033 一人寝をして奇妙な夢を見る
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「ようこそいらしたね、イプロンヌの可愛いご友人の皆さん。滞在中はごゆるりとくつろいでいかれてほしい」
「まあまあいらっしゃい。そんなにかしこまらないでくださいね」
ここはイプノーム王国の王城で、その中の王宮にある王子夫妻の部屋になる。共通語の挨拶で俺たちを歓迎してくれたのは、イプロンヌの父親と母親になる人たちだった。
二人とも90歳前後(人間に直すと35歳前後)の年齢で、まだ王子と王子妃の身分にあるのだという。お子さんは六人いて、現在は七人目がお腹の中にいるのだそうだ。イプロンヌはそのうちの第五子に当たるとのこと。
「これからしばらくの間は、ノームの言語で家族と話をさせてもらうのじゃ。なに、近況報告を少しするだけのことじゃがな。家族の間ではくだけた会話をしたいと思うのじゃ、お主たちにはちょっとすまぬことになるの」
そう断ると、そこからイプロンヌが話し始めた言葉はノーム語で、両親もこれに合わせて会話を始めた。このことで内容はこちらに伝わらなくなってしまった。
イプロンヌは両親に、これまでの五日間にあった出来事の近況報告をしているらしい。たまに俺たちに振り向いては、手振りを交えての会話をしていた。
俺とライナは、少し離れた場所へメイドさんに案内をされて、その間をお茶とお茶菓子のご馳走に預かっていた。
たまにイプロンヌたちの会話の間に、こちらに振り向いて頷いたり関心を示している様子を伺わせていたので、俺とライナが小さなお辞儀をするといったことを何度か行なうことになった。
☆
こちらのお茶がニ杯目の終わりになった頃に、ようやくイプロンヌの家族への近況報告が終わったらしく、三人はこちらへとやってきた。
「はっはっはっは。長話になってしまい申し訳なかったね。なにしろこの子が、一日目からこれまでのことを事細かに、状況を交えながら楽しそうに説明していたので、私達もその話につい興じてしまっていたよ。外界に憧れていたこの子がこのようにして、うまくやっていけているのは君たちのおかげだろう。君たちお二人を通じて、そちらの皆さんには感謝を伝えておいてほしい」
そう言われてからすぐに、あれを持て、と王子が近くのメイドに言いつけると、布袋が運ばれてきて王子に受け渡された。その布袋は王子からハルカへと差し出された。
「これは?」
「ヌーラのお世話代として、これを受け取ってほしい。この子はこのまま外界で暮らしたいと言っているからね。もちろんそちらがご迷惑でなければの話だが」
そう言って受け渡された布袋はずっしりと重みがあり、その感触からして硬貨が入っているとすぐにわかった。開けてみると、万国通貨になる白金貨が30枚ほど入っていた。
「実は私たちがここへきた目的理由は、そのことだったのです。イプロンヌがこのままデイルード市にいたいというのならと思って、こちらへ同伴させていただいたということなのです」
「それは心配をかけてしまっていてすまない。もしもこの子が一人できた場合には、それを持たせていかせる予定だったのだが。許されよ」
こうして俺がここへ訪問した目的は、意図もしないで達せられてしまった。しかし驚いてしまったのはこの硬貨、外界で使われているはずの万国通貨だったことだ。
数百年間を外界と隔絶していたはずのこの森で、この硬貨を得られたことには正直びっくりとしてしまった。
「ところでこれって万国通貨で、、、その、、、外界で使われているお金ですよね。一体なぜこちらでこれがあるのでしょうか?」
「もちろんこの硬貨がこの森で使われているわけではないよ。外界とは交流はないが、こちらからはそちらに色々と用事もあってね。それでそちらのお金も用意があるというわけさ。外界の物価はもちろん考慮してお渡ししたはずであるが、それで足りていたであろうか?」
「十分ですよ。ゆうに一年分以上は足りているかと」
「足りなくなったら、またこちらへご訪問されるとよい。ヌーラもこちらへちょくちょくとくるのだぞ」
「わかっておるのじゃ」
ちなみに白金貨は、日本の物価レートで例えてみると、1枚がおおよそ約10万円相当だと考えてもらえばいいだろうう。二食込の安宿なら銀貨5枚(約五千円)なので、これでかなりのイプロンヌに関わる資金を得られたことになる。
ここまで話し終えると、次には王子妃がこちらへ話しかけてきた。
「ヌーラの共通語はおかしく感じられているとは思いますが、この子はオオジジ(曾祖父)っ子なもので、その影響のせいですのよ。無遠慮な物言いに聞こえますのも、そうしたことからですの。少し変わり者にみえてしまうかも知れませんが、これからも仲良くしてあげてくださいね」
「はい。遠慮もなくつき合わせてもらっていますよ」
「わしはこの話し方が気に入っておるのでのう。いまさら変えるつもりはないのじゃ!」
イプロンヌの覚えてしまっている共通語は、曾祖父がイプロンヌに直で教え込んでいたものだったらしい。
両親の共通語はとても流暢で綺麗な言葉だったので、イプロンヌとはだいぶ違うと思っていたけど、こういうことだったかと納得してしまった。
その他にも王子夫妻からは興味深いことを色々と教えてもらった。ノームというものは旅好きな者も多く、イプロンヌの曾祖父はその部類に該当する人になるらしい。
