019 火山で起こしてはならない名物
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「ふあぁ。平和だねー」
「くあぁー。んんーひまだやなー」
ハルカとライナはポカポカとした陽だまりの中にいた。ここはデイルード市から出発してロバ車(ロバが引く荷車)で向かうと、3時間あまりで到着することができる、平和な王立キャンプ場の中にあった。
王立キャンプ場はその名の通りに公共のキャンプ場のことで、旅の途中でだれでも自由に使える水場のある場所のことだ。質素で簡易的な柵などで囲われた造りとなっている。
西側に連なってそびえ立っている急峻な火山地帯と、斜面上を登っていく王立キャンプ場の南道を除いては、辺りの一体はなだらかで見晴らしのよい景色が続く、牧歌的な高原の風景を描いていた。
ここら辺では魔物を見かけるということがまずないので警備もなくて、こうして冒険者たちのロバ車が集まっていることが場違いに思えてしまうだろう。
ハルカとライナの二人がここにいる理由は、お留守番のお仕事をしているからである。王立キャンプ場の中を見ると二人と同じように、荷車の上で番人をしている人たちが幾十組もいた。
彼らは皆「荷車の番人」というクエストを受けた、10歳から14歳ほどの若い冒険者たちなのである。これは別称でルーキーと呼ばれているランク[E]、アマチュアと呼ばれるランク[D]の冒険者に割り当てられるお仕事だった。
「荷車の番人」を出した彼らの依頼主である上位の冒険者たちはというと、火山地帯に自生している植物を採集するクエストのために、ここ王立キャンプ場を拠点にして、出掛けていたのである。
王立キャンプ場は周囲を簡易だが柵が張り巡らされているので、獣害対策もある程度は万全になっていた。もし万が一の場合には、「荷車の番人」のクエストを受けた冒険者が、ロバ車を避難させるようにと取り決めをされていた。
「そういやよ、ありがとうな」
「ん? なんのこと?」
「あたいがエンターさんたちの【サポーター】になれたっちゅうのはよ、ハルカのおかげだからさ」
「そのこと? 私のほうこそライナを頼りにしなければならないし、これはお互い様になるんじゃないかな?」
「だどもなー、お礼だけはまずはいっとくさ」
【サポーター】とは、自分のランクよりも高い上級冒険者たちの雑用を受け持つ雇用契約のことだ。契約を結んだ冒険者たちと一緒に行動して、こうした番人や荷役をするのが主だった仕事になる。
俺とライナは先日に、エンターさんのパーティーとサポーターの契約をしたのだ。契約したことを冒険者ギルドに届け出ておくと、一定のランクポイント報酬を受け取ることができるのだ。
エンターさんたちの本来のお仕事は、今回のようにクエストをこなしていくものだ。俺を護衛するお仕事を兼ねつつ本来のお仕事もするのなら、この【サポーター】は実に打って付けな制度だと思えた。
この際なので、ランクのことを少し説明しておこう。
すべてのランクの別称と階級を並べて紹介しておくと、
英雄と認められているランク[S]
ハイマスターと呼ばれるランク[A]
マスターのランク[B]
プロと認められるランク[C]
アマチュアのランク[D]
ルーキーと呼ばれるランク[E]
凡人のランク[F]
と分かれている。
パーティーの組み方についてもついでに説明しておく。
ランク[B]とランク[C]が組む場合、クエストはB級またはC級が受けられる。
ランク[B]ランク[C]ランク[D]が組む場合、クエストはC級のみ受けられる。
受けられるクエストの等級は、1階級までのアップダウンまでと定められているのだ。
そうそう、俺は職業(一次職)の選択で回復士を選んだ。
「ハルカちゃん、君は底の見えない体内魔力を持っている。とりあえずその理由だけでも、魔法職を選ばないという選択肢は無いだろう。例えこれから体力測定器で君が優秀な値を出して物理職に適性があったとしても、俺は魔法職のほうを勧めたいね」
