020 小さな英雄たちの誕生
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「ちっきしょーっ!! 二人抜きで終わっちまっただ! くやしいだっ!」
子供同士の模擬戦試合が解散になり、ライナは悔しそうにして戻ってきていた。
「おつかれさま。、、、まあほぼ年上の男の子が相手だったし、ライナよりも身体の大きな人たちなんだから、負けてもしかたがなかったと思うよ」
「相手が魔物だったら大きい小さいなんか理由にできねえしよ! でも、とても楽しかったぞっ!」
参加をしていた子供たちは平均が10~14歳くらいなので、10歳のライナにしては二人抜きはよく健闘できたほうだとは思う。
一人目はそれまでは勝ち続けていたものの、ライナの順番ではスタミナが続かず息を切らして敗退、二人目は同い年の相手でよく動いていてよく攻めていたが、冷静な対応をしていたライナの受け流しの末に、ついにとどめを刺された。三人目はライナもスタミナ切れになっていて、しかも年上で訓練を受けている動きの見えた相手だったので、ライナはみるみるうちに追い込まれて負けてしまった。
「ライナのすぐ後に勝った人は五人抜きをしていたよね。たしかルファっていっていたかな?」
五人抜きをした人はごく僅かな数で、その場で勝ち名乗りをあげていたのでよく覚えていた。ルファという子は12歳前後の年齢というのに、完成された流麗なフォームを身につけていた。あれは私設の道場に通っているか、もしくは剣術指南の元で修業をしているかのどちらかになる。
まだ型の訓練しか受けていない実戦の経験も乏しいルーキーやアマチュアばかりの子供の集まりの中では、ルファという少年の実力は群を抜いていたことは確かだった。
「そなんだ! あいつはフェイントの駆け引きがとっても上手でよ! あたいはそのフェイントについ体が動いちゃうんだ!」
「あのーこんにちは。、、、ちょっと君たちに用事があるけれど、いいかな?」
先程の模擬戦での談義で俺とライナが大いに盛り上がっていると、そこへ突然に話しかけてきた人物が現れた。
俺とライナがそちらを見てみると、それはいま話題になっていた、ルファという子供だった。
「お話中だったところなのに、すまないね」
「いやさっきぶりだやな! ちょうどよ、おめえさがずいぶん格好良かったって、二人で話してたとこだっただよ」
ルファはライナからそう言われると、顔を少し赤くすることになった。するとルファの後ろにいた女の子がモジモジとしながら、ルファをつついていたようだった。
ルファはそれに気づき気を取り直すと、
「僕はルファというんだ。あー、それから僕の隣にいるのは双子の姉なんだ。ほら姉さん、自己紹介をして」
「ごきげんよう。私はルイザと申しますの。ライナさんのことはすでに見知っておりますわ。それでそちらの銀髪の方、あなたのお名前は何と言うのかしら?」
ルイザと名乗った子はさっきから俺を見ていて、ソワソワとしている。ライナへの挨拶はそこそこにすると、それから俺の側に接近して興奮気味に名前を聞いてきた。
「ハルカですけど、、、」
俺はルイザが獲物を捕らえようとする獰猛になる目つきを感じとって一歩後ずさっていた。
おかしいな。こんな女の子に警戒するなんて。でもひょっとして身に危険が?
「きゃーんっ! ハルカってやっぱり可愛いわ! どう、私の彼女にならない?」
ルイザは突然にたまらずにハルカを抱きしめた。すると身動きが取れないハルカにクンカクンカして、至福のようなうっとりとしたため息をついた。
え? え? えええっ!!!
