017 振り切れる体内魔力測定器
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「さあ皆! 我らの天使、ハルカちゃんを一緒に呼ぼう! サンハイ、ハッルッカ!」
ハッルッカ!、ハッルッカ!、ハッルッカ!、ハッルッカ!
親衛隊と思われる人たちが、ステージのある最前列でハルカコールを熱唱する。
ここはカルロの酒場。かつては魔王軍と戦うために、世界各国の軍人たちがこのデイルード市に集まり、この酒場の賑わいを占めていたが、それはもう五ヶ月前までのお話。
そして先月まではならず者の三人組が、市中警備をしている兵士と共謀して、酒場の主人のカルロに嫌がらせをしていた。おかげで人っ子一人入らない閑古鳥が鳴く有様となってしまっていた。
だが現在はそうではない。防音設備が薄いその古臭い建物の中からは、酒場には場違いの、野郎たちが出す野太い黄色い声が、場外にまで木霊を起こしていた。
「同好の諸君、さあお待ちかねだ! ハッルカちゃーんのご入場だーー!」
全身を銀ラメで光るスーツを着込んだヘンタイ紳士、もといアルフレットが、勢いよく叫ぶと、奥のスタッフルームから続く通路に備え付けられていた垂れ幕が上がり、そこからウェイトレス服を着ている美童女が現れた。
「いらっしゃいませぇ、ご主人様たち。今日も来てくれて、ハルカはとってもウレシイですっ!」
ハッルッカ!、ハッルッカ!、ハッルッカ!、ハッルッカ!
ハルカコールはますます大きくなる。
「さあ、今日も我らの天使ハルカちゃんが、君たちの注文したオムライスにハァトを書き入れてくれるぞ! ここの入場券の半券が10枚貯まった人には、天使との握手ができるといったサービスをお見逃しなくっ!」
ウォオオオオオーー ! ! !
「ハッルカチャーン! コッチを向いてポーズ!! イイネー!」
「そこを押すなっ! こっちは3時から、この場所を確保していたんだぞ!」
「デュフ♥ さ、さいこうなんだな♥ もっもっときわどい格好をす、するんだな♥」
「あー! 踊り子さんには触らないように! ソコだ! ソコソコ!! もっと離れろッ!!」
会場は異様な熱気に支配されていた。
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「もういやです(怒)! もう絶対にやらないからっ(怒怒怒怒)!」
楽屋、いやこの店のスタッフルームにいたハルカは力強くそう言い放った。
「え? そりゃねえだろ。ここまできてやめちまうなんて、暴動がおきちまうぞ!、、、ヒのフのミ、と、、、」
アルフレットはたくさんのコインを確認しながらハルカを説得するが、ハルカは尚も頑なに拒む。
「人助けをするって言うから、恥ずかしいのにアルの企画に乗ってあげたんだよ! 普通にウェイトレスをするだけのものが、なんでこうなっちゃっているわけ?」
「そりゃあ需要が、、、って違うぞ、お客様からのご要望とかリピーターがあってだな。まあ、いいじゃねえか。おかげでこの酒場の売上は今、V字の急上昇中なんだぜ?」
「でもハァトを書くサービスはおかしいよ! 他の飲食店でそんなサービスってみたことないし!」
「おいおい。それはハルカという逸材有りきのサービスなんだよ。他じゃあ真似ができないサービスっていうのは必要だろ。そのサービスでワンオーダーで銀貨ニ枚がプラス収入になるんだから、儲けとかないと損ってもんだろ?」
(この世界での通貨は現代の日本では以下の通り。白金貨=十万円、金貨=一万円、銀貨=千円、銅貨=百円、黄銅貨=十円相当)
「あのねえ。飲食業どころか、ここは今や私の着せ替えの見世物小屋になっちゃっているよね? アルがこのお店を助けようって言ったのはこんなことをするためだったの? 、、、こんなのはいやだっ! もういやだったらいやなんだ!」