とギルド長から言われた言葉が決め手だった。
以前の勇者ハルキは、前衛職のエキスパートだった。なので魔法職の素質があるといわれても、古い感覚が慣れ親しむのは、物理職の方に間違いはない。
とはいえ、今の平民少女のスペックは勇者ハルキとは別人のものだ。しかも病院で三ヶ月間リハビリに明け暮れた後に、ようやく社会復帰できたのは、つい二ヶ月前のことなのだ。通常の生活は無難に過ごすことはできるが、冒険者としての生活はまだまだ前途多難だった。
それで適性があるというのなら、まずはそちらに進んでおこうと決めたのだ。
素質があると言われた魔法職は、魔術士か回復士の二つが該当する。
しかし魔術士のほうは早々に諦めざるを得なかった。何故なら魔術士の魔法は、コントロールの部分がとても重要になるものが大半だからだ。
魔法の発現は、集中力(体の中にあるオドを意識的に感じ取る力と詠唱でそれを溜めていく力とイメージを起こす力)と、それをコントロールできる(実際に的へ飛ばす力や範囲を指定することをする力)ことが重要になる。
だがしかし俺の集中力では、イメージを起こすところまでは良かったのだが、念じた瞬間に魔法がすぐに暴発して失敗していることが多く、これではとてもコントロールを働かせることが不可能だった。
その点、先ほどに挙げた欠点は、回復士にとってはむしろ利点に多く繋がっていた。というのも、回復士の魔法は接触系や、自分を起点とした範囲系の魔法が多いからだ。
接触して相手に与えたり奪ったりする場合や、自分を起点として魔法を発現する場合には、大雑把なコントロールで事が足りるのだ。
俺はさほど集中力を必要とせずに魔法を発動できてしまうしMPは無尽蔵ともいえそうなので、こちらでは正に天職だと思えた。
「あたいの目の前にキラキラ光るオーラが出てくるのは、ひょとするとハルカの魔法かや?」
「うん。ブロックってゆう魔法の練習をしているんだ」
俺はいま、範囲系で物理防御となる発現の訓練をしている。60秒限定の魔法だが、これの使える点は常時の上書きが可能といった点だ。無尽蔵にMPがあるので、試しにこれを習得しようとおもったのだ。
ライナはそれを興味深げに眺めている。おお、ちっさくなったぞ、今度はでっかいぞ! などと範囲を小さくしたり大きくしたりしては、大はしゃぎになった。
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10時にクエストを開始したエンターさんたちが、ここの王立キャンプ場を出てからすでに2時間が経っていた。時間はちょうどお昼頃になる。
大人がいないのに子供だけで火を扱うことは止められていたので、お昼のご飯はマーサさんに作ってもらった作りおきのサンドウィッチになった。
昼食を終えると、キャンプ場には「荷車の番人」をしている、若いルーキーやアマチュアの冒険者たちが、雇い主のパーティーが帰ってくるまでの待ち時間に様々な過ごし方をしていた。
魔法職は大人しく荷車の上で過ごしている人が多かったが、満腹になった物理職の人たちはジッとしているのがとても苦手なのだろう。素振りや型の練習を、荷車の近くでする人を多く見かけるようになった。
その内にある一角で、模擬戦を始めた人がいたことで、それがいつの間にか周囲を取り囲んだ集まりになっていた。ライナはウズウズとしている。
「ここの番は私がしていてあげるから、ライナは模擬戦のほうへ行ってきてもいいよ」
俺はそう提案すると、ライナは子犬が尻尾を振ってはしゃぐように、体の全体で嬉しさを表わした。
「いいのか! それならいってくるだよ! おおーい! あたいも混ぜてくれよ!!」
元気よく模擬戦をしていた輪に加わって、さっそく順番待ちを始めたライナを、ハルカは荷車の上から苦笑しながら眺めていた。
そういえば、もうそろそろになるのかな?
エンターさんたちは、クエストを無事に終えているだろうか?
