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038 あんたもあたしも変わらない(イプロンベスの視点)

魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー




ドドドーーーン




ガラッ


ガラガラ


ガラガラッ




少し遠くの方で、建物が崩れている大きな音が聞こえてきていた。


その音とそれが起こした地響きがきっかけになって、私は眠りから覚めることができたようだった。




「、、ス、大丈夫か! しっかりしろ、エリザベスッ!」


誰かが私に、一生懸命に呼びかけながら私の体を揺さぶっていた。そうしたことなどから、私がこれまで意識を失っていたと、知る手掛かりを与えて貰うことができた。


記憶にはないけれど、もしかすると私は倒れることなどを起こしてしまい、その間に気絶していたのかもしれないと思った。




そうして何度も呼び掛けをする相手に、尚も体を揺さぶられているうちに、私の頭も完全に覚めてきたようだった。


「う、、、ーん、、、」


「気がついたのか? 、、、ああ、よかった」




「あ、れ? ここに、どうし、て、ジリウスが、いる、の? 、、、それに、なんで、こんな、ことに?」


目を開いて今の状況を確認してみると、私の体はどうやらこれまでの間、ジリウスが片膝を立てた場所に寄りかかっていたようだった。 




ジリウスは、私が意識を取り戻したことから安堵の表情を見せると、すぐ様に私の背中に回していた自分の腕を持ち上げたので、それは必然的に私の顔の位置が、ジリウスの顔の側へと近づくことになった。





「ワワッ。、、、えっと、よくわからないけど、取り敢えずありが、、、ン! ング、グゥッ!」


顔同士が近すぎているこの状況に、とても気恥ずさを感じてしまった私は、話しかけてみることでそうした気持ちを彼に見せまいとした。


しかしその振る舞いが彼に隙きを与えることになってしまい、無防備になっていた私の唇は、彼にたやすく奪われてしまっていた。




最初に唇同士が触れた瞬間は、私はただ呆気にとられているばかりになっていた。




唇はそのまま塞がれたままで、閉じていた彼の両目がやがて見開かれて私を見つめると、その眼差しを真っ直ぐに受けとめているうちに、その瞳に宿る彼の恋焦がれる熱い愛の思いが、やがてこちらへと伝染するようになった。




そして彼の両目が再び閉じられると、彼の唇から出た舌が私の唇を割って侵入してきた。するとどうしたことか、私の全身は電気が走るような感覚が巻き起こっていた。




ンチュンチュ


ンチュンチュ


ンチュンチュ


す、すごい。彼の舌が動かされる度に、私の脳内はそのたびに反応が起こってしまう。




「はあっ、、、ふぅぅん、、、」


ようやく彼の唇が離されてみると、お互いの口の周りは唾液だらけでベトベトだった。


私の体はすでにとても熱く火照っていて、力が入らない状態になっていた。




「愛しているんだ、エリザベス。俺は君を、君だけを愛している、お前だけを愛しているんだ!」


「ふぁうぁ、、、はい、、、私も、、、、、、愛して、ます」


流れに任せている私は、自分が一体何を話しているのかさえ、正直わからなくなってしまっていた。







ドドドーーーン!


