025 教団はルスタに点数を与える
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
デイルード市の中心部に近いがいわゆる郊外と呼ばれている場所に、ルスタに与えられている官舎の家。
夜も暮れて人々が寝静まるころに、ステラは化粧台から離れてベット上に寝転んでポーズのシナをつくり、ルスタを迎え入れる準備を整えた。
「そうそう、今日はたいへんだったのよ。ハルカちゃんのお姉さんのシエルちゃん? あの子を味方につけたところまではうまくいっていたのよ。ハルカちゃんにもきちんとこの前のことを謝ってーーーそうそう、ハルカちゃんってジュリアン王子に気があるわね。私の胸をじっと見つめて『これがデュフフの原因か』とかいって自分のツルペタの胸と見比べているのよ。対抗意識を燃やしているんだって気付いちゃったの」
ルスタもシャツ1枚となってからベットに移り、ステラの放っていた甘い香りに吸い寄せられていく。
「王様が俺を復職させた理由も、その方面で2人の支援をしろといってきているしな、、、それで仲良くすることには成功したのか?」
「それが聞いてよ。ハルカちゃんと仲良くしてあげようとしたそのときに、見知らない女が割り込んできちゃってさ。あとから聞いてみたらシエルちゃんの教団員だっていうのよ。何でも遠くの教団の本部から遠路はるばると来たそうよ。そういえばその女、ハルカちゃんの後でシエルちゃんには正式な挨拶をしてたけど、ふつうは逆になるんじゃない? なんでなのかしらね? まあでもその後は普通に話に割り込める雰囲気じゃなくなっていたし、、、ってねえ、さっきから黙って聞いているけど、本当に私の話を聞いてるの?」
「ああスマン。すこし考え事をしてたわ」
「なによ、ルスタってばひどいわっ! あたしにばかり面倒ごとを押し付けておいて! ハルカちゃんとの関係が気まずいからって銭湯までいって、待ち伏せまでして仲直りをしてきたんじゃないの! それなのにアンタは考え事ってなんなのさ。それってどうゆうことなのよっ!」
「、、、、、、、、」
ステラは癇癪を起こしてルスタに詰め寄ったが、ルスタは両腕を頭の下に組みながらさらに黙り込んでしまった。こうなると何を言っても無駄になることを知っていたステラは、深いため息をついた。
ステラの話には、なにか引っかかりのある話だと、そのときにルスタは思った。
何よりもその女が、シエルちゃんを優先するよりも先に、ハルカちゃんのほうへ話しかけたというところだ。
その女の目的にはシエルちゃんではなくて、むしろハルカちゃんのほうにあったのではないのか。
するとハルカちゃんには、教団がわざわざ人を派遣するほどの、隠されたなにかがあるようだった。
「フン、なにやらにおってきたぜ」
ルスタは暗くなっていた天井を静かに見ながら、ひとり言をいった。
するとルスタはステラにもう一度キスをしてから寝床を出た。するとステラは悪態をついてこちらへ戻ってこいと、ルスタに散々に文句を言いはじめたが、もうあきらめたというように布団に包まってしまった。つまりはこうして待っていたほうが、ルスタがより早く戻ってくることを経験上知っているのだ。
薄くしていたはずのランプの明かりを再び強めて、王家より預かっていたトランクを開けると、そこに入っていたファイルを全て引き出した。それらを机の上へいっぱいにして広げてみる。
ルスタがその中からまず手始めに探したものは、シエルについての身辺調査をした資料だった。
シエル 16歳。 冒険者 ランクC 司祭(職業名称)
出生地 地方都市シャイン
特記 孤児 元助祭司 神託者 ハルカの保護者兼後見人 ハルカの護衛隊
幼少時から神託を受けられる素質が見込まれて、教団本部でエリートとして過ごす。13歳より助祭司の資格を得るが、14歳で資格を捨てデイルード市へと移る。後に冒険者となるが、先日に魔王城の牢屋にいるところを発見された。病院で同室になったハルカの保護者兼後見人となる。現在はハルカと同居中。
この資料を信じるとするならば、これまでの二年の間は、教団本部との間には、疎遠な関係が続いていたものと考えられる。
ハルカ 推定10歳。 冒険者 ランクD 回復士
出身地 地方都市デイルード
特記 記憶喪失 子供服店のモデル 婚約者 小劇場の天使 四人の小さな英雄
魔王討伐の成功時の後、魔王宮の調理場の解体台にて保護される。心身の衰弱による運動機能の低下が見られ、10日間の昏睡後に覚醒、長いリハビリ期間を経て三ヶ月後に退院、シエルがハルカの保護者兼後見人となる。
