030 特別免除コースで頼むのじゃ
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「お? どこさいくだに。ちょっと待つだよ」
朝食後に部屋に戻ったライザは、いつもの腹ごなしの素振りをするために、着替えて木剣をとって出ていこうとしたのだが、イプロンヌがすでに身支度を整えて部屋から出ていこうとしていたので、ドアの入り口で鉢合わせとなった。
「んなんじゃ? わしはこれから冒険者ギルドとやらに用事があるのじゃが」
「さすがにまだこの時間にはまだ開いてないと思うな。、、、ところでイプロンヌは冒険者になりたいの?」
「うむ、そうなのじゃ。わしはオオジジに見習って、ぜひ冒険者とやらになってみたいのじゃ」
「オオジジさんって? へーその人って冒険者をしていたの?」
「フフンッ、聞いて驚くのじゃ! 前々回の魔王の大討伐の折には、そのパーチィーにオオジジはいたのじゃぞ! 大有名な大英雄イプロンジリウスはわしの曽祖父にして、後にイプノーム王国を建国した初代の国王なのじゃあ!! フッハッハッハッ!」
ハルカは自分の記憶を辿ってみた。最近まで勇者をしていたハルカだが、イプロンジリウスといった名前の記憶は聞いたことが無かった。ついでにいえばイプノーム王国といった国も聞いたことも無い。どうやらそうしたイプシースの森の中での出来事などは、人間たちのいる外界にまで伝わり濡れることがなかったからである。イプロンジリウスも今代の勇者の仲間ではないことで、人々の記憶からも忘れ去られてしまったようだった。
「それはまたすごいよね。勇者のパーティーといったら、特別の中からさらにまた特別に有能な者しか選ばれないから」
ハルカはそのイプロンジリウスが勇者のパーティーにいたことに感心していた。イプロンヌの話したことでは、その程度の情報量しか分からなかったからである。
すると、そうじゃろう、そうじゃろうと、鼻を高くしたイプロンヌがドヤ顔で応えた。
それからは大興奮気味のイプロンヌが、ノーム族特有の長くなる話をしだしたが、このイプロンジリウスのお話はすでに何度も人へと話しているせいか、とても高速でほぼ聞き取れるものではなかった。
「お、もう時間なのじゃ。話はまだ途中じゃが、冒険者ギルドのほうが先じゃ」
さあ行くぞ! との声にイプロンヌは外に飛び出したが、そこからは道がわからないのか、イプロンヌは戻ってきて、冒険者ギルドへ早う案内せいと言うのだった。
☆
「頼むのじゃあ!」
ここは冒険者ギルドの中にある、新規冒険者用の受付窓口だった。
「はあ?、、、ええと、どこですか?」
新人受付の窓口にいた職員のお姉さんが、誰もいない受付の辺りをキョロキョロと見回している。
「ここじゃ、ここじゃよ!」
ピョコっと小さな手がカウンターの下から出てきて振られていた。受付のカウンターの高さは110cm近くあるもので、約100cmのイプロンヌが近くに立つと、その背丈はすっぽりと見えなくなってしまっていたのである。
「あの、私が手伝ってもいいですか?」
このいたたまれないこの様子を見ていた俺は、イプロンヌのお手伝いを申し出ることにした。俺はすぐに空いている踏み台を見つけて、それをイプロンヌへと手渡した。
といっても、こちらもイプロンヌと同様に130cmという低身長なのだ。踏み台を使ってもカウンターの上にはようやく肩上が出るくらいになるので、傍から見るとさぞや頼りないお手伝いさんに見えていたことだろう。
「あ、はい。それでは、こちらの申請用紙に書き込みのほうをお願いします」
お姉さんから手渡された申請用紙を受け取ると、俺はそれをイプロンヌに渡した。
スタンド型式のカウンターでは、当然にその上を使って書き込むなどできようはずもなく、仕方がないので申請用紙を床に置いて、そこで書き込むことになった。
「はい、承りました。それでは指紋の照合審査と写真の撮影がありますので、あちらのほうでお名前を呼ばれましたら、お部屋の中へお移りください」
「わかったのじゃっ!」
イプロンヌに引っ張られてそちらへ移動すると、馴染みのある声が近くから聞こえてきた。ジュリアン(王子)の従者であるルスタがすぐそこにいたのだ。
「ジュリアン様~、どちらになりますか?」
「ルスタここだ。今ちょうど全てが終わったところだ。まったく骨が折れるものだ。後はカードを受け取るのを待つだ、、、! どうしてここにハルカがいるんだ!?」
冒険者登録で必要になる審査や手続きに使われている部屋の中から今出てきたのはジュリアンだった。今この場でここにいるのが不思議と思われる人物が、俺の視界の前に現れたのだ。
「私がここにいるのは、ほらこの子の付き沿いだよ。イプロンヌっていうんだ」
「イプロンヌなのじゃ。よろしく頼まれてくれなのじゃ!」
ジュリアンに問われたことを、イプロンヌを紹介して答えることにした。
「あ、ああ、この子があの、、、僕はジュリアンだ。よろしく」
