なるほど? つまり競合からパートナーになることで、俺の独占的な振る舞いを阻止しようという魂胆か。もうひとつは何だって言うのだろう?
「ふたつめ。これは同盟軍からの指令を承諾してもらいます」
同盟から? 意外な展開だ。
「帝国の新造要塞を5つ破壊してほしいとのことです。バルモーダ、オケアヌス、アークイッド、ソロモンティウス、ガリウダ。これらが帝国の新造要塞として同盟本部が掴んでいる情報です」
要塞を破壊することは吝かではない。俺はライアンの瞳を見つめた。
「ライデンさま。以上の条件を承諾してください」
「ひとつめは、どういった契約になるのかな?」
ライアンは視線を下に這わせた。
「ライデンさまの商品を、私どもで買い取り、私どもの交易ネットワークの星に輸出するのです」
「なるほど、中継貿易をするわけですか」
「いかにも。私どもはライデンさまから手数料をいただきます」
こいつ、意外と抜け目がないな。手数料がどれくらいなのか分からないが、悪い話ではない。
商いとして魅力がある。
俺はこくりと頷くと、答えた。
「契約を結びましょう」
書面にサインすると、ライアンが手を差し伸べてきた。俺たちは固い握手を交わした。
「ふたつめについて。良いでしょうか?」
俺はライアンに尋ねる。
ライアンが真剣な面持ちで言う。
「同盟は、同盟内で把握できていない巨大な戦力をそのままにするつもりはありません。何らかの形で同盟に貢献していただくのが正しいというのが、同盟側の意向です」
不思議だ。同盟側の意向を商人のライアンが伝えてくるなんて。ただ、ファウマン商会は同盟内でも力がある。同盟の意向にも詳しいのかもしれない。俺は、すこし考えてみる。
「仮に5つの新造要塞を壊せたとして、それが何になるっていうんだ?」
ライアンは鋭い眼差しで答えた。
「5つの新造要塞は帝国の勢力圏をさらに広げるための物と聞きます。要塞建設には、帝国の経済力が必須です。同盟は負けるわけにはいかないのです」
つまり、こういうことだろう。
帝国の経済力の象徴である新造要塞を破壊することで、同盟の力を誇示し、同盟経済をさらに勢いづかせるのだ。商人にとってこんなにうまい話はないはずだ。
「なるほどな。俺を使って、同盟は宇宙内でイメージをアピールしたいんだ」
「平たく言えば、そうなりますね。では、承諾してくれますか?」
「待ってくれ。要塞は壊す。中継貿易も承諾する。ただし、ライアン。あなたには、少し話しておきたいことがある」
「……なんでしょう?」
「同盟の現体制では解決できない問題を俺はいま抱えている。いずれ、俺を手伝ってほしい」
ライアンは眉根を下げて、肩をすくめた。
「あなたのやりたいことすべてに応えるわけではありませんが、いいでしょう。何なのですか?」
俺はライアンにエーゼストリア王国について話した。
ライアンの顔つきが変わった。
「同盟も把握していない星、つまり市場があるとは……」
「そうだ。俺はエーゼストリア王国を再建させる。そのための足掛かりを同盟の現体制につくってもらう」
ライアンは、不敵な笑みを浮かべた。
ライアンがステアに足を運ぶと、俺は彼を見送った。




