027 四方山話(ガールズトーク)
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
イプシースの森の中へ入る道は一本道の古道のみだった。緩い傾斜地を20分ほど歩いていくと、やがて大きな広場へと出てきてそこで行き止まりになる。森はまだ奥へと続いているがその先には道がない。
ロバ車を降りて先頭を歩いていたエンターは、立ち止まってあたりの周囲を警戒するが、やがてそれが無用なことだと判断をしたようだ。
「調査の依頼があった場所はどうやらここまでのようだ。とくになにもないようだね」
広場には人間の作った森守の小さな小屋が一棟、ぽつんと建っていた。
あとの建造物というと、先史的な時代のもので石造作りの両扉が僅かに残った、謎の円形遺跡があるのみだった。
石造りの両扉の先には、かつて大きな建物が存在していたようだ。
その地面には建物の基礎に使われていたと思われる大きな礎石がいくつも点在していた。
この場所には大きなお屋敷があったのか、それとも巨大な砦のような構造物があったようだった。
「にしてもよ。森がある以外には、ほんっとーになにひとつ、何にもねえところだよな」
「私たちもパレードの下見に来るなんて用事がなかったら、まずこなかったからね」
のどかそうな森は、ライナとハルカから見ても退屈そうな場所に映った。
だがこの森には魔法が働いていて、一度深く分け入ってしまえば、とたんに方角を見失って彷徨うことになるのだった。大抵の場合は徒労の時間を多く費やした後に、再びこの広場へと戻ってきてしまうのだ。このせいでハンターたちは、この森では狩猟ができなかった。
またこの森から木を切ろうとする者がいれば竜巻が発生したり、ときには落雷が落とされることによって、重傷者が出ることも多かった。こうしたことの噂が拡がると、木こりたちも誰一人、ここへやって来ることもなかった。おかげで樹齢の高いものが生い茂る天然の宝庫だった。
「、、、反応数はゼロになるわ。ここに魔物はいないみたい」
探知の魔法を周囲に飛ばしていたエンリカがそう報告をした。
「なにも起こらないとは思うけど、とりあえずは見回っておこう。アルとサミーはここから左回りで、俺とルファ君は右回りで、森の縁に沿って探索を始めるぞ」
男性陣は見回りで、女性陣は安全な広場の中央部で待機、そろそろお昼になるのでランチタイムの用意をするということになった。
「よろしくお願いします、エンターさん」
「こちらこそ、ルファ君」
カチャン
カチャン
カチャン
「エンターさんの鎧は、部分金属の鎧なんですね」
「まあね。金属だからどうしたって音が出るんだ。この音が耳障りかい?」
「いいえ。逆に小さ過ぎてビックリしましたよ。出来が良いのものなんですね」
「こいつは特注品だからね。ルファ君は鎧などに興味があるのかな?」
「鎧というより、、、そこに刻まれている紋章のほうが、実は気になっています」
ルファが見ていた紋章というのは、獅子とドラゴンが睨み合っている紋章だ。
その紋章は、とても有名になるものだった。
「ああ、やはりこれか。まあ目立っちゃうからわかっちゃうよね」
「やはり、、、あのギルドとご関係が?」
「まあ今となっては元がつくけどね。もっとも、もう過去のお話しさーー」
☆
「準備の終わりだよ~」
ランチタイムの準備に勤しむ女性陣であったが、パラソルの設置、レジャーシート、バスケットの中に用意していた、木製の食器類などを取り出す作業は早々に終わってしまい、後は見回りの男性陣を待つばかりとなった。
ハルカはそれを待つうちに、エンターのパーティーで前から気にはなってはいたものの、これまでに聞くことがなかったことを、この機会に思い切って質問してみることにした。
「あの。エンターさんのパーティーは、男性三人に女性二人で揃えていますけど、、、実際は、、、ゴホン。、、、性癖がノーマルではない人になっているのは、、、理由があるんじゃないですか?」
「フッフッフ。ハルちゃんもそこに気づいちゃったようなんだよ。そ~ぉ~なんです~、このパーティーってゆうのは、リカにお手つきが絶対にない男性だけが選ばれているんだよ~」
