034 天国へのエレベーター
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「見所はこれで全てになるはずじゃ」
イプロンヌはそう言うと、あとはどこかあったかのう、と呟いていた。
イプノーム王国を訪問している二日目、俺とライナはイプロンヌに連れられて、昨日に王子妃から提案されていたイプノーム王国の観光をすることになった。
朝早く昨日に通った版築で造られている長城の裏大門から出発すると、そこにある王立農場や王立牧場などを訪問して、午前中は体験学習などをしていた。
午後には王城へと一旦戻り、その後に昼食を摂ったあとは、城下町の市中を散策することに時間を過ごしていた。
いまは表大門を出て、その風景を眺めているといったところであった。
こうして半日以上をイプノーム王国で過ごしてみてわかったのは、ノーム族以外の種族を見かけなかったことだ。また王国と名乗ってはいるものの、この王城と城下町は非常にコンパクトなもので、他のどの小国の王都と比較しても、これほどに小さなものはまだ見たことがなかった。
「城下町ではノーム族しか見なかったよね。この森には他の種族は住んではいないの?」
「もちろんいるのじゃ。用事もないと出てこないような変わり者なんじゃがの」
「あっこの森の中に、チラチラとこっち見てるのがそうかよ?」
ライナが指差した一面には、とてつもない規模で広がっている太古の大きな森が見えていた。
「どうやらあれは監視員のようじゃな。まあそのうちにおいおいと話すこともあるじゃろうて」
それからイプロンヌはその風景を眺めているのにも見飽きてきたのか、もう案内する場所もほとんどないのじゃ、と言ってから王城へと踵を返した。俺も牧歌的な風景をいつまでも見ていて退屈さを感じ始めていたので、それについて歩き始めた。
「ふーん。あっちからこっちをよ、まだじーと見つめているやつがいるだども。まあいっか」
視力が人並み外れて良いライナがそう言ったときには、イプロンヌもハルカも離れていたところにいたので、ライナのこの発言は独り言のようになってしまった。
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「我々ノーム族はこの森では新参者といったらわかり易いのかな。およそ150年ほど前に流浪の果てにここへやって来たと言い伝えがある。そのころのノーム族はみんな難民であったということだよ。古くからあった古ノーム王国が滅んでしまったことから、それからイプロンジリウス様のツテでここへ定住できたのだそうだ」
今日の政務を終えた王子夫妻とのお茶会での話題で、俺がイプシースの森中を周って疑問に思った質問に、イプノーム王国の王子はそう答えた。
150年前にノームたちは難民としてこの森へとやって来たのか。意外とごく最近のことなんだ。
とすると、、、
「大昔に、人間たちがイプシースの森にいる妖精族と交流があったと記録があるのですが、するとこれはノーム族のことではないのでしょうか? その辺を詳しくお聞きしても?」
「ハルカ嬢はその大昔のお話にとても関心があるようだね。そういうことであるならば、それについてうってつけになる人を紹介してあげようか。イプロンジリウスの奥方で、そして私の祖母になるイプロンベス様は物知りなので、そうした昔話にもよく精通しているのだよ。いまは祈りの塔にいらっしゃるだろうから、訪問してみてはいかがかな?」
父親がそう勧めると、イプロンヌはとたんに嫌そうな顔を仕出した。
「ううっ、、、あのオオババさまは苦手なのじゃ。わしは行きたくないのじゃ」
「そうね。オオジジさまは大好きなはずなのに、なんでこう苦手なのでしょうね? フフフッ」
王子妃はイプロンヌのことを知っていてわざととぼけているようだ。
「その祈りの塔っていうところは、どんな場所になるのですか?」
「そうだな。主に魔術の知識を専門に収めた書庫がある場所というのが正しいのだろうか。その附属施設には、魔術研究棟と魔道塾棟があるといったところかな。そこの館長がイプロンヌの曾祖母のイプロンベス様になるんだ。まだ夕食まではかなりの時間がある。さあさあ、皆でいっておいで」
☆
「ほわー、真っ白い建物だべさ」
それはどこを向いても土壁しかないノームの建物では珍しく、石造でつくられている高い円筒形の大塔だった。
塔の左右には魔法研究棟と魔道塾棟がそれぞれ配置して建てられていたが、それらは二層建てのノームが愛する土壁作りの建物になっている。
三人が向かったのは塔の入り口でそこには衛兵がいたが、イプロンヌの姿を見ると大きく脇に移動して直立敬礼の姿勢になっていた。
その脇を摺り抜けて中へと入っていくと、建物の中央には螺旋の階段が配置されていて、これを使うことで各層に行くようだ。
「ここって何階あるの?」
「九階じゃったな。ちなみに大ババさまのいる場所は一番上の階なのだ」
「うしッ、さあ、ちゃっちゃと一気に上がってみるさ!」
「コレコレそう急ぐものではない、ちょっとこちらへついてくるのじゃ」
入り口からは中央螺旋階段を挟んだ反対側の奥へと向かって進んでいく。するとその突き当りにあった壁に設置されていた、一見してエレベーターとおぼしき形状のものが目に映った。
それは全て木製で作られており、エレベーターの中側にはゴンドラが置かれていた。
よく見るとクモの巣があちらこちらにあるようだ。イプロンヌはそれをパパッと払うとそれに乗り込んだ。それからハルカとライナに手招きをして入ってくるようにと勧めている。
「え? これってノーム族の発明品になるの?」
「そうじゃぞっ! これは素晴らしい発明品でのう。なにしろ、あのオオジジがオオババの誕生日に製作したものになるのじゃぞ! これができる前まではあの螺旋階段を使うしかなかったものじゃが、これができたおかげで最上階までドーンと一気にらくらくなのじゃ!」
ほれ早う乗らんかとイプロンヌが二人に言うと、ハルカとライナは恐る恐るそのゴンドラに乗り込んだ。
「シートに腰を掛けたら、脇にあるベルトをお腹に、こう回してつけるのじゃ」
「これは革のベルトだわさ。これを、、、でバックルを、、、うっし、はめただよ」
「これってひょっとしたら、シートベルトになるのかな?」
「ほお、そおゆう名称は気に入ったぞ。これをつけておかないと、たまに座席から飛び出して首の骨を折ってしまう者がいるのじゃよ。しておくのにこしたことはないのじゃぞ」
「ええっ! これってそんなに、危険な乗り物になるの?」
「ん? 死んでしまったのは一人か、、、重傷者がいたかの。まあどちらにしても、まだまだ改良中なのだからしかたがないのじゃ! なにしろデータが少なくて改良するのもままならんのじゃ。まあそう気にするでない」
「ちょっと! ま、まって降りますっ! まだ動かさないでっ!」
俺は慌てて降りようとして、腰に締めたベルトを外そうと手をかけた。
「フハハハハッ、それはもう遅いのじゃ! それではいくぞ!」
ガクンッ!
