016 閑古鳥の鳴く酒場(後編)
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
それは天気がよく晴れた、早朝にあった出来事だった。
小春日和亭の女将のマーシャは、夜のうちに出されていたお客の洗濯物を集めると洗濯場へ持っていき、洗い終えた物を中庭で全て干した。それから足りない食材を調達するために出かけようかとした矢先に、自分がよく見知っている訪問客が玄関にいたのを発見した。
「あら珍しい。カルロ叔父さん、お元気?」
「やあ久しぶり。マーシャが相変わらず元気そうでよかったよ。宿屋の経営も順調そうじゃあないか、安心した。、、、それはそうと、今日は折りいった相談があってきたんだ」
そこにいたのは、このデイルード市で大きな大衆酒場を営んでいる、マーシャからは母親の弟にあたる、親戚筋のカルロという男性だった。
カルロ叔父さんが相談?
マーシャが同じ商売人として、真っ先に思い浮かぶのは借金の申込みだ。
このデイルード市に、魔王軍と戦うために世界中から集まっていた軍隊がいたのも四ヶ月前までのことだった。魔王が倒されて魔王軍も瓦解してしまうと、この市にあれだけたくさんいたはずの軍人たちも、市中警備を担当する兵士以外には、今では見かけることも少なくなってしまっていた。
いなくなった軍人さんたちを相手に商いをしていた、叔父の酒場の売上が低迷していることは、マーシャもなんとなくわかっている。
しかしこれまでの数年間分の蓄えはかなりあって、これといって遊びぐせのない叔父さんは、四ヶ月の赤字程度でお金を借りに来るのかというとそうでもないことも知っており、現実味としては無さそうなことなのでさてどのような相談なのかと、マーシャは一頻り頭を捻る。
ただ相手が相談と言うのなら、玄関で立ち話で済ませることはできそうにもない。マーシャは先程まで洗濯物を干したばかりの自分が居た中庭へと、とりあえずカルロを案内した。
「これから朝の市場へ買い出しにいこうとしていたんでね。すまないけど、ここでいいかしら?」
「ああ、十分だよマーシャ。、、、実は、、、」
カルロの酒場の売上はマーシャが睨んだ通り、ひどく落ち込んでいたことを説明しはじめた。日々の細々とした暮らしをなんとかしてきたが、最近になって自分の酒場には兵士と結託したならず者たちが、嫌がらせをするために来ていること、このせいでお客がついに誰一人来なくなったことなどを挙げた。そいつらは酒場の土地を売り渡せと、カルロに脅迫しているというのだ。
「もうどうしようもない。こうなったら暫くは、お店を閉めておこうかと思っているんだ。それで今日は、しばらくのお別れの挨拶に来たという訳なんだ」
「そ、そんな。、、、そうだわ、都市長に陳情書を出してみては?」
「何回か出してみたんだが、返事は無くてなしのつぶてだったよ。、、、なあに蓄えはあるんだから気長に待つつもりで、どこかへバカンスに出かけてくるよ。、、、そこで相談なんだが、わしがどこかに落ち着いたらこちらへその連絡先を伝えるから、酒場のほうで何かあったら、それをわしに教えてほしいんだ」
「そういうわけだったのか!」
声のした方を二人がみると、そこへ突然現れたのはアルフレットだった。頭には葉っぱなどがついていて、どうやらどこかに隠れていたらしい。
「きゃああっ!! あ、あんたは、シエルのお仲間さんじゃないか。ってなんでここにいるのさっ!」
この小春日和亭の敷地内は、許可なく男性が入ってはいけない場所だった。
「!! 待ってくれマーシャ。、、、あんたはひょっとしたら、先日うちの酒場にきていたお客なんじゃないか?」
「そうだ、覚えていてくれてなりよりだ。俺もあの一件は気になっていて仕方が無かったんだ。そういったことなら俺が一肌脱いで解決してやるぜ」
「解決できるのかい! それは本当なんだね? 正直今は藁にでも縋りたいんだ、、、 ? それはそうと、それを言うためにアンタは、ここまでわしを追いかけて来たのかい?」