「そ、そうだよ。わしもアルフレットさんがプロデュースしてくれたこの企画にケチをつけるわけじゃあないが、、、最近は町内会からも風紀が悪くなったとかでクレームが出るようになってね。これ以上はさすがに難しいというか、、、」
「だったらいっそ、文句の出ねえ場所をどこかで借りちまって、三人でこのまま大儲けをしようじゃねえか?」
「「お断りします!」」
かくしてアルフレットの野望は一ヶ月間で潰え、一部の人たちには大変に惜しまれながらも小劇場は畳まれた。
カルロの酒場は平穏だった昔日の営業に戻されたのだった。
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バッキーーーィィィンッ
「ものすごい勢いで振り切れたわね」
「不良品かもしれないんだよ~」
「この冒険者ギルドにあるもので、不良品はないはずなのですが。ハルカさんの前の方までは普通に作動していましたのに、、、」
いまハルカたちの目の前に置かれているのは、体内にある魔力がどれほどあるのかを測る、体内魔力測定器だ。
「替えのものを持ってきますので、少々お待ちください」
職員さんはそういうと、席を立ってしまった。ちなみにシエルとエンリカがいるのは、護衛隊のお仕事中だからである。
俺はつい先日、冒険者ランク(F)の課題実習と座学の全てを履修したことで、冒険者ランクが(E)へと上がったのだ。
ランク(F)と(E)の違いは3つある。冒険者のお仕事が受けられること、冒険者ギルドにあるトレーニングルームや各種施設を大幅な割引で使えること、基本職を選んでその訓練実習を指導してもらえることだ。
もちろん、こうした恩恵が受けられるのと引き換えにして、ギルドに月々に上納する会費が発生する。ちなみにランク(F)は、冒険者の仲間内ではルーキーと呼ばれることが多い。
基本職は、それまでは職業がノービス(万能職)だったものが、4つの職業(一次職)から選択が可能になる。
4つの職業の内訳は、戦士、弓士、魔法士、回復士で、選択は自由になるが、基礎魔力値が低いのに魔法士や回復士を選んでも後々に伸び悩むし、体力や筋力のない者が戦士や弓士を選択しても、これも後々で伸び悩む結果になってしまう。
このために、ランク(E)になった人は、大抵の場合はギルドで能力測定をしてもらい、自分に向いた職業を選択するのが一般的になる。
さきほどの体内魔力測定器は、本人が物理職か魔法職のどちらに向いているのかを選別するための、一番初めに行う能力測定となるものだ。
職員が帰ってこないのをよそにして、エンリカが舌をペロリと出しながら、自分の両手を体内魔力測定器に合わせていた。
「350MPって出ているわ。この前検査ででていたのと同じ数値ね。、、、これって故障してたんじゃなかったの?」
「私もやってみるぅ~、、、475MPって出たぁ~。これ普通に使えてるっぽ~い?」
MPというのは体内魔力の値のことで、いま出ている数値はその最大値になる。この数字が大きければ大きいほど、使える魔法の数が増えたり、大きな魔法が使えるというわけだ。
このMP管理を疎かにして無計画に魔法を使う人は、いざというときにはただのお荷物になる。そうしたことを繰り返す人は、上級ランクのパーティーでは誘ってもらえなくなるのだ。
「もしかすると、さっきだけ調子がおかしかったのかな?」
おれは再び、体内魔力測定器に両手を置いてみた。
バッキーーーィィィンッ
針はMAX(999)まで、また振り切れてしまった。
☆
「検査の結果がでました」
職員さんが真顔でハルカの顔を見て話す。
「ハルカさんは、体内魔力測定器では測れないほどの、体内魔力があることがわかりました」
ギルドにあった全ての測定器を使ってみても、どれも最大値まで針が飛び出すので、測定器が不良品ではないことが明らかになった。
「フーン。わかりました。じゃあ次の検査を受けてきます」
俺はそういって、隣の部屋で行う体力測定を受けるために部屋を出ていこうとした。
ガシンッ!
