036 神からのメッセージ
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「これは一体どういう事なのじゃ!」
イプロンヌは腹を立てていた。朝食を終えたあとで、今日は湖へ遊びに行こうとした矢先に、イプロンベス様からの使いと言うものが現れて、こうして祈りの塔へとご招待されてしまったのだ。
「ああ、すまなかったね。でも用事があったというのはヌーラ、お前のほうじゃないんだよ。ハルカ、あんただけだったんだ。使いにはそう言っておくのを、うっかりと忘れていたのは悪かったね」
まったくじゃ、これから楽しく湖へ遊びに出掛けようとしていたのにと、すでに水遊び用の水着の格好をしてケンケンと文句を言っていた。
そのイプロンヌに、そう言えばあんた、遊んでいてばかりで最近は修行のほうを怠けていると聞いているが、きちんと真面目に続けているんだろうね? と釘を刺されるや、ううっわかっとるわい、と狼狽えたりしている二人のやり取りを、俺はしばらく見ていることになった。
側にいたメイドさんたちが、皆ニコニコとこの様子を眺めていた。イプロンベス様はうっかりとは言っていたけれど、もしかすると今日もイプロンヌの顔を見たかっただけということなのかもしれない。
「それで私に用事って、何なのでしょうか?」
「そうだったよ。なんでもあんた、"神々に愛されし者"じゃないかと、あっちでは疑われているそうじゃないか。そのことに間違いはないのかえ?」
「そうですけど、、、あれれ? その話はヒミツで、それを知っている人は冒険者ギルドのギルド長だけなのに?」
俺の秘密を話したといった心当たりになるとカールさんしか出てこない。
「そうだよ、考えても見なよ。なぜそこのヌーラが特別免除コースで使っていた、あたしの免状がデイルード市で有効になったんだい? それはあたしの開いている魔道塾が、そこの冒険者ギルドで公認されているということじゃないか。そうしたパイプが元々あったということなのさ」
「あ、なるほどです」
特別免除の際にイプロンヌが取り出しして見せていたあの免状は、どうやらここの魔道塾のものらしい。それで銀製のカードを受け取れたことも、これで納得がいった。
「まあこの話はさておいて、あたしも魔術に関わっている者として、お前のことには大変に興味がある。またカールからも、ハルカがこちらに来ることでもあったら、よく調べてくれと頼まれてもいたんだよ」
イプロンヌが冒険者ギルドで冒険者カードを作りに行った時点で、すでにこちらへの連絡が行われていたのだろう。イプシースの森にイプノーム王国が建国したのは約150年前のことだ。たぶんその時から情報のやり取りは密かに行われていたと見るべきなのだろう。
「どうやら用があったのはハルカだけのようじゃな。わしには関係がなくて良かったわい! よし、ハルカはここでのんびりと過ごしているがよいぞ! フッハッハッハッハ!」
「ハルっちには悪いけんど、今日はイプっちのほうについていくだよ。水ん中さを泡で見る魔法なんて今からわくわくだな!」
「水の中にいる魔法のことじゃな! 大きな泡に入って楽しむことができるものじゃ。ではさっそく湖に遊びにゆこうぞ!」
「そりゃ楽しみだやな!」
こうして二人は駆け足で執務室を後にした。
「あれれ? 私一人が取り残された?」
用事が終わるまで待っているという選択肢を見せなかった二人を見て、俺は一人でそうボヤいてみせたのだった。
☆
そこは祈りの塔の最上階にあるさらに上、要は屋根に当たるドームの中に俺はいた。
複雑な紋様が刻まれている大きな背もたれがついた石造の椅子が中央に置かれており、その椅子の周りには、たくさんの石造のベットが、椅子を囲むようにしてたくさん置かれている。
椅子の前には石台があり、その上には大きなオーブが置かれていた。全体が僅かに明滅を繰り返しており、それが使用可能なものであることが見て取れた。
「あんたはそこで横になってな」
イプロンベス様にそう言われて、椅子に一番近い位置になる石造のベットに俺は横になった。
「カールにも頼まれているから、先ずは魔力スキャンのほうをしておこうかね」
椅子のほうにイプロンベス様は腰を掛けると、オーブに向かって呪文を唱えた。するとオーブは起動スイッチが入ったように明るく輝き始めた。
ベットを囲む四角形の光の壁が現れると、俺の体を精密検査するためなのか、平面の光のセンサーが上下左右で何度も往復を繰り返していた。それが30分ほどかかって終了した。
「あんたの魔力数値がようやくわかったよ。、、、とんでもない数値だよ。でもそれはわかっていたからね。、、、さてと次が本番になるよ。あんたに"神々に愛されし者"の資格があるのなら、これからすることでなにかが見えてくるはずだよ」
「、、、危ないことをするわけじゃないですよね?」
「なにそう心配することはないはずさ。ただ神からのメッセージを受け取るだけのことなんだ」
「メッセージですか?」
「“神々に愛されし者”なら皆が受け取ることができるものさ」
ブウウウウーン
オーブがこれまでとは違った光を放ち始めた。いくつもの色彩が目まぐるしく変わっていく。
オーブから放たれた光線が、ドームの一番高い場所にある下へ向いていた避雷針のようなものに繋がった。
次にオーブからは、俺の寝ていた石造のベットにともう一本の光線が走った。
俺とオーブと天井、こうして繋げられた光線は、急激に太く交わっていき、光量も次第に目を開けていられないほどになった。
「さてとどうなることやら。よおく見て悟ってきなよ」
☆