その時また大きな音を起てて、近くの柱が倒れてきた。




思い出したわ。


ここはノームの大王国で、そこに魔王軍が攻め込んできていた。


突如の、完全にこちらの虚を衝いた敵の侵攻は、千年王国と讃えられていたこの王都を、今まさに葬らんとしているのだ。


私の父親や男兄弟たちは、すぐ様に各所の重要拠点に赴いて防戦に向かったけれども、王宮がこの有様になっているなら、恐らくは防衛に失敗してしまったのだろう。




私も気絶する前までは、この大王国の王女としての責務を果たすべく、この王宮で防戦に参加していたのだ。


そして絶望的なまでの戦いの中で、私の命もここで潰えることを覚悟していたのに。


でもまさか、そうしたときに、ジリウスがきてくれるなんて思っても見なかった。


彼はこのノームの大王国から永久追放されていた身で、今生では二度と会えないと思っていたから。




かつては私の許嫁だった人。


この世界では英雄の称号を持ち、彼はその才能で幾度となく魔王軍を退けていた。


でも敵だって馬鹿ではない。ノームの大王国が一人の英雄によって守られていると知れば、彼をどうにかしようと搦手で仕掛けてくるのは当然のこと。


国民たちからは王族よりも人気が高かったジリウスは、敵の流した噂で追放されてしまった。


だからこの大王国が滅んでしまうのも、それは身で種をまいてしまったことで当然の結末だった。




「なぜ、、、貴方はここにいるのよ、、、」


私はジリウスを愛していた。だからこんな場所で再会したくはなかった。ここに彼がいることは彼が死んでしまうことと同じだから。


「俺はお前を愛しているんだ、一生離さないと誓っていたはずだぜ。、、、こんなときだからこそ、君を迎えにこれたんだ。魔王軍もたまには良いことをしてくれるものだな」


彼はこの状況をブラックユーモアにしてしまい、ニカッと笑っていた。




ああ、こんな人を愛せてよかった。


できうるなら、この人と共に家庭を築いて幸せに暮らしてみたかった。


でもそんなことは、もう夢の中で実現するしかできなくなってしまった。


この状況では、次に見られる夢を見るチャンスもないわけだけど。




でもジリウスは、私の人生最後に、こうして共にいてくれる。


もうそれだけでも十分、とそう思っていたときだった。




「エリザベス、お前はなにをそんなに悲壮な顔をしてるんだ。俺の彼女ならいつでも笑顔でいろよ。あ、もしかしてここが俺たちの最後になるとか思ってんのか? 残念だな、それはハズレだ」


「えっ、でも、、、もうどこもかしこも魔王軍に囲まれているのよ、、、助からないじゃない?」


またもや、ニカッっと笑うジリウス。


すると彼の大事なものが入っている腰のベルトについている小さな革のケースから、彼はひとつの指輪を取り出した。




「、、、プロポーズの指輪にしては、あまり品の良いものではないわね」


「ハハハハッ、そんな皮肉が言えるようなら元気になったってことだな。いやそちらの指輪じゃないけど、これは先日、俺がイプシールの森に住んでいるウッドエルフの王様から貰ったものでな」




それを私の左薬指にはめ込むと、その指輪は不思議なことに私には大きいサイズだったのに、それは直ぐに私の指にピタリと合うサイズに変化した。




カチリッ


ジリウスが私のはめられた指輪の宝石を回すと、そんな音を出していた。


すると、抱きかかえられていた私の身体の周りにだけ、不思議な光が輝くようになった。




「やっぱりこれは一人用だったか。しかたがない、しばらくはお別れになる」


「えっ? どういうことなの?」


「時間があまりないから質問はやめてくれ。とにかくいえることは、君は今からイプシールの森のウッドエルフたちの王都へ飛ばされるということだけだ。あちらについたら、ジリウスの嫁だとか説明すればわかってくれる。もう時間がないな、、、愛している。また迎えに行くよ」




私を包み込む光はますます強くなっていく。この光が、ジリウスと私を再び別れさせるものだということはすぐに理解ができた。


「、、、きっと、きっとよ。もう、わたしを離さないで! 私を一人にしないで! 私にはもう家族は、、、あなただけなの! 私も、、、あ、愛してます、、、」


「俺もさ。きっときっとだ。俺がそちらにつくまでせいぜいめかしこんでおいてくれよ。なにしろすぐに結婚するんだからな。おっと、、、またな!」




光が強くなりすぎて、彼はもう、シルエットしか見えなかった。


また笑ったのね。


そんな感じがする。


あなたがすることはなんでもわかるんだから。


☆


☆


☆




「ああ、よく寝ていたようだね」


そこは、祈りの塔の最上階にある、あたしのベットだった。




「久しぶりに、あのときのことを思いだしちまった。あの子に与えた記憶なんだから、私も夢で追体験でもしちまったのかね」




まったくあのジジイ、いまじゃどこへ彷徨い歩いているんだか。


でもあんたはそれでいいよ。そういうあんたを好きになっちまった私の負けさ。


あんたは私を愛してくれているってことに、変わりがないことはあたしは知っているんだ。


あたしがあんたを愛していることをあんたも知っているし、それにも変わりがない。




だがそろそろ帰ってきてほしいねえ。


あんたは今どこにいるんだい?

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