023 デイルード市に使節は来たる
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「ーーーとのことで、ジュリアン様は現在、公務をきちんとこなしている様子でございます」
執事のロイスが、主人のジュリオ王の息子、ジュリアン王子の近況についての月例報告を終えたところだった。
その報告書には、魔王討伐の成功記念式典から後、王都から出奔をした王子の従者であったルスタが、デイルード市でジュリアン王子と接触したこと、これによって公務が一時怠りが生じたこと、ハルカ嬢が介入してジュリアン王子が持ち直したことなどが書き並べられていた。
都市長の秘書官をしていた者からの報告書には、ハルカ嬢なくしてはジュリアン王子の現在のお姿はなかったと、訴えによく似た内容が、強い断言口調で書かれていた。都市庁舎の評判はすでに、表向きのことはジュリアン市長が、裏向きにはハルカ嬢が権限を掌握している、と揶揄されているほどだ。
「クククッ、いやこれはとんでもない拾いものをしたということか。のう、ロイスよ」
ジュリオ王は実に満足そうにして、またしても自分の直感が正しかったとドヤ顔をした。
「そのようでこざいます。、、、それと今回は一点問題が。ジュリアン様はハルカ嬢との混浴を現在も続けているご様子ですぞ。、、、いかがなさいますかな?」
ジュリオ王はその報告におどろいた。さては、式典でのあのとき以来通うようになっていたのにまず間違いない。
ジュリアンが拒絶しても、あれはハルカ嬢がさして気にも止めていない様子だったからな。
きっと唐変木なジュリアンが、ハルカ嬢に押し切られて、混浴をいまも続けているといったところだろう。
「この先はどう転んでいくのかなど誰にも分からぬものだ。俺はこの結びつきを一層強固なものにせねばならぬのだ」
ジュリオ王はひとりでそう納得したかのようにつぶやいた。
「その、、、混浴はこのままでよいと?」
「ああ構わんよ。それとこの際だ。ジュリアンにはハルカ嬢が必要ということを、少しは自覚してもらおう」
顎髭を擦りつけてしばし思い悩んだ。あの生真面目だがお調子者の頭を柔らかくするのにはどうすれば良いのだろうか。
「、、、む、そうだ! そういうことならば、その方面では最適任となる奴が、いまはデイルードにいるではないか!」
ジュリオ王はニヤリとして、いま閃いたことを早速行動へと移すのだった。
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「ーーってゆうことがあったんだよ。それでさ、シルバークローバーズの結成をせっかくにしたのだからと、ルイザが第一回目の会議をしたいって言ってきたんだ。思いついたら即実行のあの行動力はすごいよね。でもしたことと言えば、お菓子を食べながらの雑談会になっていたんだ。まったく阿呆らしくてーー」
ハルカは大浴場でご機嫌良く、ジュリアンの背中を流しながら、そんな話を続けていた。
「そうか。、、、ところで、ルファ君、、、だったか? どのような人なのかな?」
「ルイザの弟で、彼女から言わせると万能超人ということみたいだね。私からみても万事ソツがないというべきか、ちょっと大人っぽく見えるところもあるのかな」
「む、大人だと」
「そうした点ではジュリアンとは対照的だよね。ジュリアンは子供っぽくて問題ばかり起こすから」
からかう様にしてそう言ったハルカは、ジュリアンからの反撃に身構えていたが、それが静かなままだったので、どうしたことなのかと思った。
「最近になって自分がいつもイライラとして怒りっぽかった理由がわかってさ、、、ありがとうハルカ」
「ますますわからないんだけど。いったいどうしたの?」
「いや、わからないでいいんだ。これは僕から君に伝えておかなければってそう思っただけのことなんだ。、、、さあハルカ、今度は僕にその背中を洗わせてくれよ」
ハテナマークをたくさん出していたハルカにジュリアンは微笑んで、ハルカが持っていたスポンジを受け取るのであった。
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「アイタタタタッ、ああもう、腰とお尻がとても痛いですわ。やっとついたのね」
シャイーナ教団のある小都市シャインから、乗り合い馬車をいくつか乗り次ぐこと五日間。それも夕刻の迫る時間に、ようやく目的地のデイルードに到着したリズベルとイデアは、旅の疲れからすっかりと固くなってしまっていた体を大きく伸ばしてからそう言った。
「もうまったく嫌になってしまいますわ、大手の教団なら、専用のふかふかしたソファのついた馬車で優雅で快適な旅を満喫できるはずでしたのに。乗合馬車をいくつも乗り次ぎながら、こんなに体を痛めながら来なければならないなんて。まだボキボキと体中が鳴っていますわ」
「まあまあ、リズベル様。急な事になりましたけど、臨時の経費も満額無事に落とせたではありませんか。それよりも、もう空のほうがすっかり暗くなってきていますし、早くどこかに宿屋を決めておかないとマズいですよ」
「そうね。とは言っても、ここは土地勘がまるで働かない土地柄ですし、三ツ星や二ツ星のホテルなどは経費節約のために望めませんし。これから安宿を見つけるのには大変なことになりそうね。、、、、、、あっっ、ちょっとそこの、そこにいる貴方!」
リズベルが大声でかけた、そこにたまたま通り掛かっていた人物は、自分の田舎町ではよく見るような通行人だった。
