026 イプシースの森にピクニック
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
ここはゼンダース王国の王都になるゼン。
その王城の執務室にいたジュリオ王は、デイルート市から特別便で送りつけられた報告書を開いていた。
「ロイス、目を通してくれ」
それから読んだ手紙を机の上に投げ出して、執事のロイスに渡した。
ロイスはこれを読んで難しい顔色をした。
「あやつの言うことだが、、、こいつの信用はあてにしてもよいものかどうか。どうするべきだろうか?」
「先日に復職したジュリアン王子の従者ルスタのことですな。これまでの信用度でいうのなら全くありません」
「だが書いてあった内容には信憑性があった。ロイスもそうは思わないか?」
ルスタがジュリオ王宛に送った封筒の中にあったものには、ルスタが調査員に情報を集めさせて作成させた調査書が2通と、ルスタ自身が書いた意見書が1通封入されていた。
調査書の方は表と極秘の二通。表にはトレインによって100頭の魔物が王立キャンプ場を襲ったことが書かれており、逃げ遅れていた1台のロバ車が奇跡的に無事であったこと、そしてまた極秘レポートの犯罪者の証言には、そのロバ車を救ったのはブロックの魔法が発現されていたこと、その発現者は少女だったことが書かれていた。またルスタの意見書では地方紙の切り出しを元にして、その場にはハルカ嬢がいたことが証言されていた。
またルスタの意見書には仲介者からの話しとして、トレイン事件以後に派遣されてきたシャイーナ教団の使節についても書かれている。ハルカ嬢を神輿にして担ぎ上げにきたことがその目的なのだろうと話している。そしてハルカ嬢の行動についてはこのように付け加えた。
「『ハルカ嬢に関してはこれ疑念有り。ブロックの魔法は60秒で50MP、10分間ならば500MP、20分間ならば1000MP。もしや"神々に愛されし者"とみられるや?』か。これが本当のことならえらいことだな。どう思うか、ロイス」
「この場合には祭司クラスが2人または3人が必要となります。事実はルスタが疑念のとおりのことがおこっていたのにまず間違いはないものかと。そしてシャイーナ教団がハルカ嬢に接触していたことは、"神々に愛されし者"といったことをなによりも立証しております」
ロイスはルスタの特別便の報告を肯定する形で、ジュリオ王にそう進言した。
「ロイスよ。あやつがこうしたレポートができるとはな。どうやらこちらも良い拾いものであったのかもしれぬぞ」
「、、、ではそのように。それとハルカ嬢のお立場としては、今後どのようにお変わりになりますかな?」
「これまで通りだよ。何も見ていなかったことにしろ。なによりも重要なことなのは、ジュリアンが都市長として任期をやり遂げることなのだ。それにはハルカ嬢のサポートが何よりも重要だ。あの問題児を正しく扱えるという一点のみにすべてを託したいのだ」
ロイスとしては非常に驚いていた。"神々に愛されし者"とは国家の宝である。これから軍隊を急派して丁重に保護をしてこい、と命令を下されると思っていたからだ。誰しもが自国の勢力が及ぶところの安全な手のうちに置きたいと欲するもの。それをただ“見ていなかったことにしろ”との主人のお言葉に、自分の耳を疑ってしまったのも当然だ。
「もっともこのさきに二人が既成事実をつくってしまうのなら、俺はハルカ嬢をジュリアンの嫁にしても構わないと思うぞ。そうなるとこれは案外お祖父ちゃんとなる日も、もしかするとあるのかもな。ウァッハハハ!」
執務室ではこうして、ジュリオ王の高笑いが止まらなかったのだった。
☆
☆
☆
「クシュンッ」
突然俺は、くしゃみをしてしまった。
「どうしただ?」
「いや何だろう、、、寒くもないのに、本当におかしいよね」
「季節外れの風邪ということもあり得えますわ! 、、、残念ですけれど、今日はこれで引き返します?」
「そうだね、今度また来ればいいと思うよ。ハルカの体調を優先にして。そう急いでいない用事なんだからね」
「いやもう大丈夫だよ。心配かけちゃってごめん。、、、ほらもう見えてきたよ。あと少しだ」
俺たちシルバークローバーズとエンターさんのパーティーは、デイルード市から徒歩で2時間、魔物は全く見られない場所、でも人間もめったに近寄らないといった、イプシースの森の中に唯一ある間道の途中にいた。
なぜこんなところにいるのかって?