「ところでお前のほうこそ、なんでここにいるんだ?」
「えっ! それはだな! ええと何というのかな、、、その、冒険者をしてみるのも、社会勉強になるだろうと、、、、、、」
「あのな、お前は自覚が無いのだろうけど、お前が嘘つくときって必ず鼻の穴が大きくなるんだぞ。それで一体なにを隠してるんだ?」
ジュリアンはそう言われると慌てて両手で鼻を隠したが、そうしたことで同時に口まで隠すことになった。
「ほんなこほは、なひぞ! なひも、かくひてなんか、ひないからな!」
「おいおい、鼻の穴の話は嘘なんだよ。でもその格好は、自分が何か隠しているって本当にいっているようなもんだぞ」
担がれたとわかって、慌ててすぐに両手を下げたジュリアンは、どうしたらよいものなのかと、今度は見事にキョドりはじめていた。
これを見ていたルスタは、このままではマズイとでも思ったのか、助け舟を出すとばかりに、
「これはこれはハルカ様。いや実は先日にジュリオ王からのお達しがありましてね。ジュリアン様にしばらくは冒険者として修行させてやることも、後々の後学の為にはよいのではないかとのお勧めがありまして。それで本日はその申請に来ているといったわけなのですよ」
「そうだ、そういうことなのだ! ち、父上は時々こうして、僕に無理難題を言ってくるときがあるのだ! とても困っているのだ、僕も暇というわけではないのにな。ハッハッハッ」
どうにも嘘くさいな。
その証拠にジュリアンの鼻の穴がまた大きく開いていた。
それを見たルスタが、あわててジュリアンの鼻を押さえた。
「ま、まあまあ、ハルカ様。ジュリアン様のお父上も元冒険者の方でしたし、兄と同然に慕っていたハルキ様に至っては、その冒険者の頂点におられた方です。憧れもあるのですよ。ですから腕試しとでもいいますか。ここはまあおひとつ、お手柔らかに汲み取っていただけますと、、、」
ジュリアンは勇者ハルキの話題がでるととたんに静かになった。さらに遠い目をしながら、
「ハルキ兄には、いつも冒険から戻って来られると、その冒険譚を僕に話してくれたものだ。、、、僕にだって男子として、そうした冒険に憧れがなかったわけではない」
「そっか。そういえば目をよく輝かせなから熱心に聞いていてくれてたっけな」
「うん? 今の話はハルキ兄についての話をしてたんだが、なぜそう思ったのだ?」
「あ! い、いやあっ! ハルキならそう思ったんじゃないかと、、、うんうん、私は関係がないぞ」
「ハルカ、なにをそんなにワタワタとしておるのじゃ? まったく変なやつじゃのう」
カードを受け渡す窓口のほうから職員の声があがった。
「ジュリアン様、いらっしゃいましたらカードができましたので、こちらへお越しをお願いします」
すぐ近くの窓口であったので、皆は一緒にそこへ移動した。
「こちらがお渡しするカードになります」
出てきたカードは銀色のものだった。この色はランク[D]と[C]を表すものになるのだ。
「あれ? 新規の冒険者カードを作りにきたのに、なんで銀色なの?」
俺が不思議に思ってそう聞くと、
「フフフン、それは僕が特別な人間というわけだからだ」
「お前、、、まさかと思うが、権力を笠に着ているんじゃ?」
「ちがうぞ! これは本当だ! 特別免除で申請したからなんだ!」
「特別免除?」
聞いてみるとこういうことだった。聖職者や武道の有段者、魔道塾で資格を得ている者は、すべて特別免除の対象者になるそうで、ランク[D]または[C]からの資格からスタートできるのだそうだ。
「そういったことならば、わしも特別免除を受けようぞ!」
「え? 、、それはどうなの、、、かな」
イプシースの森はここ数百年間は外界と関係を持たなかったはずだ。だからその森の中で得られた資格があったとしても、それが外界に認められるのかは難しいのではないのか。
「どこだ、どこなのだ! 特別免除はどこで申請をするのじゃ?」
「あ、ああ。あそこのみどりの窓口だ」
ジュリアンがその窓口を指で指すと、イプロンヌは俺の手を掴んで走り出した。
「頼もうっ! ほれ! この免状があればよいのか?」
イプロンヌはポシェットから折りたたんでいた紙を取り出すと俺に渡して、それを職員へ渡せと指示を出した。そのとおりにしてみると、
「はい。少しお待ちください。、、、ええと、、、はい。師匠の方のデータと免状にあるサインとに相違がございませんでした。では特別免除コースを許可いたします」
「嘘っお! いまので通っちゃったの!?」
「カッカッカッカッ! 流石オオババが書いた免状のことだけはあるわい。嫌なのじゃがここは感謝をしてやろうぞっ!」
冒険者ギルドでは、この幼女の高笑いがいつまでも続いていたのであった。
作品をお気に召して頂きましたなら、下記の評価にあります(☆☆☆☆☆)をポチりと推してくださいませ。ブックマーク評価も受け付けています。評価は作者のエネルギーとなります。




