039 ちょっぴり進んだ二人の関係(ジュリアンの視点)
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「だっだから、ジュリアンから手渡されていた親書はちゃんと渡しておいたから! 安心して!」
ここはデイルード市の都市庁舎の中にある都市長室になる。僕、ジュリアンの職場である。
今こうして僕の前にいる人物は、僕の(仮)婚約者のハルカだ。
ハルカは毎日、僕の仕事ぶりをチェックに来ていた。(仮)がついているというのも、僕との対等な立場が必要なために父上が名分上与えたもので、その実態は僕の監督官なのだ。
見かけは10歳の子供だからといって侮ってはいけない。僕はここの都市長となった後、ハルカに幾度となく叱られて続けているし、僕もこの少女のことには(弱味をにぎられて)逆らえないのだ。
けれど僕を心配している気持ちがよく伝わってくるし、ハルカとは不思議なシンパシーを感じることができていた。こんなことはハルキ兄のとき以来のことだった。
ノームの住むイプシースの森に行ってくるので4日以内には戻ってくるとかいっておきながら、あちらが気に入ったのか、しばらくはここに戻ってこれないと連絡をしてきたのが今から1ヶ月前のこと。
そのときに託していた親書を無事に届けたということを、こうしてお知らせにきてくれていた。
しかしこれは一体どうしたことなのだろうか。おかしなことに、全然僕の顔を見ようともしないことだ。
「おい、ハルカ」
「なっ、なに? ワアッッ! 近っっつ! 近よるな!」
ボボボンッ!
僕がハルカに近づくと同時に、その顔がもう爆発せんばかりに真っ赤になるのだ。
本人もそれを自覚しているのか、慌てながらも顔をまた横に向けて、目と目を合わせようとしないのだ。
「ほお! これはこれは、、、」
僕の隣に立ってこれを眺めていたルスタが、思うところがあったのかそう言葉を濡らしていた。この知恵者のルスタがそんなことを言うからには、なにか気づいたことがあるのかもしれない。
しかし僕にはまだ、ハルカがこんなことになった理由がとんと掴めていないのだが。
僕がわからないのは悔しいので、僕はハルカをより観察すべく、さらにハルカを見つめることにした。
「わっ、わわっ! な、何をそんなに見ているんだ、や、やめろ! 恥ずかしくなるだろ!」
これで僕がわかることは、反応に敏感なところがあるということだけだ。
ハルカの腰まで伸びた、精巧な銀糸を集めて作られたかのようなサラサラの髪の毛は、今日はやけにオドオドとして揺れていることが多い。そのことが落ち着くことのできない動静を物語っている。
傍から見ても、さきほどからよほど落ち着いていられないのか、モジモジとして髪の毛の先でクルクルと遊んでいたり、いかにも所在なさげといったかんじだ。
うーむ、どうしてハルカがこんなおかしな事になっているのか、僕はとんと見当がつかないで困っている。とりあえず僕は先ほどのお礼を行っておいた。
「えっと、その、親書の件は実に助かったよ。返書がなかったことはちょっと残念になるけどね」
僕はがっかりとしてしまった。というのも、数百年鎖国していた相手から返書でも貰えていたらと思うと、それが僕の都市長としての評価に大きく貢献することになるからだ。
自分で言うのも何なのだが、これまで国内外から失点ばかりで評価されていた僕の立場も、この一件で成功を収めれば悪い評価をチャラにできたと思うと、がっかりとした気分となるのもしかたがない。
ションボリしていた僕を見たハルカは、急に慌てて僕に近寄ってから、なにかワタワタとしてからこう言った。
「で、でもね! 返書が貰えなかったのは、外界のことをよく知る人物が国内にいないのが理由なんだって。ノームの国王様もあの親書を読んで、次官級協議あたりから始めたいとか言ってたし! おい落ち込むなよ?」
「えっ! それではあの親書はあちらで開封して読んでいただけたのですか! これは素晴らしいニュースになりましたよ、ジュリアン様! あちらも前向きに検討されている様子ですし、こちらからも次官級協議の準備をしておきましょう! ハルカ様、本当に有難うございます!」
ルスタは今のハルカの報告に、小躍りしそうなほどの嬉しさを体現していた。僕の評価アップはルスタの評価アップにもなるわけだし、この喜びようはよくわかる。
ルスタは僕の前に立ってハルカを大絶賛しつつも、器用に片方の手で僕がいる机の上に、折り畳まれたメモのようなものを、ハルカに悟られないようにして置いていた。
どうやらこれを読めということなのだろう、それを何気ないかのようにして拾うと、それから机の下に降ろしてから開いて読んで見る。
"ホテルのお風呂にハルカ様をお誘いしてみてください。断られたらひどく落ち込むかんじで演技をお願いします"
なんだ、これ?
意味がよくわからん。
ハルカは僕が呼んでなくともいつも勝手にやってくるというのに、今わざわざ誘ってあげる理由がよくわからない。
けどルスタの言うことだ、これにはなにか理由があるのだろう。
「、、、えっとハルカ? 今日はいつものように僕のいるホテルのお風呂に来るのだろう? 待っているからな」
ピーーーーッ!