「うん? ここで会ったのは単なるグウゼ、、、ン、いやアンタのいうとおりさ! アンタのことがとても気掛かりでつけちまったんだよ」
マーシャの放つ恐ろしい眼光を前にして、怯えたアルフレットはカルロの手をしっかりと強く握っていた。
そこへ奥にある建物内のほうから、この中庭へ近づいてくる数人の早足の音が聞こえてきた。
「ちょっとまちなさあい~! そんな格好はメっていってるでしょ~」
「いいじゃんかあ。顔を洗いにくるだけなのに、着替えとかいちいち面倒くさいし」
「あんたはねぇ、女の子の慎みってゆうものがあるでしょ。そんな下着の格好で外に出歩かないの!」
「外といってもここは中庭だよ。私は子供なんだし、子供の下着姿を見て喜ぶヘンタイがここにいるとか、普通はあり、、、え?」
ハルカの目の先には、恍惚の状態になっていたヘンタイが映っていたのだった。
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エンターたちの一行は、町中にある食堂で昼食をとっていた。
「あいたたたっ、、、まだコブになってるぜ」
「よかったねー、洗濯干しの棒で叩かれるだけで済んで」
アルフレットのコブができている場所に軟膏を塗っているのはサミーだ。
「カルロさんには、正式に冒険者ギルドの仕事として依頼を出してもらった。その指名で俺たちの仕事になっている。アルはごくろうさま」
エンターはクスリと笑って、アルフレットは嫌な顔をつくった。
「まずはその三人組の特徴と犯行を知りたい。サミー、君が説明してくれるかい?」
「リーダーは小男に間違いはないと思うよ。中肉中背の男と大男が連れっぽかったかな。大男の両腕には肩から入れ墨がついていた。中肉中背の男がお客に絡んでそれを大男が因縁をつけて小男が兵士を呼びに行く、そんなところだね」
「それならアル、その酒場の常連のお前なら、被害にあった奴らも知り合いだろ。そいつらに当たって、三人組についての情報収集をしてくれ」
「まかせておけ、、、いっちっちっち。女将さんは馬鹿力あるな」
「サミーは兵士のほうを当たってほしい。カルロさんの酒場の位置から割り出して、どこの屯所が地域の担当をしているか調べ出してくれ」
「了解。ついでにその協力者を探して見つけてもいいよね?」
サミーはペロリと舌を出した。彼がやりすぎてしまわないかとエンターはすこし心配になった。
「危険だと思ったらそこまでにしておくんだぞ。シエルとリカは酒場でのお客役でよろしく頼む」
「おっけいだよ~」
「まっかせてっ!」
「さあ、大捕物帳を始めるぞ!」
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ここはある屯所の兵士たちが非番のときによく集まる、小さなクラブ。
カランッカランッ
お店のドアにつけられた大きな鈴が鳴ると、店に入ってきたのはこの店の常連になるデンバー兵士長だった。
カウンターに向かって腰を下ろしたデンバーは、いつものやつを頼む、と中にいるママへ一言告げた。注文のお酒が入ったコップが出されると、引ったくるように受け取り、一気にコップの半分ほどをすぐに飲み干した。
「プッハーー、、、ああ、畜生め。このままだと俺は身の破滅だろ」
頭を垂れていたデンバー兵士長はやがて背もたれをして、目の焦点を天井に向けながら大きくため息を出した。
「部下たちも今は渋々従っちゃあいるが、俺があいつらと結託してるのを気づいているようだしな。、、、いっそこちらへ引き釣りこむか」
薄気味悪い笑顔をつくりだすと、もう天井を見るのにも飽きたのか、店内をぼんやりと見渡し始めた。すると店では今までに見たことのない若い女性が、カウンターの端の奥からこちらを見つめていたのに気がついた。
その女はひと目で十代とわかる、贅肉のないスレンダーな体型をしていた。白色のホルターネックのバックレスドレスは、肌の大部分が見えているおかげでそれだけでも十分に魅力的だったが、その女をより際立たせていたものは、腰の付近まで入った大胆なスリットからチラチラと覗かせている美脚であった。