「ひ、ひいいっ!! 、、、あっふん。ちょそんな、、、って待て待て! ルイザは、そうだ! 女の子だろ!」
「わたしは性別なんて関係ないわ! 可愛いのは正義なの! 私はハルカを愛してみせるの!」
ルイザという少女は一見マトモそうであったが(しかも可愛いのに)とても残念な娘のようだった。
ある一定の時期に、思春期の一部の女子が経験をするものなのかもしれないが、女の子歴が満五ヶ月の俺には到底理解が及ぶものではない。
これにどう対応したらよいのかわからずにほとほと困ってしまった俺は、助けてくれとルファのほうに困った顔を向けた。
「ほらほら姉さん、そのぐらいにしておこうよ。ハルカさんもだいぶ困っているみたいだよ。そういえば姉さんは、何か質問があったんじゃないの?」
「ハッ! そうだったわ。ハルカちゃんが可愛くてつい我を忘れてしまったわ。、、、あの、もし間違いがなかったとしたら、さきほどブロックの魔法を出していたわよね。ハルカさんはもしかして回復士なの?」
「ええ、出していましたよ。回復士は、始めてからまだひと月ばかりですけど」
「えええっー!! それってすごくないの?」
「そういうものなの?」
よく分かってないといったルファが、ルイザの言葉にそう反応した。
「このお馬鹿! 範囲系の魔法はMPがとても消費するの! これがどんなにすごいことなのか絶対にわかってない!」
「ハハハハ、だから姉さんは君と話したいために、僕に連れて行ってほしいって、騒いでいてとても大変だったんだよ。そうか、すごいんだねハルカさんは」
ルファは真面目な瞳で、じっと俺の顔を見つめた。
混じりけのない金髪の碧眼といった風貌の上に、まだ子供というのに才気を感じさせ、利発で凛々しく優しげな顔は、女性の好感度を上げるのには十分な容貌を成していた。
身なりも良くて恐らくは良家の家柄の出で、それも高度な知的教育を受けている。このルファに見つめられて、ドキリとしない女の子はそうはいないのだろう。
俺も知らず知らずのうちにルファの爽やかな笑顔が作った口元から、キラリと光る歯こぼれに思わずドキリとしたのだが、慌ててそれを押さえ込んだのだ。
「べつに、今の取り柄ってこれくらいだから」
俺が淡々とそう話すと、それを見ていたルイザはルファのほうに向き合って、残念でしたといった顔を見せていた。
「あら残念ね、ルファ。ルファが見つめても赤くならなかった娘がいたなんて。もしかしたら初めてなんじゃない?」
「ちょっと姉さん、よしてよ! 僕がまるで女垂らしのようじゃないか。ハルカさんに失礼だよ!」
「そういってもうあんたは! これまでに声をかけてその気にさせた女の子たちが一体何人いるとおもってるの! この天然ジゴロめ。将来は女の敵になる人間ね!」
「そ、そんなことするわけがないでしょ!」
姉弟の漫才がこうして始まってしまっていたので、俺はもう見ているしかなくなったが、それはライナも同じだったようだ。
だがそのときに、外を眺めていたライナが、ピクリとなにかを感じ取った。
「んんっ? ハルっち、あれはなんだや? 火山で大きな土埃がどんどん舞い上がってこっちさきてんぞ!」
視力が人並よく外れたライナが俺にそう伝えてきた。すごいな、まだ俺からは点のようにしか見えてないんだけど。
言われて俺も火山の方をとくと注視をする。すると段々に本当にものすごい量の土埃が舞い上がっていることを確認することができた。
しかもその土埃は大きさを増していって、それが次第にこちらへ向かっていることがわかるようになった。
「んーーー? 先頭に人、、、3人っかな?」
「よく見えるね、私もなんとか見えるようになった。ところであの後ろの土埃は何だろう?」
「何かに追っかけられているんではないのかや? とても多いと思うんだに。ありゃ魔物か」
「え? それってまさか、、、まさか! トレインなんじゃ!?」
俺は全身が逆立つような感覚に襲われた。もしそうだとしたらここはヤバイ!