それはちょっと時間を遡らなくてはならない。
☆
☆
☆
「パレードをする?」
ここはジュリアン王子が都市長として働く職場、都市庁舎内にある都市長室の中だった。
ジュリアン王子の従者に復職したルスタさんから、大事になる要件があるというので、こちらへお邪魔しているのだ。
「そうなんですよ、ハルカ様。来年ですが、デイルード市でお祭りを、それでパレードを行うことになったのです。そのためにハルカ様には是非に頼みたいことがございまして」
ルスタはそういって、まずはどうしてお祭りをすることになったのか、といったところからの説明を始めた。元々このデイルード市の前身になるデイルード村には、古くから続く地元のお祭りがあるそうだ。
デイルード市はついこの前まで、魔王軍と対峙していた最前線の立地にあったがために、お祭りの開催は近年ずっと控えられてきていた。
そのお祭りを、来年度からは復活をさせてほしいと、地元住民たちからの嘆願が多く寄せられたということらしい。
そうであるならばと、このお祭りをもっと大々的に活用しようとすることになり、デイルード市から国内外へのアピールで一役してみてはどうかと(内実はジュリアン王子の実績作り)、都市長が参与する形での企画立案で、ビッグイベント化が図られたというものらしい。
「それはわかったけど、それで私になにをやらせるって?」
「妖精の王女様の役ですよ。デイルード市の近隣には、妖精が住んでいると言われているイプシースの森というのがあるのです。パレードはそこに関わる古い物語を叩き台にしているので、男女一組の主役が必要となるわけでして」
「ちょっとまってよ。それを私がやらなきゃいけないことがまずわからないよ」
「それを言わないでくださいよ、ハルカ様。このパレードでは対になる役、デイルード村の村長の息子役はジュリアン王子がすることはもう決定していまして。そのお相手ともなると、婚約者である貴方様をおいては、他に選びようがないじゃないですか」
そこでジュリアン王子の方を振り向けば、それまでは俺の横顔を固唾を飲んでいたかのような様子で見ていたらしく、慌てながらこちらに向いていた顔を、手に持っていた書類のほうへと向けて誤魔化していた。それから小さく、やや緊張気味にコホンと咳払いをして、凸凸と話し始めた。
「、、、どこから聞かれたものか、父上からもこのパレードには、村長の息子役として参加しておくようにと命じられている。僕にはその拒否権はない。、、、でもお前となら僕は、、、そのべ、別に、、、構わないというか」
後半の言葉はゴニョゴニョ言って聞き取れなかったが、ジュリアン王子の方では、強制参加が免れないらしい。
するとすかさずそのタイミングで、ルスタはハルカの近くへ忍び寄ると、
「このパレードは、都市長の肝いりの企画で行われる予定でして、失敗すると実績が消えるどころか失点になりかねないんですよ。ですので誰でもよいというわけには。パレードではお二人で、ただお手を振ってもらうだけの、とても簡単なお仕事ですから。今回のことは私に貸しをつくったと思っていただいても結構ですので」
「うぅ、、、わ、分かったよ。それほどまでに言うのなら、その王女役とやらを引き受けることにする」
「有難うございます! それでは宜しくお願いしますよ!」
ジュリアンのことを思うと俺以外の場合、相手に何か粗相を仕出かした場合はとてもマズイことになるだろう。ここは俺がひと肌脱ぐのはしかたがない。これは俺の監督責任能力も問われてしまう案件なのだ。
「さてそれでですね、パレードの日程表もすでに作られていまして。こことイプシースの森というところを一泊二日をかけて往復することになるんですよ。でそちらの調査といいますか、現地に何か問題があるかないかのご確認を、ハルカ様の護衛隊の方々にお願いはできませんかね?」
☆
「昔からのデイルードにあるお祭りのことかい? なんでそんなことを聞くんだい。まあいいさね、そりゃああれだろ、"イプシースの鎮魂祭"のことだろうさ」
ルスタの話を聞いてから小春日和亭に戻ると、地元人であるマーシャにお祭りのことを訪ねてみた。するとすぐに鎮魂祭について教えてもらえることになった。
