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021 小さな英雄たちの日常(ルファとルイザの視点)

魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー




## 今回はルファの視点から始まります ##





あの王立キャンプ場であったトレインの事件から一日を終えて、僕はデイルード市にある自宅へ帰っていた。


僕のお父様はお仕事がお忙しい方だけど、いつも夕食時には帰ってきている。お父様のお仕事は他所の国の使節や大使と、大使館というところで面会したりおもてなしをしたりすることだ。


家族にはデイルード市から大きな官舎が与えられているんだ。もっとも国元にあるお屋敷と比べたら、ミニマムみたいな大きさなのだけど。




今の時間は両親と僕と姉のルイザが、リビングで穏やかに家族のひとときを過ごしている。


姉さんは王立キャンプ場での出来事を早く話したいらしくて、食事中でもウズウズとしているのが丸わかりだった。


いまは楽しそうにその話を両親へ報告していた。所々自分の知らなかったことや分からないことは、脳内創作機能が働いて、勝手に補完しているけどね。




「ーーーそれでね、ルファがその時にこういったのよ。『ハルカさんが一人で死地へいくというのに、男の子の僕が行かないわけにもいかないよ。とにかく知らせて、早く引き返すように伝えよう』って」




ブッ!




僕はティーカップに入った飲みものを、危うく吐き出すところだった。


うっかりと、今日の冒険に釘を刺すのを忘れていたよ!


ルイザ姉さん! それは言っては駄目なことだっ!




しかし姉さんは、その時の僕がいかに格好良くて誇らしくあったのかを、尚も自慢げに話し続けていた。




あの事件の後は、僕の無事を確認したルイザ姉さんは話しの一部始終を周りにいた人たちから聞いて、わんわんと僕を抱きしめて大泣きしていた。


その感情の昂ぶりがおさまってしまうと、帰り道ではこちらのロバ車にライナさんを押し込んで、姉さんはハルカさんとの話に夢中になっていた。


そんなことがあったせいで、避難にあった実際の出来事は誤魔化しておくようにと、姉さんと打ち合わせをしておくのを忘れていたんだ。



死ぬような危険もあった(実際に死ぬ覚悟をした)ことに、お母様からの落雷を覚悟しないといけない事態になった。ここはさっさと退散したほうが得策だ。




「ーーどこに行こうとしているの。お待ちなさい、ルファード。こちらに戻ってお座りなさい」


「はいお母様」


トイレに行こうとするような所作で、自然に立ち上がってさっさと退室しようとした僕に、母様は逃さないわよ、という意思のこもった凍えたような声で、そう僕を呼び止めていた。




「とっても面白いお話ね、ルイザ。その続きもぜひ聞かせてちょうだい」


ルイザは母様から話を催促されたことを喜んで、上気した顔になると早口で話し始めた。


「はい、お母様! それでルファは100頭以上いた魔物たちと戦ったの! ルファに恐れをなした魔物たちは、すごすごと火山へ戻っていったの!」




「100頭の魔物ですって?、、、ホホホホホッ、まさか。ルイザもいつのまにか、こんな冗談も言える年頃になったのね」


母様は一瞬だけ面食らった顔になっていたが、この話をすぐにジョークだと思ったようだ。


常識で考えた場合、Dクラスの魔物といえども100頭を相手に戦うなんて、普通に無理ってわかることだもの。




それで母様は、僕に確認を取る視線を向けてきたけど、僕は首を左右に振って戦ってはいないことを伝えた。


するとやっぱりね、といった顔になった母様は、安心して再びルイザに微笑んだ。この流れで終わってくれれば、さきほどの死地云々もジョークとして済むのかもしれない。




「本当よっ! 嘘を言ってないもの! 王立キャンプ場に残っていた一団の人が、100頭はいたって話していたのを私は聞いたの! けっして嘘なんてついてないわ!」




せっかく鎮火しかけた火が、また燃え始めた。


ルイザ姉さん勘弁して。




「本当のところはどうなんだ、ルファード」


「はい、お父様!」


誤魔化しをできるのも、ここまでか。


僕は腹を固めて、包み隠さずに話すことにした。




「100頭以上いたのは事実です。僕もその場に実際にいました」


「ほう、、、ではどのようにしてその魔物たちを撃退できたのだ?」


「ハルカさんという人が、魔法で一人で、撃退をしていました」


そう言うと、驚きを隠そうとしない顔をしたお父様がそこにいた。




「詳しく聞きたい。よく話してみなさい」


「僕が見たのは、地面からこう、オーロラの様なものが出てきて、僕たちがいた荷馬車を囲むと、魔物の衝突を防いでいました。あれはたしか、姉さんがブロックの魔法だって言っていたものじゃないかと思います」


姉さんは、あっと思い出したように、合点のした表情をつくると、両親はそれを見て僕の言ったことが正しいと思ったようだ。




「でもあれは60秒間程度でしか効果がないはずよ? 重ねがけができないことはないけれど、100頭からの攻撃に耐え凌ぎるのには、少なく見積もってみても15分から20分はかかると思うわ。それが500MP、1000MPともなれば、一人だけの魔力ではとても無理なのではなくて?」


さすがは魔法学に精通しているお母様。お母様は魔法師範の資格を有していて、屋敷に帰ると広大な敷地の一角に専用の研究室を持たれているお人だ。お父様との大恋愛の末に結ばれていて、今は外交官の妻として収まっているが、そのお話は後日に譲る。