「ああー、、、やっぱり?」
なんとなくそうじゃないかと、前々から思ってはいたんだ。男性に普通の性癖の人がいないことは、女性を狙う相手がないということになるのだ。アルフレットはロリコンでサミーは男の娘なので、どちらもノーマルの性癖とはいえない人たちだ。
そのシスコンのエンターさんならではの人選が絡んで、こうした編成がなされたという訳なのだろう。エンリカを誘惑することがない男性のみが選ばれたがゆえにヘンタイのしゅ、、、いやいや、エンリカがパーティー内で恋愛できる可能性をゼロとしているのだろう。
「~~~!! あたしだって最初は、ごく普通のパーティーに入っていたのよ!! それなのにお兄ちゃんが絡んでくるものだから、パーティーを変えてもその度に追い出されちゃって、、、」
その光景の場面は、とても容易に浮かんできてしまう。
エンターさんの過保護ぶりも、かなり度が越していると思った。
そうしたことが何回も続けられて、結局はエンリカを受け入れるパーティーは、とうとうなくなってしまったんだそうだ。
あ、そう言えば、もう一つ聞きたいことがあったんだっけ。
「エンターさんって現在はランク[B]でしたっけ? 20歳でマスタークラスっていうのはすごいですよね」
勇者のカテゴリーは省くとして、20歳でランク[B]のマスタークラスになっているということは尋常ではないことになるのだ。
冒険者はランク[D]でようやく一人前の扱いになり、冒険登録者の数の大半はこの付近のランクに位置するのが普通になる。ランク[C]からは専業職(二次職)になることもあって審査も厳しくなり、ここからが狭き門となっていくのだ。
エンターさんの若さでランク[B]というのは、かなりの異例となる早さと言わなければならないだろう。
「お兄ちゃんがランク[B]になっているのは、きっとあの有名な青獅子団にずーっといたせいだと思うわ」
「え!! 一流の冒険者しか所属が許されないあのギルドに? それはすごい!」
青獅子団は、所属する冒険者が全てランク[B]以上のみというギルドでありながらも、ギルド員は全て傭兵国家のブライダーの国民といった特異な集団であった。
ブライダー国は、大きな軍隊を保持することが難しい小国家に傭兵を貸し出したり、はたまた災害獣が現れると、対災害獣に訓練された討伐軍を送り込むことを生業にしている国家だった。その国家の行政は三頭領による意思決定機関で運営されており、その三人は英雄と呼ばれているランク[S]の冒険者たちばかりなのだ。
俺が勇者ハルキだった頃には災害獣の駆除も仕事のうちだったので、ブライダー国から派遣された集団とは、過去に何度となく現場で鉢合わせになったことがある。
青獅子団の方は形式上はギルドの扱いとされているので、冒険者ギルド内の番付的には、いつもトップ集団として認識されていた。だから青獅子団を知らない冒険者はいないというお話になる。
特定の国家との癒着関係や介入操作を毛嫌いしている冒険者ギルドではあるけれど、ブライダー国は元々が冒険者のギルドそのものが国家に成り上がった経緯があることから、いまのところはハンドインハンドの関係となっているようだ。
「でもねー、あたしが12歳で冒険者になるっていったら、お兄ちゃんはあちらをそれはあっさりと退団しちゃって。あちらではかなり期待されていたから、初めの頃なんて、お兄ちゃんを引き戻そうとした人たちが毎日ひっきりなしにきていたのよ」
「エンリカが今15歳だから、、、エエエッ! 三年前の17歳で、すでにもう、ランク[B]だったの!? 、、、そんな逸材なら、放っておいては置かれないよね」
「ーっっとに、あたしに対するお兄ちゃんの過保護には困っちゃうの。そりゃあ、あんな事件があったし、しかたもないんだけど。、、、せっかく、フランダルク様がわざわざお目をつけてくださっていたのに」
ああ、エンターさんが、エンリカのことに過保護になった事件って、以前に聞いてはいたな。
その事件も詳しく聞かされたことがないから、よく分からないんだよね。
えっっつ!!、、、って今、超有名人の名前が出てきたぞ!