「、、、うん間違いはない。魔物がとても多い。このキャンプ場じゃ、ひとたまりもない」
火山地帯で魔物を複数引っ掛けて逃げている冒険者が、途中にある待避所を使わずに、下山のルートでこちらへ向かっているのだろうということがわかる。その数は増えに増えてすでに100を下らないだろう。
「ど、どうしたらいいだ! 、、、そうだ! あたい、このことをみんなに知らせてくるだよ!」
「いやまって!」
俺は今にも飛び出そうとしていたライナを引き止めた。
闇雲にトレインがこちらへ向かっていると大声で触れ回ると、皆がパニックを起こして我先にと出入り口へと向かってしまい、そこでパニックする人も出るかもしれない。
「あんたは、そういってこの前も、街中で10歳位の女の子を引っ掛けたじゃないの!」
「あ、あれは違うよ! あの子が急に道を飛び出してきたからしかたがなくて、、、」
ルファとルイザはまだ言い合っていた。
しかしいまは一刻を争う緊急時だ。すぐにやめてもらおう。
「すいません、ルファさんにルイザさん。緊急事態ですので、ご協力をお願いしていいですか?」
俺が真剣な声を出してそう言うと、二人は俺からただならぬ気配を感じとり、俺が説明することに耳を傾けて聞いてくれた。
「ありがとうございます。実はこちらへトレインが向かってきているようです。幸いに発見が早かったので、時間にはまだ猶予があります。このことを一様に知らせるとパニックが起こるので、ここにいる四人が一人ずつ、ロバ車へ声をかけて、順番に出入り口まで誘導をしてください。くれぐれも大声は起こさずに、、、よろしいですか?」
俺の最後の確認に、他の三人が了解したといったように黙って頭を縦に振った。
それからはその手はず通りに、キャンプ場にいた人たちを全て誘導し始める。
そして誘導を終えた俺たち四人も、それぞれのロバ車に乗ってから東口のキャンプ場を出て、ホッとしたのも束の間のことだった。
「あれ? あっこにさ、これからキャンプ場に入ろうとしているロバ車が1台いるだよ」
手綱を持って東へとロバを進めていた俺は夢中で気がつかなかったが、周囲の警戒を担当していたライナが、背後の状況を伝えてきた。
「え? 、、、本当だっ!」
高原地帯でこ高い丘の上にある王立キャンプ場は、南口の斜面から坂を登ると、火山の方角が死角となって見えづらいのだ。かなり近くに見えていた土埃も、どうやらあちらからは見えていないのだろう。
「この手綱はライナに任せた! ライナはこの荷車をもっと遠くへ避難させて!」
俺は手綱をライナに持たせると荷馬車をすばやく降りた。
「ええええ? そんなことをしていたら、ハルカが死んじまうべっ!?」
「私を信じて! ね! お願いだから! 引き返すように伝えてから戻るから」
おろおろとするライナはハルカにきっぱりと断言をされると、困惑しながらもハルカの指示にうなづいた。
「僕も行くよ!」
声のする方を振り向くと、俺と同じくロバ車を降りていたルファがいた。
「ルファっ! 危険なんだ! 引き返してくれ!」
「ハルカさんが一人で死地へいくというのに、男の子の僕が行かないわけにもいかないよ。さあ早く知らせて引き返すように伝えよう」
そう言うと、ルファは一足飛びに走り出していた。
俺も遅れじと後を追うが、彼とは元々コンパスが違うし、こちらは2ヶ月の病み上がりで、基礎体力もすごく怪しい感じだ。脚力はみるみるとすぐに落ちていき、俺が追いついた時には膝がガクガクとわらい息のほうも絶え絶えだった。
ルファはすでにロバ車の人たちに説明を終えていて、こちらへ向かって出て来ようとしていた。
その時に西口のほうから、三人組の男たちが雪崩込んできた。
武器や防具は走っているさいに邪魔になって捨てたのだろうか、下り坂を走ってきたとはいっても、走ることはもうやっとのようだ。
「誰かぁぁーー!! たっ、たっ、助けてくれよぉーーーー!!」
「ハァヒィ、な、なんだよっ、もう誰もいねえじゃないか!!」