思わず劣情が湧き上がりそうになったデンバーだったが、こうした上玉の女には、必ずヤバイ逢引の相手がいるはずだと思い直して目を逸らした。しかし、こんな場末ではめったにお目にかかることができない女だと思うと、目は自然に女のほうへと向いてしまう。
その女はデンバー兵士長が自分を見続けていることに気づくと、腰の近くまで大胆に開いていた背中の肌色をわざと見せるようにしてから腰を妖艶にくねらせた。そこにいた男たちは、一人残らず前かがみの姿勢になったことはいうまでもない。
女は立ち上がるとデンバーに向かってゆっくりと移動してきたが、そのウォーキング中には腰の上まで大胆に入ったスリットから生の美脚が見え隠れすることでより扇情を掻き立てていた。デンバーはまさか自分が相手にされるとは思ってもいなかったので、女が自分の目の前で立ち止まったときには、思わず初な男のように緊張してしまった。
「キミは逞しそうでボクの好みかな。ねえよかったら、隣へ座ってもいいかい?」
デンバーはごくりと喉をうならせて、たどたどしく、どうぞと返事をしているのが精一杯だった。自分の隣に座った彼女から漂ってくる柑橘系の甘い香りに、デンバーは次第に身を焦がしていくのであった。
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カルロの酒場では最終確認が行われていた。
「そいつらはいつも三人で揃ってやってくるそうだ。被害にあった人間の報告では、中肉中背の男が言い掛かりをして大男が因縁をつける、とまあ俺のときと同じ手口でやられているのが大半だった。兵士もやはり呼びに行くのはいつも小男の役目だったらしい。兵士がくると問答無用で逮捕されるということになったそうだ」
アルフレットは、情報収集で聴き取りをしたことを報告していた。
「ボクのほうはすぐに当てを見つけたよ。地域の担当の屯所にいってみたら、そこにいた歩哨の兵士たちが立ち話で、そのゴロツキたちの話をしてるんだもの。それで噂で聞いた当人に接触してお相手をしてあげたら、あらいざらいを話してくれたよ」
デンバーはギャンブル好きで賭博で大損を出しており、その際に出来た借金の証文で強請られて、今回の件に一枚噛んでいたということだった。デンバーはサミーによって泥酔状態になっていて、再起不能になっているということだそうだ。
「今日はそのデンバー兵士長の当直の夜だ。必ずそのならず者はやってくる。皆頼むぞ!」
「「「おう(はい)」」」
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「ふひゃっふひゃっふひゃっ、、、?」
「なんだあ、性懲りもなくまだ営業してんのかよ、、、早く店を閉めちまえって。おい親父、いないのか?」
三人組がカルロの酒場に入ると、三人組の見知らない若い男がカウンターの中にいた。
「いらっしゃいませぇ~。三名様ですか? それではいつものお席にご案内いたしまーす」
10歳位の少女がウェイトレスの姿で横から現れて、カウンター席についてきて下さいと案内し始めた。
「お、おう、、、」
三人組はいつもと勝手が違う雰囲気に、困ったように歩き進んだ。
「すみません。店長は体調が優れないというので、本日は私達が臨時で入っています」
「そうかよ。でもな、こんなことしても、俺たちのすることは変わらねえぞ?」
中肉中背の男はヘラヘラとして笑っている。
「こんばわんわだよ~」
「シエル、挨拶はいらないから!」
女子が二人で酒場に入ってきた。
「いらっしゃいませぇ~。ニ名様ですか? こちらのテーブル席へどうぞ~」
先程の児童ウェイトレスがすぐに二人を案内していた。
「ふひゃっふひゃっ。、、、おい、やれ、、、」
小男が指示を出すと、中肉中背の男がテーブルに近づいてエンリカの腕を掴んだ。
「おいねーちゃんたち、こっちへきて一緒に飲もうぜぇ」
「ちょっとやめなさいよ、手を離して!」
バッキン!