以前に聞いていた勇者のパーティーにイプロンジリウスさんがいたという話も、外界との繋がりがあるゆえでのことだったのだろう。
イプロンヌもそれを濃く影響を受けたのか、以前から外界にはとても強い関心を持っていたという。
その曾祖父は数年前に現在の国王様(イプロンジリウスからみると息子、イプロンヌから見ると祖父に当たる)に王位を譲ってしまったそうだ。
それからはこの森を立ち去って、昔の冒険者の仲間たちを訪ね歩く、気ままな旅へと出かけてしまったということだった。
俺はそうした人生の後半生を過ごしている、その曾祖父という人物を少し羨ましく思えた。
俺も今生では魔王を倒した勇者として、出会いを作れた人たちが数多くいる。俺もこの世界では、そうした後半生の過ごし方があったのかもしれなかったからだ。
と、そうだった。今のうちに忘れないように、ここでさっさと、ジュリアンから頼まれていたものを渡してしまおう。
「あのこれなんですが、デイルード市の都市長からのこちら宛てになる親書です。そちらに失礼なことが書いてあったら、破って捨てちゃっても全然構いませんので。国王様にお渡しができますなら、お願いをいたします」
「ほう、、、わかりました。これは私から父上に必ずお渡しをしておきましょう。ただ私も父もイプロンジリウス様とは異なって、外界をほとんど知らない世代になる。この親書をお預かりしても、イプロンジリウス様が不在でもある今は、この返書をお渡しすることがとても難しいと思う。そのことを先方にはお伝え願っても?」
俺はそのことを了承した。
「さあさあ、そんなかた苦しい話は、もう終わりにしてちょうだい。ヌーラ、明日はのんびりとするのもいいけれど、お友達もいるんだからどこかへ連れて行ってあげたらどう?」
こうして夕食までの時間を、明日の予定はどうするかといった話を喧しくすることになった。
「女三人寄ればかしましい、という諺がありますけれど、ほんとうにそうなんですね」
俺は王子と一緒のテーブルで、女三人を眺めながらそう言った。
「ハルカさんはどうやら違うようだね」
「はあ、まだ女子歴半年なので」
俺がそう答えると、王子は不思議な顔をしているのであった。
☆
☆
☆
「お兄、お兄ってば、もう起きてよ」
ううー、、、、、、ん。誰だ?
「ほら、学校へ遅れちゃうよ」
この声は、、、妹の声だ。懐かしいな。
「ああ、起こしてくれてありがとうな」
「しっかりしてよね。まあ4年も行方不明だったんだから仕方がないか。こちらの世界に帰ってきてからまだ半年だもんね。生活のリズムはもう慣れてきたの?」
なんの会話をしているのだろうか?
ってあれれ?
俺は妹をマジマジと見て驚いた。
俺が異世界に召喚されたのは、高校へ入学してから間もないときのことだった。
その時の妹は小学校六年生だったはずだ。でもいま俺の前にいるのは、俺が入学していた高校の制服を纏った、ビックリするほど成長を遂げていた姿だった。
「ふぁぁ。まあなんとかな。そうか、魔王を討伐してからこちらへ帰ってきてから、もう半年になっているんだな」
「運が悪かったよね~。たまたまお兄ちゃんのときに百年周期の順番がきちゃってさ。、、、ところでどうなの? あたしだけには教えてよ。あっちでは彼女さんを何人つくっていたの?」
「ばあか、あちらについたら大変だったんだぞ。災害クラスの魔物があちらこちらに出現してるわ、魔王の十二使徒からは命を狙われた戦いをいつもしていたし、休まる暇もなかったつーの」
「残念ね。でもさ、魔王を倒しちゃったらこっちに戻ってこないで、あちらに残っていたら良かったんじゃないの? そーしたらお兄はモッテモテで、どんな美女だって選り取り見取りになっていたと思うわよ?」
バチコンッ!
「いったあああっ! ちょっとデコピン痛いじゃないの! あたしを殺す気? お兄の力って勇者のままなんだから、よしてよね!」
「お前があまりにも無神経過ぎるからだよ。それに脳内で勇者ブレイカーは落としたままだから安心しろ」
妹はオデコを抱えて、涙目でうーんうーんと痛みを堪えていた。勇者でなくても鍛え上げられた筋力では、軽めにしたデコピンでもかなり痛くなってしまっているらしい。
「、、、すまないなハルキ。いや女の子にハルキってゆう名前はないよな。改名くらいはしているんだろ。それまあともかく、そちらのほうはよろしく頼んだぞ。、、、さてと、俺は学校へ出かけるか」
パチン
そこで俺の見た夢は終わりを告げた。
おかしな夢だった。
普通はこんなにリアリティーのある、記憶がしっかりしている夢なんて見たことがなかった。
「夢、なんだ、、、よな」
もしかしたら、元の世界へ戻れば、現実にあったかもしれない風景だったと思えた。それもこの少女の姿ではない、マトモな肉体での帰還といった、理想的な形での帰還だったのだ。
ここはイプノーム城にある、客室用の個室だった。
いつもの賑やかな六人部屋での生活では、見ることのなかった夢を見てしまったのだろうか?
外はまだとても暗かった。
明け方に起きるどころか寝坊もできる自信があったのに、おかしな時間に奇妙になる夢をみたものだった。
「もう少し寝ておくか」
俺は乱雑になっていた掛け布団を再び直すと、微睡みの中へとウトウトと漂い始めたのだった。
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