それはオーバーオールを着た長髪を無造作に束ねていた男の子だった。いかにも田舎の者らしいそのスタイルの少年は、田舎暮らしを続けているリズベルたちにも、大変に馴染みのある親しみやすさを持てる相手だった。
「なんだべさ?」
「ありがとうございます。貴方に少しお聞きしたいのですけど、この辺に料金が格安、、、コホンッ。、、、リーズナブルと思われるような宿屋を、貴方はどこかにご存知ではないかしら?」
「ん~そだな。あたいもさ、最近になってから田舎さ出てきたばかりだからよく知らねえんだけど、あたいの使っている宿屋なら紹介できるかもしんねえぞ。その宿屋は女性専用だから安心さできるべ」
あら、この子は女子だったのね。ついうっかりと男子と間違えてしまうところでしたわ。
「よかったですねリズベル様。うまく回避できて。ニシシッ」
イデアがそう言うと、リズベルは引き攣った笑顔を貼り付けて、この少女とイデアの間に自分の体をスライドして入れたと思うや、訳知り顔になってドヤっていたイデアの鳩尾に肘鉄を思いっきり入れた。
「ガフゥッッッ」
「おおっ! 後ろのねーちゃんがうずくまってっぞ! どしたんだ?」
「あら急にこの子の持病がでたようですわ。でもこれは放っておいても平気なのよ。それよりも貴女の宿屋を、よろしければ案内してもらっても構わないかしら? ささ参りましょうか」
「ゴホッ、、、ウゥ、、、ま、待ってください~、、、私を置いていかないでくださいよ。う~う~今のは酷いですよ。私が何をしたってゆうんですか~」
少女の背中を押しながらこの場を離れようするリズベルに、イデアはヨロヨロと立ち上がって懸命に追いかけるのであった。
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「ただいまだよ!」
ここは女性客のみが宿泊可能な小春日和亭にある一室。ここを定宿にしているシエルとエンリカの四人部屋には、シエルの妹分のハルカと、ハルカと同い年になるライナが加わってからは、常に満室となっている。ライナが部屋に入ってみると、ハルカがひとりでお留守番をしていた。
「おかえりライナ。毎日毎日、冒険者ギルドの教練に通っていて大変だよね」
「んなことはねえぞ。確かに苦しいけんど、上達するのを実感できるからよ、とても楽しっぞっ!」
「わわっ、鞘があっても、部屋の中で武器を振り回していたら危ないよ」
「ごめんちゃ~~、、、あ、そうだ、今日からお隣さんが二人増えたぞ。宿屋を探していただに、あたいがここを紹介してあげたんだ」
「へぇぇ、どんな人なの?」
「ん~~、あたいの村に月に一度だけ来ていた、祭司さんのカッコをしていたべ」
「ふぅん祭司さんかあ。デイルートにはすでに大手になる教会はほとんどあるから、普通ならそちらへ宿泊するのにね。きっと珍しい宗派なのかな」
「途中で話もしたけんど、なんか人探しで来てるっていってたべ。そういやシエルさんの服にもよく似ていたかもしんねぇ」
「へぇ? シエルの宗派ってマイナー、、、ンンンッ、あまり有名じゃないよね」
「そだなー、デイルードで見る祭司さんって、皆めっちゃキラキラの服着ててさ、ここきてからびっくりしたべ。あと驚いたのは教会(宗派)がいくつもあるとか、ここにきてからそれを知っただに」
そんな雑談をしているとドアの外側からノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「はいりますよぅ~」
ノックをして入ってきたのはシエルとエンリカだった。いつもよりも遅めでの帰宅時間である。
「シエル、ここには顔見知りしかいないってゆーのに、それでよくノックとかしてるわよね。面倒くさくないの?」
「私は習慣になっているから~。あ〜そうそう」
シエルはそういうと、着替えをしながら、今日あった出来事について話し出した。
「あのね~実はね~、ルスタさんって人から帰り道にお茶を誘われちゃっててぇ~、それでこんなに遅くなったの~」
「ええっ? なんで?」
ルスタというのはジュリアン(王子)の元従者だった人間だ。
ジュリアンの幼年時代から、悪い遊びを教えては問題を起こさせていたと目されているので、ジュリオ王と執事ロイスからは要注意になっている人物だ。
ジュリアンが都市長の就任でデイルード市へ行くことになると、その付き添いを止められていたのに、出奔までして無位無官の無職になりながらも、こちらへやってきていた人物である。
「んとね~晴れてジュリアン王子の従者に復職できたので~とか言ってて、お見かけしたのでご挨拶をさせていただきましたって。つきましては、ハルカ嬢にはよしなにお伝えくださいって言われたの~」
「両手をよく揉んでいて、シエルのことをやたらと持ち上げてたわよ。私たちともっと仲良くしたいのが誰にでもわかる感じで、ちょっと引いちゃったわ」
恐らくは直接、俺のご機嫌取りは難しいと踏んだのか、これまでの経緯からいきなりそれは無謀と悟って、まずは俺の姉分になるシエルから搦手で味方につけようとする作戦のように感じられた。
しかしそれよりも今は、最も驚くべき情報は、ルスタがジュリアンの従者に復職できたという話だ。
これまでルスタとジュリアンをあれほどに引き離そうとしていたジュリオ王と執事のロイスが、ここにきてあっさりと方針転換したことには何かあったのだろうか。
うーん、さっぱり見当がつかないな。
階下から夕食ができた、といった女将さんの声でハルカの思考は終わることになった。
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