「!? に、にゃにっ! なんだって!」
急いで喋ろうとして口を噛んでいた。その後でこちらがびっくりとするほどにカチコチに固まったのだ。
「そっ、そんな、そんなこと、ムムリ、ムリだから! 恥ずかしくて絶対にムリだからっ!」
「はああ? 今までは僕が嫌がっていてもハルカのほうから押しかけていたのに? ならもういいんだな?」
「そっ、それは、、、うう、お風呂、、、大浴場貸し切り、、、ぐ、、、で、でも」
ハルカが何やら一人で葛藤を始めていた。
それを見たルスタが確信的な笑みを作って、それから僕にアイコンタクトを寄越してきた。
えっとなんだったっけ? まだやることがあった?、、、ああ、断られたら落ち込むかんじになれと?
取り敢えずは言われたとおりにしておくか。
「、、、一緒に入れなくなるのか、それはとても残念だな」
僕が大きなため息をついてションボリしてみると、ハルカはこれに気づいてまたワタワタとし始める。
「な、何をそんなに残念がっているんだ。わ、私とお風呂に入れなくなるのが、そんなに寂しいのか?」
「うん、寂しいなー(棒)」
すると何かを思い出したかのように、こいつは孤独、、、そっか、と言った後に妙な思案顔になった。
「、、、わかった。いいよ夜にホテルに行くから。べ、別にーなんとも思ってないし? ちょうへ、平気だしー」
そう言いながらもカチンコチンとなって、玩具の兵隊が歩くようにして部屋の出口に消えるハルカだった。
「なんだ、あれ?」
僕は今回の仕掛け人のルスタを見ながら、まだよく分からないといった顔でそう言ってみた。
「最後にはヤダと言うものかと思ったのですが、、、これはアリというものか。まあ大体はよく分かりましたしね」
「ん? 何を分かったのだ?」
「そうですね、、、ハルカ様もようやくにお子様を卒業なされそうだ、というところですかね」
「あれは子供だろ? まだ10歳ではないか? 僕のあの頃はかなりのワンパクだったと思うぞ」
「男はそういうものでも、女は大人になる年頃になるんですよ。てゆうかジュリアン様も、そういったことをもっと勉強してください」
ルスタは、せっかく相手が、、、なのに、ジュリアン様は、、、ハアー、といった様子を僕に見せていた。
☆
☆
☆
ガラガラガラッ
「ううっ、、、入るぞ」
「おう。いつもよりも遅かったな」
僕はすでに体を洗い終えてしまって、お湯に入ってしまっていた。
いつもはこの浴場に、僕よりも先にきていることが多いはずのに、今日はかなり珍しくもあった。
ハルカは体を洗うために、洗い場へと向かっていった。
テテテーと走っていくと、椅子に腰掛けて一心不乱でボディを洗いまくっている。
その姿を眺めて見ていて、小さな子供は可愛いなと思った。
こうして一緒に入るようになってから3ヶ月ばかり過ぎたが、最初の頃はドキドキとしていたことが今では懐かしいと思うようになった。というのも相手は子供のツルペタのボディであるわけで、男を劣情に導くにはまだ到底叶わないものがそこにはあった。
その内に僕も平常心を保つ手段を上手いこと考えついた。ハルカを妹のポジションに当てはめることだった。年の近い妹が僕に預けられてお風呂に一緒に入る感覚である。これはとてもよいアイデアだった。実際に上手くいっている自信はあった。
ジャボンッ
遠くに水音がした。
目を瞑って回想をしていたところで、ハルカがお湯に入ってきたようだ。
「ジュリアン、、、その隣いいか?」
「あ、うん」
いつもはそんなこと聞かないで隣にくっついてくるのに。それにいつもよりも距離が離れている?
僕はその距離感を少し寂しいと思った。
「、、、」
会話もなかった。
いつもはハルカからどんどん話しかけてくるのが常なのに。僕は流石に心配になって、何か話しかけなければと思った。
「、、、あちらでは何かあったのか?」
ハルカがその言葉を聞いて、ピクンッと動いた。
それからチラチラとこちらを盗み見るように僕の顔を何度も見る。
それから何かを思いついたのか、うーんと唸ってから、やがてハッとしたような顔になった。
「、、、考えてみたら、あれはただの夢だった。現実ではないことだったんだし。、、、あんなに慌てて私はどうしていたんだろう。アッハッハッハ。ほらこんなに近づいても、別になんともない」
急に笑い出したハルカ。うん、どうやらいつものハルカに戻ったようだ。よかったよかった。
「さすがにずっと入っていたから、僕はこれでお湯から出るよ」
ザバァーーー
僕は近づいていたハルカの目の前で、勢いよくお湯の中から立ち上がった。
「、、、キ、、、」
「ん? キって?」
横向きになっていた僕は、今度はハルカの正面に体を向けた。
「~~~✕△□凸凹!っ!」
この後でハルカの大声の悲鳴が大浴場で響き渡り、僕はとても恥ずかしい思い出を作ることになってしまうのだった。
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