ズ、、、
ズズズッ、、、
ズズズッズズズッ
慌てて降りようとした俺をすっかりと無視をしたイプロンヌは、ゴンドラにある窓の外から出ていたレバーを倒すと、ゴンドラはあれよあれよとスルスルと上へ動き出した。
それは加速的な速度でグングンとスピードを上げていった。
ゴゴー
ゴゴゴゴー
ガタガタッ
ガタガタガタッ
「ひああああ、うひゃぁぁぁ、あーっあーっ!、ゆゆ、ゆれ、てて、怖いだ、よ」
ガタッ!
ガタガタ!
ガタガタガタッ!!
「これ壊れそうだよ! ヤバイよ! し、死ぬ~死んじゃう~!!」
このエレベーターは全木製でそれが高速でガタガタと激しく振動しながら動くものだから、その恐怖感といったら半端ではなかった。
しかも数人死んでいるという実績まであるのだ。ハルカとライナはこの乗り物に安易に乗ってしまったことを悔いてしまうのだった。
対してイプロンヌは発明家といった矜持のせいか、瞳の中には渦巻きがグルグルと回っていて、この発明品に恍惚状態となっていた。
狂気じみた笑みと大量のヨダレが口元から垂れていた。
ノーム族はこのようにして研究欲が旺盛過ぎることから、ときには向こう見ずになることもしばしばあるのだった。
「このゴンドラと結んでおる最上階にある重り石のストッパーをロック解除したのじゃ。これからもっともっとスピードは上がるのじゃ! ウケケケケッ」
☆
王子妃は皆が出ていったあとでふと思い出して、
「そういえは貴方、イプロンヌのお友達に、あの危険な乗り物のことはおっしゃらなかったのね?」
「ああ、言っておくのを忘れていたが、でも流石に、イプロンヌもすぐに禁止になったあんな危険な物を、まさか使おうとは思わないだろう?」
「、、、甘いのですわ。あの子がオオジジの信奉者ということをお忘れです。あの子達の命日が今日とならねばよいのですけど、、、」
「ま、まさかな、ハッハ、ハハ、、ハ、、、」
王子がわざとしている乾いた笑い声に、王子妃はため息をつくのだった。
☆
「ふむ。そろそろ頃合いじゃろうか」
そう言うとイプロンヌは、ゴンドラ内の真ん中に設置されていた、大きくて丸いハンドルを徐々に回していく。するとこれまで縦揺れだけでも相当な振動を起こしていたゴンドラがついに横揺れまで起こし始めた。
激しさを増してきた騒音は、木製のゴンドラが絶叫を起こしているかのようにも感じ取れた。
ギギイーーーー
ブルブルブルブル
ガク、ガク
ミシミシッ
ギギギギギギギー
ブルブルブルブルブルブルブルブル
ガク、ガク、ガク、ガク、ガク
パキパキパキ、バキッ!
所詮は木製で作られているゴンドラなので、一部のものは剥がれて落ちてきたり、柱は高速振動でブレてまともに見えないといったあり様になっていた。
ハルカとライナはヒッシと二人で抱き合い泡を吹きそうになりながらも、何とか正気を保っていた。
「はわっわわわわっ!」
「アハッ、アハハハハ~!」
もうやけくそである。
ゴ~~~~ォォン! 、、、ォオン、、、
イプロンヌはそのハンドルを尚も回し続けていると、スピードを出し続けていたゴンドラはやがて緩やかな速度へ徐々に失速をして、最上階についたところではやや余った感じになり、一度ゴンドラを大きく揺らしてから止まった。
「これは乗り物としては便利なのじゃが、止まるときのタイミングを見失うと、ゴンドラが粉々になってしまうのが玉に瑕じゃな。わしの今日の運転は80点といったところになるかの。、、、ん? 二人共どうしたのじゃ、、、オーイ、オーイ。、、、白目を向きおって。わしの話を聞いておらなかったのか?」
イプロンヌの対面のシート席でエリカとライナは意識を失っていた。イプロンヌがメイドたちを連れてきて二人を回収すると、シート席のそれぞれの座った位置には、大きな湿りを帯びていたのだった。
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