「ヒィヒィヒィ、限界だ。、、、おい! あそこに一台だけロバ車が止まっているぞ!!」
「あのロバ車にのせてもらうぞ!」
三人組の後ろからは、すでに数えるのも難しくなった、およそ100頭以上はいると思われる魔物たちが追い迫ってきた。彼らがそのロバ車に乗れば、ただでさえ速力が心もとないロバ車が、簡単に魔物たちに追いつかれることは明白だった。
「おい乗せてくれ! 俺たちはもう限界なんだ!」
「ええいっ! お前たちは待避所を使わなかったのかっ! おい、手をかけるな!」
「元気のあるお前らが走ればいいだろ!」
荷車では二組のグループが、迫り来る魔物たちを前にして、押し合いへし合いを起こしていた。
しまいには、ロバ車の人たちは武器を抜いて三人を追い払おうとする場面になった。これを見ていたルファは、さすがに思うところがあったのか、
「そんなことはやめてください! それにもう、、、もう、間に合いません!」
ロバ車の後ろには、魔物たちがすぐそこまで迫っていた。
「だめだ! 追いつかれる! お終いだ!」
装備を捨てていた三人組にはすでに走る元気はなく、また武器を持った人たちも100頭からの魔物を前にして、黙って運命を受け入れるしかなかった。
この状況に誰もが諦めるしかなくなった。
“ごめんルイザ、ぼくはどうやらここまでのようだ”
尋常ではない敵の数にもはや打つ手はない。こうなったらせめて、ハルカさんをかばいながら死んでいこう。
ハルカさんを見つけたら僕の身体で覆って、ハルカさんだけはせめて守ろう。
ルファは必死にハルカの姿を探した。ハルカを探し出してこれを守るために。
だがその瞬間、地面からオーロラのカーテンのようなものが現れい出て、次いでオーロラは大きくなって荷馬車を取り囲んでいった。
そこに火山地帯から追いついた魔物たちが次々と衝突しては跳ね飛ばされていた。
「な、なんだ!」
「なにが起こっているんだ?」
「おい! よく見てみろ! この荷馬車のまわりに大きなシールドが張られているぞ!!」
「誰がこんなことを起こしたんだ? こんな大きな魔法は、ルーキーやアマチュアのやつはできっこねえ! 一体誰が起こしたんだ?」
「、、、あ!、、、あそこだ!! 荷車の下で魔法を使っている女の子がいるぞ!!」
「おおう、ありがてぇ!! がんばってくれよ! お譲ちゃん!」
魔物たちはしばらくの間、体当たりを続けて繰り返していたが、自分たちの攻撃が全て届かないことがわかると、次第に落ち着きを取り戻して、やがて次々と火山地帯へと戻っていった。
「はぁー助かったぜぇ。あやうく轢き殺されてお陀仏になるかと思ったからな」
タッチ。
「はれぇ、、、おー、、、い、なんだか眠い、ぞ。、、、グゥ」
タッチ。
「! なんだ、なにを、し、、、やがった。 くっ冗談じゃね、、、えぞ、、、グゥ」
「どうもこうも、、、ハァハァ。このまま見過ごしてもらえるなんて思わないでくださいね」
俺はロックの魔法を上書きで何度も展開した後、今度は彼らに眠りの魔法を展開していた。
この件ではこの三人は立派な犯罪者なのだ。
幸い人死は出なかったがトレインは立派な犯罪である。後で冒険者ギルドに引き渡す必要もあるだろう。
かなりの時間が経過して、キャンプ場から抜け出していた荷馬車が、一台また一台と戻ってくるようになった。
「よかっただよ!! ほんとに無事でよかっただ!」
ライナは大粒の涙をたくさん落としながらハルカに飛びついていた。
ルファとルイザもその近くで、お互いの無事を確かめあっていた。
周囲にはいつの間にかたくさんの人が集まって、四人に感謝の言葉を口にするようになっていた。
やがて火山地帯から帰ってきた上級の冒険者たちも集まり、このキャンプ場にいた全ての人が無事でいたことを、お互いにとても喜んでいたのだった。
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