物凄い音がした。
カウンターの中にいたバーテンダーの持つコップが、本人の握力によって粉々に粉砕されていた。
「オ、俺のリカに、、、リカの腕を、、、」
「わわっ、エンターさん、駄目です、リテイクです! 、、、はい始めます、テイクワン!」
ハッとしたバーテンダーは、青筋をたてながら、機械のように話し始めた。
「オ、オキャクサン、ゴメイワクニナル、コウイハヤメテクダサイ」
「はいカッート! オーケーです。ドウドウ、はい次です、悪役さんどうぞ!」
バーテンダーのそばにいた児童ウェイトレスはおかしなことを言っていた。
三人は毒気を抜かれた感じになったが、自分たちの役割を思い出したのか、
「お、お前も来い! うえへへ、楽しい酒が飲めそうだ」
「あ~れ~ゴムタイハ、オヤメニナッテ~」
シエルのほうも腕が掴まれるが、ものすごい大根役者であった。
「お、こっちの女のほうは乳揺れがすげえな。こりゃマジやっちまうか」
「おい、そこまでにしろ」
声を上げて入り口から入ってきたのはアルフレットだった。
中肉中背の男のところまで進むと、この前と同じようにその男の腕を捻り上げた。
カウンターに座っていた大男は立ち上がり、
「この前の優男じゃねえか。連れはいねえようだが今日は一人か?」
「ああ。俺はアンタに用があるだけだからな」
中肉中背の男を離すと、ポキリ、ポキリと指から音を鳴らしながら大男に近づくアルフレット。小男を見ると、この間にすでに玄関から出ていくところだった。
「ヒャハハハ、お前たちはこれでブタ箱行き確定だ!」
中肉中背の男は腹を抱えて笑っていた。
☆
ズゥゥウンーーーー
大男は大ぶりをした腕を振り回しながら、アルフレッドが的確に放たれた拳をみぞおちに受けて、苦悶の表情を上げながら床に倒れてから泡を吹いて気を失った。中肉中背の男のほうはすでにエンターに倒されている。
「案外、歯ごたえのねぇ相手だったな」
荒くなった息を整えたアルフレットは、倒れていた大男を見てからそう言った。
体格的には大男に大きなアドバンテージがあったとはいえ、毎日の鍛錬を欠かさずにいた現役の冒険者が相手では、スタミナがそう続くことなく敵うはずがなかった。
「ここへもうすぐ兵士たちが来るよ。もっとも捕らえられるのは、こいつらだけどさ」
入り口からは、外から気を失っていた小男を引き摺ってきたサミーが入ってきた。
「へへ、デンバー兵士長の借用書もこの小男から見つけちゃった。これはボクが貰っておいてあげるんだ。うまく利用をしてあげないとね♪」
こうしてまた一人、サミーに弱みを握られて使役される人間が誕生したのだった。一同はデンバー兵士長にご愁傷様と思うのだった。
「これで全て終わった。皆、お疲れさまっ!」
エンターは今回のミッションの終了を宣言した。
「「「お疲れさま!」」」
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「おいおい、知っているか。飛び切り美少女の児童ウェイトレスが働いている酒場があるって聞いたぞ! 銀髪で美形の可愛い娘だって噂だ」
「あの大通りの古臭い大衆酒場だろ? お前の情報は少し古いな。今では飲食付きの小劇場になっているんだ。行列で並ぶお客が多すぎて、昨日からは予約券が配られるようになったそうだよ」
「児童美少女のローカルアイドル爆誕か! あの大通りにある子供服専門店も全面バックアップで協力にのりだしているらしいし。これからは見逃せないな!」
ならず者の三人組が捕らえられた時に、その現場に集まっていた野次馬たちが、ハルカの姿を見咎めてその情報を拡散したらしい。
今ではそれ系の方々が酒場に通い詰める事態となって、現在はショータイムの入れ替え制で一日三回の賑わいを見せているという。
閑古鳥が鳴いていた酒場は、今や銀髪美形少女のおかげで大繁盛になっていた。
「こんな結末なんて、ヤダーー!」
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