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目に映っているあらゆる全てのものが、何一つ残さずに悉く燃えていた。
初めは焦点が定まっていなかったので、燃えていたものが何かよくわからなかった。
炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎
炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎
炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎
炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎 炎
俺の周囲はどこを向いてみても、そこにあるもの全てが強い炎で舐め尽くされていた。
そこから次第にゆっくりとフェードアウトしていくと、これまでに燃えていたものの正体が、ようやく理解できるようになっていた。
都市。
とても大きな都市だった。それが隅から隅まで余さずに燃えていたのである。
その大都市がいつまでも燃え盛る様はなんとも異様なものだった。炎の揺らめきが、巨大な炎の怪物がそこにいるような錯覚を見せていた。その尾がとぐろを巻いて動いていた。
突然に空の彼方へ届かせるように吹き上げる火炎の柱が舞い上がった。火災旋風のようだが、それはまるでドラゴンの首が空へと向き、ブレスを吐いている様を見ているかのような錯覚だった。
「なぜ、、、何故なんだ!」
その叫び声は突然に聞こえてきた。
若い男の叫んだ声が炎よりも響き渡り、俺の耳元へと届いていた。
声のする方向を見ると高台に建つ人物がいた。屋根の部分を殆ど崩落させてはいたが、それは堅固な建物だったことが見てとれた。
その辺りの一帯は無事の様子で、この都市で唯一生存をしている若い男が、そこから空に向かって何かを声高にして叫んでいたのだ。
「何故こうなってしまったのだ! 何を呼び寄せたんだ! くそう! あんなものを呼んではいない! あやつらめ、、、畜生!」
若い男がそう叫びつつ見つめていたものは、とてつもなく大きな黒面の顔の存在だ。
それは黒煙が集まって形成した塊だった。巨大な人面のカタチを保ちながらニタリと笑っていた。
"タラヌ、、、タリヌ、、、"
空気を震わすような大きな声が、その場に聞こえてきた。
"モットダ。モットヨコセ"
黒面の顔は、若い男にそう告げていた。
「お前は何者なのだ! 答えよ!」
若い男は怯えてはいたが、勇気を奮い起こしてそういった。
黒面の顔が大きくなったように見えた。否、それは若い男の近くへと移動していたのだ。
大きく見えるようになった顔にある双瞼の部分は、不気味としか思えない青白い炎が爛々として明かりを放っていた。そして今のこの状況を楽しんでいるかのように、なお強い揺らめきを発していた。
"ワ、レ、ハ、、、ワレハ!"
「ヒッ、ヒィィィィッ!」
その目の窪みにあった青白い炎が突然、激しく燃え盛るようにして巨大になり、さらには口を大きく開いて若い男を襲った。
その口で若い男を飲み込むのではないかと思えたとき、突然にめまいが襲った。
グニャリ。
画面が中心点で吸い込まれるようにして、やがて真っ暗となってしまった。
パッ
場面が変わっていた。
ズドッ
「カッハ、、、」
現れたのは先程の若い男が背を向けた瞬間に、男に斬られて血を流しながら倒れていく瞬間だった。
「あら、あっけなさすぎですわ」
「手応えがあまりにもなさすぎる。この大惨事の結末が、これで終わってしまうなんておかしすぎる、、、」
"クックックックッ。
ハッハッハッハ。
ソノオトコ、シマツツケタ、カンシャスル。オレイヲウケロ"
「嘘! これはどうしたことなの? 召喚者を倒したら召喚したものは消えるわけじゃないの!」
「いけない! ここは一旦引くよ!」
「モウ、オソイ」
たちまち黒雲が現れると、そこを通って巨大な質量を持った大小無数の隕石群が、二人を中心にしておちてきた。
「ダ、ダメですの。数が多すぎてこれでは、、、! きゃああああ!」
「ガブッ、、、こんな、、、、、、外だ、、、」
もう骸となってしまった三人の死体は、轟轟と燃え盛る炎に捉えられると、やがてきれいに舐め尽くされて跡形もなくなってしまった。
"アッハッハッハッハッハッ!"
黒い影の人面は高笑いをいつまでも続けていたのであった。
グニャリ。
再び画面が中心点で吸い込まれるようにして真っ暗になってしまった。
!!!
頭が痛い!
なにか出てきていたようだったが、それはすでに真っ白でなにも映らないものになった。
終始乱れているようで、なにも映らず、音声だけしか聞こえてこない。
"グオォォォッ! ヤメロ、ヤメロ!"
「、、、が、この、、、のは、、、滅する、、、」
どうやらよく聞き取れない。と言うか、頭がすごく痛くて、まともに聞いていられないのだ。
バチンッ!
プシュシュシュー
脳内でブレーカーが落ちて、焼き焦げたような音がした。
クラクラクラクラ
俺は何とか目を開けると僅かに体を起こした。しかしひどい目眩が襲ってくる。
こ、りゃ、、、だめ、だ。
「キュウウウウーーーン」
パタンッ
「ありゃ。、、、これは脳内がやられちまって廃人になっていなけりゃいいんだが。あいつらはこちらのことなんか、お構い無しでやっちまうからこうなることになるんだよ。少しは加減ってもんをしてくれないとね」
イプロンベスは椅子から立ち上がると、倒れたまのハルカを見て、気の毒そうにそういうのだった。
本日1万PVを突破いたしました〜 ドンドンパフパフ♫
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