「鎮魂祭ですか。明るいとゆうよりも暗くなるほうのイメージですよね。来年のお祭りでパレードが企画されているのですが、こうなると全く結びつきがなさそうです」
「そうさね、こちらもパレードなんてびっくりしたところさね。それはもう別のお祭りのようなもんじゃないのかい?」
「それでも原型は、そのお祭りからいただいてるって聞きました。よろしければお聞かせしてもらっても?」
「ああいいさね。私が代々で語り継がれた話によるとこうさ。昔々のこのデイルードにはーーー」
マーシャが長々と語るところによれば、遥かな昔の時代には、イプシースの森とその周辺は妖精族が治めていた土地だった。その頃は先住民である妖精族の土地へ、後からやってきた人間族が間借りするような関係だったそうだ。
やがてデイルードの基となる小さな村ができると、村からはイプシースの森に一年に一度、感謝を込めた作物などを携えて、親善使節団が送られていたそうだ。妖精族側もそれに応えるように10年毎に一度、人間の村の方に親善使節団が派遣されたそうだ。
ところが時代を経て、人間の村が大きくなって税収もそれなりに増えてくるようになると、村には領主から遣わされた代官が置かれるようになったそうだ。
それを境にして、村からの親善使節団は派遣されることがなくなり、そして10年に一度の妖精族からの親善使節団がやってきたときに、事件は起ってしまったのだそうだ。
親善使節団として人間の村へやってきた妖精族の王女たち一行を、なんとこともあろうに理由もなく、領主の代官が捕らえてしまったのである。
そのときに人間の村にいた村長の息子が、王女たちを救い出してイプシースの森に逃すと、代官はそれに腹を立てて、あらぬでっち上げの嫌疑をつけて、村へ領主軍を呼び込んでしまったということだった。
領主軍と妖精族との間に戦火の火蓋が開かれると、その妖精族に味方する人間たちの義勇団もこの戦いに参加、犠牲者が増え続けていく戦いを嫌った妖精族は、ついに外界との繋がりを捨てる決断を下す。こうしてイプシースの森と外界を繋ぐ道は、二度と再び開かれることは無くなったのであった。
事の始まりを起こしていた代官は、隠されていた悪事が露見して処刑される、というところで物語は終わる。この戦いで命を落とした人と妖精を慰めるため、またいつの日にかイプシースの森との交流が復活できますようにとの願掛けを含めて、イプシースの鎮魂祭はそれから今日まで続けられてきていたのだそうだ。
その後日談のことも別のお話として残されている。妖精族の王女を救い、義勇団を指揮していた村長の息子は、イプシースの森が閉ざされる前に仲間たちと共にイプシースの森の中へ移り住み、そこで妖精族の王女を娶ったという記録が残されているそうだ。
今回のパレードで、村長の息子と妖精族の王女がペアで登場する原案になったものは、恐らくこちらの昔話をベースにして起こされたものなのだろう。
ここまで話すとマーシャは終わったよと言い、まだ残っていた用事を片付けに戻っていった。
☆
☆
☆
ここで回想は終わり。
結局はルスタから頼まれた調査の件は引き受けることにした。
エンターさんたちは俺の護衛隊としてジュリオ王に雇われていて、お給金は国から保証されていた。半分は国家公務員のようなものだ。
本来ならば本物の国家公務員がそうした調査に向かうところなんだけど、お祭りのための予算が取れるのは来年からで、しかも企画が都市長室発となるので、こちらへお鉢が回ってきたということらしい。
もちろん雑費などは、デイルード市から降りることになっている。まあこちらは、ちょっとしたピクニックに無料で出かけられると思えば、腹が立つことはないということで落ち着いた。
「いっちばんっのり~」
ライナは元気よく、イプシールの森に唯一ある間道を抜けてその終点になる広場に入ったのだった。
作品をお気に召して頂きましたなら、下記の評価にあります(☆☆☆☆☆)をポチりと推してくださいませ。ブックマーク評価も受け付けています。評価は作者のエネルギーとなります。