「冒険者ランク[S]のフランダルク!! それはもしかして、傭兵国のうちの三統領の一人じゃないの?」
「あんたはたまーに、妙なほうで博識になるのね。、、、まあいいけど。それであたしたちの実家はイプシースの森を挟むと、デイルート市とはちょうど裏側に位置しているのよ。昔にフランダルク様が実家にお立ち寄りになったときに、お兄ちゃんの才能に見惚れてくださって、その後で養子にしてもらえたの」
「そっかなるほど。フランダルクさんの元で英才教育で鍛えられて、で今のエンターさんが形成されたってわけか」
「さあ、こんなつまらない話はもうおしまい。あの王子様とその後はどう進展してるのか教えなさい!」
「え、その王子様って、いったい誰のことなんですの? 私は初耳になりますの」
エンリカがハルカに詰め寄ると、ルイザは頭の上に大きなクエスチョンマークを出していた。
「ああ、そりゃあジュリアン王子のことだなや。ハルカっちの婚約者なんだ」
「エエエエッ~!! ハ、ハルカさん、その歳で婚約者って早くないですの? しかも相手が、お、王子様!?」
「ああ懐かしいわ。あたしも最初のころはそんな反応をしていたんだっけ」
「ライナちゃんはメッだよ~。ハルちゃんが王子様の婚約者ってゆ~のは秘密になっているの。リカぁ~、あなたもすこし迂闊すぎよ~」
「わわっ、ごめんちゃ」
「ついうっかりとしてたわ。ルイザちゃん、このお話は、他の人には絶対に話さないでおいてね?」
「ええ約束しますの。、、、もしかしてハルカさんは、高位貴族の方ですの?」
「私はただの平民だよ。説明すると長くなるからいずれまた話すけど、婚約者は便宜上のもので、実際には監督者を任されているんだよ」
「監督者ですの? それは聞けば聞くほどに、ますますわからなくなるですの」
「アハハッ、そうなるよね。まあ知っていてほしいのは、甘いような関係はないってことだけだよ」
「そう思っているのは、あんたのほうだけなのかも知れないわよ」
「んなことはないって。あいつとは兄弟同然のか、、、ん? 今はどうなるんだろ? 姉弟? いや年齢から言えば妹兄に?」
「なんか面白いこと言ってるわよ。そんなことよりも、最近どこかへ二人で出かけたってことはないの? もちろんプライベートでの限定よ」
「んん? 、、、あーこの前に、たしかジュリアンの服を買いに出かけたかな」
「ヤダ名前で呼んでるのね。あ! それってこの前の酒場のお祝いのときのこと?」
「そうだよ。あいつは庶民の服を元々持っていないからさ。それで私が選びに行ったというわけ」
「、、、聞いていると本当のお話のようですの。でも肝心なことはハルカの気持ちなの! ハルカは王子様のことを好きなの?」
「へ? 好きって。ああまあ、好きなのかな?」
「チッチッチ、聞き方が甘いわね。ハルカ、あんたは王子様に恋をしているんじゃないの?」
「なっ、ないよ絶対に! それはないって!」
「フーン。そうは言ってるけどあんたこの前、銭湯でステラさんに、『ジュリアンからデュフフって声が出ていた原因はこれか』なんて言って、ブスリとしてたじゃないの」
「あれはその! そんな気分で、、、」
ああそうなんだ。なんでそのときはそう思ったのか。実のところ自分がよくわからないのだ。
ステラのマスクメロンを見ていたら、すぐにジュリアンの、あのだらしがない顔が浮かんできて。それでとても不機嫌な気分になっちゃったんだよね。
自分のまだ発育途中のツルペタボディを見て、あそこまでこれが育てられるのかな、なんて思ったりもしたのだ。
はて?
それは一体どういうことになるんだろう?
「ただいまー」
広場の見回りから男性陣が戻ってきたようだ。
「おかえりだよ~。このお手拭きで手をふいてね~。それから皆でお昼をいただきましょ~」
暇であった時間はこれで終わり、皆は食事を摂り始めたのだった。
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