「範囲はロバとロバ車を含めた大きさです。それがおおよそ20分近くは続いていました。それを一人でしていました」


「なんですって!! ロバとロバ車までですって! そんな。だとしたら単純でも4000MPじゃないの! それをとりこんでいたというの?」


「私はハルカちゃんがひと月前に回復士になったばかりだって聞いていたわ。それからええと、、、」


「そんな、まさか。う、うーーン、、、プクプク、、、」


お母様が壊れかけていた。ぼくでもさすがに四桁の数字はおかしいとこの時に気づいた。




「ル、ルイザや。それ以上のお話を続けると、母さんが、、、」


「それと! 午前中にもハルカちゃんが30分間、ブロックの練習をしていたのを見ていたわ!」


「ブクブクブク~」




このようにして、ルイザ姉さんはお母様にトドメを刺してしまったのであった。


☆


☆


☆




パタン。


僕は自分の部屋のドアを閉めると、机の方に向かい、備え付けの椅子に座った。




ーー僕はいつも退屈だった。


それが冒険者になったキッカケでもあった。


このデイルード市は娯楽がとても少ないんだ。




二ヶ月前まで軍政を敷いていたこの都市に、子供向けの娯楽は事更にひどいといえた。




繰り返すけど、ここはとても退屈な都市なんだ。




僕は幼少時から何でもソツがなくこなすことができてしかも優秀だった。だからどれに対しても打ち込むものがなかった。


男子だからといった理由で成人になるまでは続けなさい、との約束の元でしているだけの剣術のお勉強だって、ある時に先生から、君は生まれるのがもう少し早ければ、きっと勇者にだってなれたに間違いない、って言っていた。僕にとっては、そんなことはどうでもよかったけど。




ルイザ姉さんには誤魔化しているけど、女の子にその気があるように見せることがあるのは、本当のことだ。


退屈だから始めていたことで、相手と付き合いたいとか、そんな気はさらさらないんだ。相手が真っ赤になるまでの過程を、ただ楽しんでいるだけ。


おかげ様で、相手が夢中にならないあたりの線引きはとても上手になってしまった。そんな僕をルイザ姉さんは知らずに天然ジゴロだと言う。とても失礼だよ。




こちらへ来てからというもの、毎日ルイザ姉さんは魔術士になりたい、とか言い始めた。いつも唐突に行動したりするのがルイザ姉さんの特徴だ。


故郷の国からこちらへ移るときに、嵩張る荷物はすべて置いていくことになっていたのに、お気に入りの「銀髪姫は魔法で魔王を討ちました」という物語の本だけは、両親が注意をしても手放さなかったんだ。




ルイザ姉さんもこちらでは退屈だったのか、連日その本を読んでばかりいたら、あるときに冒険者になると言い出したんだ。


もちろん両親は反対したけど、家出して別の町で冒険者になる、とか言い出したので、僕が保護者になることを条件にして渋々と認めてしまった。


僕も退屈だったし、ルイザ姉さんが飽きるまでは付き合ってあげようかと始めたのが、僕が冒険者を始めた真相になる。




そう。ただの、退屈しのぎ。




キャンプ場で子供同士の模擬戦があったときも、退屈だからただ参加していただけ。強い相手がいたらまだ気が紛れるのに、そんな子はついぞいなかった。


模擬戦の後に、午前中からルイザ姉さんが騒いでいた、自分のお気に入りの本に出てくる、銀髪のお姫様にそっくりな女の子に会いに行きたいから付き合え、ってひどくせがまれた。


会ってみたらまだ10歳くらいの女の子だった。僕は過去に、8歳の女の子をその気にさせた記録が、実はあった。姉さんが知るのは、10歳までしか知らないはずだけど。




相手を振り向かせたい、なんてことはもうしないよ。




僕はたしかに退屈だったのだ。




でも、、、




☆


☆


☆




## オマケ。ここからはルイザの視点から始まります ##




私はルイザよ。ルファの姉になるの!


可愛い娘は大、大、大好き!


ハルカちゃんは特にお気に入りっ!




帰りのロバ車ではたくさんお話をしちゃったの。ハルカが私のお気に入りの物語に出てくるお姫様にそっくりだって、いっぱいいっぱい教えてあげたの。


ああ、もっともっとお話していたかった~




ハッ、今話したいのはルファのことだったわ。


あいつ、ハルカちゃんに気があるわね!


何でそんなことがわかるのか、ですって?


、、、


、、、


それは女のカンってやつよっ!(ドヤァ)




それに、私が避難から戻ってきたときに、ルファは姉の私に抱きついてきてから、こう言ってたの。


「僕は興味が持てるものを初めて見付けたよ」


って。


どう?


完璧な証拠ねっ!




あの子は何にでも興味がないやつで、人生を損しているタイプなのよ。


老人になってから、あれをあのときにもっと打ち込んでいたら良かった、とか過去をグチグチいうことになる愚かな人間になるのだわ。


そこだけは、万能超人の異名持ちの弟を持っている姉としては、唯一の欠点だと思っていたのよ。


それなのにあのルファが、興味がある=ハルカって言ったのよ?




それにこれは、あの子にとても大きな貸しを作れるチャンスでしょ。


あれだけ出来がいいと、姉としての尊厳がそのうちに危なくなるのよ!


ここはゼッタイに貸しを作らせてもらうわ!


そして未来永劫、私は弟の上に立つ姉の地位を安泰させるのよ!




ハルカちゃんは大好き。


私の愛も偽りはないわ。





でも、ルファの上にいられることは、もっと切実な問題なの!


私が冒険者になりたいっていったら、なんでアイツが保護者ならいいってゆうわけ?


私が姉なんだから、逆じゃなくてっ!?




ハァハァハァ、、、


ちょ、ちょっと興奮しちゃったわ。




最近はお父様もお母様も、そんな扱いをするのは、私だって気づいているの。


ルファが興味を持ったのなら、私がそれを成就させてあげるわ。




その夜のルイザの部屋からは、不気味な高笑いがずっと続くことになるのであった。

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