出発した時間と人数で割り出すと、ちょうどクエストが終わっていてもいい時間だと思った。
エンター、アルフレット、サミー、シエル、エンリカの五人は、火山地帯にしか自生しないといった薬草を採取してくるクエスト中なのだ。
火山地帯というとかなり危険なイメージもあるが、それは奥へ奥へと進んだときのお話で、エンターさんたちが採集を行なっている今回の場所は浅いということもあり、魔物の危険度はそれほど高くはないはずだ。
しかしそれでも、実は気をつけないといけないことがある。それがひとたび起こると、たとえ上級者がいても討伐が難しい敵となってしまう。そうした理由から、そこに分布している魔物がDクラス程度のはずなのに、依頼の内容はCクラスの扱いになっていた。
だが心配は無用だろう。そうした事態に万が一にも待避所が設けてあるのだから、そうそう起こりえるはずはないのだ。
「あれはさすがに、勇者ハルキでも大変になるからな。起こらないことを祈ろう」
ハルカは無事にエンターたちがここへ戻ってくることを祈ったのだった。しかしこのときは知る由もなかったが、その危険はエンターたちではなく、ハルカに迫っているものだったのだ。
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「こちらはもうこれぐらいでいいだろう。おおーい、そちらはどうだー?」
薬草集めでエンターとシエル、アルフレットとサミーで別れて作業をしていた。エンターは、アルフレットのほうへ声をかける。
「こちらもクエストで納める分の半分ちょっとの薬草は取れたぞ。そっちと合わせれば、ちょうどにいい位にはなるんじゃねえのか?」
「ちょっとアル、あんたの後ろ側の近くまでモンスターが近寄ってるみたいだから、もっと気をつけなさいよね」
二組の中間の場所で、モンスターの気配察知の魔法を展開していたのはエンリカだった。
「おおっと、危ねえ危ねえ、っと」
「この火山地帯は、魔物の数がとても多くいるのがとてもやっかいだよね。個体自体は弱いのにリンクがし易いから、、、」
火山特有の熱さと作業によって額から出た汗をハンカチで拭っていたのはサミーだ。
「今日はここにいるパーティーが多いです~トレインが発生しなければいいのですけど~、あ、、、あれは起こってしまっているのです~」
シエルが遠目でそう言うと、パーティーの皆の間には緊張が走った。
「どこだ!」
シエルが向いている方角へ皆の顔が一斉に振り向く。と同時にその近くからは叫び声が聞こえた。
「トレインだーーーー!! みんなー逃げろーーーーー!!」
かなり遠くのほうから他のパーティーへ警告を発している声を出している。アルフレットたちは一度集合するために、エンリカがいる地点まで急いで集まった。
「トレインは一体どこへ向かっているんだ?」
さきに到着していたエンターに向かって、アルフレットは息を整えながら声をかけた。
「ああ不味いことに、トレインで追いかけられている連中は、下山のコースを使っている、、、となると、どうやらルール違反者のようだな。もしかしてキャンプ場に逃げ込むつもりじゃないのかな」
エンターは状況を分析すると、苦々しく吐き捨てるようにしながらそう言った。
「おいおいマジかよ!、、、っったくよ。この火山地帯にはリンクした場合の待避所をあちこちに何箇所か設けてあったはずだろ。そいつらは事前にそれをチェックしていなかった、間抜けな新米たちの仕業ということかよ。、、、このままじゃ、キャンプ場にいる人間がヤバイぞ! エンリカ、いまは何頭くらいリンクしているんだ?」
「いまは30くらい、、気配察知を最大にしているけど多すぎて、、、キャンプ場に到達するとしたら、、、、100を超す数になっていたとしても不思議じゃないわね」
エンリカは気配察知の魔法を最大にしたために、苦悶の表情を顕にしている。
「そんな数じゃ、王立キャンプ場は持たねえぞ」
アルフレットは思わず舌打ちをした。
「となると、、、キャンプ場にいる誰かがこのトレインに気づいて、自主的に退避してくれることを祈ることしかなくなりそうだね」
「ハルちゃんライナちゃん、どうか無事でいてぇ~~!」
シエルの慌てた声が火山に響き渡った。
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