この資料に見るべきものは特にない。それよりは、最新で付け足しされた資料の『四人の小さな英雄』、、、こちらのほうか。
四人の小さな英雄
分類 事件
事項 火山地帯のトレイン
場所 高原地帯の王立キャンプ場
多数の魔物をリンクさせた冒険者三名が、指定の避難所を使わずに下山、キャンプ場にいた生命を危うくさせた事件。いち早くこれに気づいた子供の四名が、避難誘導でこれらの30数名を無事に救った。一組のパーティーが逃げ遅れたものの、これも奇跡的に全員の無事が確認された。全国紙で記事として扱われる。
全国紙でね。シエルちゃんを利用して、教団の宣伝にするには格好の材料だとは思うが、それでわざわざ教団の本部から人がきていたとは思えない。
奇跡か。このキーワードが俺に訴えかけてくる。俺の集中力はここで途切れた。すると俺をこれまで見ていたステラは、慌てて布団を直してから再びポーズをつくった。
「もう夜は遅いのよ。そんなつまらないことをしてないで、さっさと戻ってきなさいな」
「わかってるよ、すぐにいくって」
ステラが自分の薄手の寝着をルスタに見えるようにチラチラとすると、ルスタはランプの明かりを消して、ステラの待つ寝台へ入り込むのであった。
☆
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「改めましてご挨拶を。私はシャイーナ教団で祭司を勤めさせていただいている、リズベルと申しますわ。以後はお見知りおきを」
「私はそのリズベル様の付き人をしています、助祭司のイデアです。こちらもお見知りおきを」
朝の九時を回っていた小春日和亭のロビールームには、朝食を済ませた宿泊客がくつろいでいる様子を見せていた。
その一角には、ローテーブルを挟んで対面式に二つの長椅子がそれぞれ置かれていた。その片方にはハルカとシエルが、反対側にはリズベルとイデアが腰掛けている。
「まずはシエル。貴女に感謝しなければなりませんね。ハルカさんという原石を発見してくださったことに。まさしく教団の宝となられるお方を、こうして見つけてくださったのだから」
「えへへ~って、リズベルに誉められちゃったけど、どおゆうことなのよぉ~?」
「あらわかっていることを、そんなに謙遜してお隠しになさなくてもよろしいのに。そうご心配をなさらなくても、今回の第一功労者は貴方のものとしてご報告を申し上げておきますわ」
「ほぇ??」
リズベルはそう言って、シエルが心配する功績の横取りがないことを明らかにした。だがシエルの頭に出たハテナマークを見て、これはさらに踏み込んで話をしなければいけないと考えた。
「しばらくお会いしないうちにそんな腹芸ができるようになったのね、シエル。よいでしょう、それではハッキリといいます。そこにいらっしゃるハルカさんは"神々に愛されし者"になられる方。このようにして見つけ出したのは貴方のおかげです。ですからあなたはこれから、ハルカさんを教団の大看板に据えていただきたいのです。さすれば教団連合会では万年最下位と言われていた我がシャイーナ教団を、一躍メジャーにすることができるのです。さあ、これからは信者数を増やして、共にうなぎのぼりにしていきましょう!」
その後の手順ではリズベルがハルカとシエルを教団本部へ連れて帰る。しかる後には教団本部付のエリート教団員とするための手続きと、正団員となるための儀式の両方を、リズベルが一切を執り行って通過をさせる。
大看板を利用して、信者の数を大いに増やして、マイナー教団としてのレッテルを剥がし、現在の赤貧地獄から脱して大手の教団の栄光と豊かさを享受する。そうした立役者として教団の歴史に自分の名前が永遠に刻みつけられる。
リズベルの腹の中ではそのような算段が見積もられていたのだ。
「ニシシッ。リズベル様、お腹がお黒いですね、、、イッタッ! イタイイタイッ、足! ねぇ、足を踏まないでくださいよぉ」
フーフーと足を擦るイリアに、ツンと済ませた顔をしたリズベルだった。
「あの、お話が盛り上がっているところで悪いのですけど。私は義姉の教団とはまったく関わりがないですよ。、、、ついでに言うと洗礼も受けてませんし、信者にすらもなっていません」
「えっ? うそ、、、よ、ね」
ハルカからの衝撃の言葉に、ハトが豆鉄砲を当てられたかのような顔をするリズベル。
「う、ウソよ、そ、そ、そ、そんな。じょ、冗談なのよね、、、?」
「まじ本当だよ~エヘヘ」
シエルはケロリとしてそういった。そこにはなんの服芸さえもなかった。
(シッ、シエル~~~~~!! シャイーナ教団をビックメジャー化にできるチャンスがここにあるというのにっ!! 何故そうした肝心なことをしていないのよ~~~~~!!!!)