ドアに向かって歩きだすと、そばにいたエンリカに頭を掴まれた。
「待ちなさい」
「え?」
「フーン。、、、じゃないわよッ!!」
エンリカがそう言うと、そこにいたシエルも職員たちも、首をコクコクと縦に振っていた。
「あ、あんたはねえ! あたしだって冷静になるのが難しいのに、本人がそれをスルーしてるなんて、もうありえないでしょ!」
改めで見回してみると、確かに誰一人として、平静に見えないほどに、落ち着きがない姿を見せていた。
しまった、これは俺も一緒に驚かないといけない場面だったんだ、と遅まきながら気づいた。
「これって普通に有り得ないことなのよ。こんなにMPがあるなんておかしいのよ!」
そうなのか。いやそうなのだろう。
しかし俺は元勇者だったので事更に驚かない。勇者というものが規格外の存在だったからだ。
「ではそこからは俺が説明しよう! 俺はこの冒険者ギルドでギルド長をしているカールだ。よろしくな!」
声のした方角に突然に現れたのは、カールと名乗る50代初めの痩身の男性だった。金色に光る大きなバッチを胸につけていることが、ギルド長なのだと証明をしていた。
「ハルカちゃんは10歳だろ? 当たり前の物差しがまだよく分からないから、驚かなくてもしかたがないんだろうな!」
カールは顎髭に手をやった。そしてフフン、とドヤ顔になる。
物差しね。俺の物差しは勇者単位だから、一般的な基準がまだよく分かっていなかった。
「俺の見立てが間違っていなければ、ハルカちゃんは、"神々に愛されし者"と思っている。おい、その辺は君が説明してくれ」
側にいた女職員に説明をさせるつもりらしい。アンタが今説明するって言ったくせに。面倒くさい説明になると嫌なんだな。
「あ、はい。、、、"神々に愛されし者"とは、大抵の場合は生まれながらにして先天的に持っている異能、もしくはギフト持ちになる人物のことを指す場合が、一般的になるんです。"神々に愛されし者"はどなたも特長として固有になる"奇跡の力"をお持ちになります。その力はとても有能で、、、時には強大になるケースが多いのです」
職員はこれでいいですか、とギルド長に向いて話を立ち切った。カールはそれを鷹揚に頷いた。
「ハルカちゃん、君は底の見えない体内魔力を持っている。とりあえずその理由だけでも、魔法職を選ばないという選択肢は無いだろう。例えこれから体力測定器で、君が優秀な値を出して物理職に適性があったとしても、俺は魔法職を勧めたいね」
辺りを見回すと、皆もそうしろ、と目で訴えかけていた。
うーむ、前衛職のほうが好きなのに。
そんなことを切り出せない雰囲気だ。
「、、、そうですか。ではそうします」
俺は仕方が無くそう返事をすると、皆は緊張を解いて、どっと疲れたようにしていた。
「あそれとだ。ーーー君たちは退出してくれたまえ」
ギルド長はそう言うと、精密測定器のある部屋から、職員たちを出て行かせた。
しばらくして、部屋の中には、シエル、エンリカと、俺の3人となった。
「たしか君は都市長の婚約者だったよね。ーーー実は王からはその辺の事情を聞かされているんだ。王子の婚約者だということは他言するつもりはないから、安心をしてほしい」
自分が王子の婚約者として知られてしまうと、営利誘拐などが急増するので、この言質は歓迎だ。
「王子が都市長として活動する一年間は、君も当然にこの都市に滞在をしなくてはならないだろう。その間は俺ともよい関係でいてほしいと願っているわけだ。“神々に愛されし者”には穏便にお願いをしたい。ーーーまあよろしく頼むよ」
カールはいきなり生真面目な表情になった。
彼は淑女に挨拶をするようにして、手袋を脱いで手を差し出した。俺も相応の返礼で返す。
「これで俺の用件は終わりになる。ああ、それとーーーシエル。ーーー君の探し人は見つかったのかい?」
「ええ」
いつもののんびり屋のシエルの顔が、珍しくも真剣さを帯びながらの笑顔を作っていた。
カールとシエルの言う探し人は誰なのか、その人物を見つけたことがなんの意味があるのかは分からない。
こうして俺たち3人の会合は終わった。
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