よく考えれば、シエルは腹芸のできる人間ではなかったことをよく知っていたのに。久しく会わなかった二年のせいで私も見誤ってしまったわ。でももしも私がシエルの立場だったらと思うと、そうしたことを考えたことがないなんて、思うことができるわけがないじゃないのっ!!
「ふ、ふん! これで勝ったと思わないことねっ!」
リズベルは恥ずかしさからシエルにそう一息にまくしたてて、そして脱兎の如くその場を飛び出した。涙をためて。
「いやあ私も驚いてしまいましたが、、、シエル様、勘違いをしてすみませんでした。、、、そうなりますとハルカ様は、あの件でのことでしたか?」
「そうね。おそらくは~」
「左様ですか。、、、ではシャイーナ様のみ心のままに」
「シャイーナ様のみ心のままに~」
シエルとイデアは共に祈りを捧げるのであった。
☆
☆
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コンコン
「入れ」
「失礼します!」
ここは都市庁舎にある都市長室だった。ジュリアン王子がそう命じると、諜報部の職員が入ってきた。
「どうしたのだ?」
諜報部に用事を出したかと訝しむジュリアン王子に、ルスタが自分の用事だと手短に説明をする。
「私がこの前に頼んでいた件かと。そうだな?」
「はい、ルスタ様。件の報告書が出来上がっています!」
「そうか、ご苦労だったな。下がってよし!」
「ハッ!」
職員は持ってきた書類をルスタへ渡すと、敬礼をして部屋を出ていった。
「一体なんの調査を頼んだんだ?」
仕事を中断されて興味がそちらへ向いたのか、ジュリアンはいま届いた書類に関心を示した。
「ヘッヘッヘッ、色街ではいま一番人気のある女は誰なのかなと。、、、ああやっぱり、ニャンダ倶楽部のミミアちゃんか。ジュリアン様、今度一緒に行きませんか?」
「ばっ、バカモノ! 僕はハルカがいるから、、」
「ほらほら写真などもありますぜ。いやあ腰のくびれとかくるものがありませんか? 、、、ん? よく見るとかなりの猫背だな」
「ええいっ! 仕事場に不埒な物を持ち込むな! 変な調査も禁止だっ!」
「へえへえ」
ルスタは、再び仕事へ戻ったジュリアンを確認してから、先程に懐から素早く取り出して、さも届いた書類から抜き出したかのように見せた写真を、再び元のポケットへと戻した。
「さーて、どれどれと」
逃げ遅れたパーティーに関する調査
分類 事件
事項 火山地帯のトレイン
場所 高原地帯の王立キャンプ場
冒険者ギルドの機密情報に抵触するため詳細は不明。このため逃げ遅れたとされる個人情報も入手が不可。尚100頭の魔物はDクラスばかりだったことが判明。
「まあ表じゃ、この程度しかわからんわな」
ルスタはもうひとつある書類のほうを手に取った。
極秘。その書類には赤い大きなスタンプが押されていた。
トレイン事件を起こした元冒険者の三名に関する調査
分類 事件
事項 火山地帯のトレイン
場所 高原地帯の王立キャンプ場
100頭の魔物から奇跡的に救われたのは、逃げ遅れたパーティーの他に、今回犯罪人となった元冒険者の三名も含まれている。彼らからの供述によると、その場にいたのは逃げ遅れたパーティーの他に、少年と少女がいたということであった。逃げ遅れたパーティーと元冒険者の三名との間で喧騒が起こり、荷車に乗り上がっていた元冒険者の話によると、ロバ車のまわりにはブロックという魔法が発現して、魔物からの猛攻を防ぎきったとのこと。魔法の使用者は少女だったとの言質がある。
備考
ブロック 範囲系魔法 物理防御 術者を中心とする
継続時間は60秒まで 上書きが可能
「ハハーン、なるほどな」
100頭の魔物を防いだ長時間のガードの魔法、逃げ遅れたパーティーを助けだした奇跡を起こす少女。それとトレイン事件とマイナークラス教団の関係。
「なんだ、実に簡単な答えだったな。これではもう足が取れたのも同然だな。これで俺の点数稼ぎも少しは増やせる。クックックックッ」
ルスタは自分の机の引き出しから特別便で使われるレターセットを取り出すと、それになにやら書き込んだ。
その宛先名には、ジュリオ国王とそう記されていた。
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