015 閑古鳥の鳴く酒場(前編)
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
## 今回のお話はハルカが出てきません ##
ここは冒険者ギルドの二階にある喫茶コーナーだ。
毎日たくさんの冒険者が利用しているのでいつも混雑している。商談するための席も用意されているので、清潔で衛生の行き届いた場所となっている。
しかしながら商談用に用意されている、テーブルと椅子の置かれている場所はそれほど多くはない。そこを使うのは予約が必要で、ギルドの許可がないと使用することができない。
そのために喫茶コーナーの大半は、立食式で使われるテーブルが置かれていた。ここを利用している冒険者はとても多く、長居をすることを防止するために、こうした形式が取られているのだ。
いつものように混雑している喫茶コーナーにあって、ある角の隅に当たっている一角だけは、一人しか使われていないテーブルがあった。
そこにはスレンダーの体型をしている、とても麗しい女子がいた。
金髪でサラサラのボブカットが特徴的で、目の色は明るい緋色。非常に整った美しい顔。
胸部には大きめなフリルをあしらっているタンクトップを身に着けていて、その下からは細い腰のくびれとおへそがバッチリと見えている。
しかし一番に目が惹かれるのは、ショートパンツの短めの裾から足元まで見えている、太くも細過ぎもしない、理想的でキレイにすらりと伸びた美脚であった。
しかし場内にいる冒険者たちは、そのテーブルには彼女が一人だけしか利用していなかった理由を、そこにいた皆が知っていた。
「また余所者だろうな」
「そうだな。お可哀そうに」
彼女を見ていた、ある冒険者たちはそのように会話していた。
「ヒュ~、キレイなお足だねー。ウッへへ、その格好は絶対に男を誘っているんだろ。、、、このエロボディは堪んねえや」
いつの間にか彼女の側には、野卑た言葉で声をかけてきた男が現れていた。
女子は振り向いてその男の顔を確認すると一瞬ニヤリとした顔をしたが、すぐに無愛想な顔をしてそれを隠す。
しかし男は女子の、特に腰から足元の艶めかしいラインを見るのに夢中だったので、その表情を見ることはついぞなかった。
女子が振り向いてからしばらくして、男はようやくその美しい顔を知ることになる。
「おおおっ! すっげえ別嬪さんじゃあねえか! よ、よーし、オレは本気であんたを買うぜっ!!」
「何いっているの? ここは冒険者ギルドだよ。ボクだって冒険者だからここにいるんだ。女を抱きたいというのなら、近くの色街にでもいっておいでよ」
女子はそう言って男につれなくした。
男はそう言われることには慣れているのか、さして驚かずにいて懐からゴソゴソと、首から下げられていた小さい革袋を取り出した。
「へっへっへ、これをよぉーく見るんだ。ほら金貨だぜ? 先日にマンティコアの討伐に参加して、タップリと報酬を受け取ったばかりなんだ」
男は革袋にたくさん入った金貨を見せつける。これを見ると、男が言っていることはあながち嘘でもないらしい。
それから男は周囲を警戒しながら見渡して、角の隅といったこの場所を確認してから思いついたのか、他の人間からはその女子が自分の影で隠れる位置取りへ移動した。
「商売女には、かなり飽きてきたところでね。あんたのような特別な上玉だったら、、、三枚、、、ハァハァ、、、いや、好きにできるっていうんだったら、五枚くれてやってもいいぜ。だからどうだ?」
男は女子の腰に手をかけた。それから臀部へと手を伸ばすと、まさぐるように手を動かした。
「はーい、タイホ~」
「え?」
女子は男が伸ばしていた腕を掴むと、空いていた手の方を高く上げてから振っていた。
するとその合図で、冒険者たちの間に隠れていた警備職員たちが男を取り囲む。
「ってめえっ!! 嵌めやがったな!」
「五月蝿いぞ。お前のギルド施設内での淫行狼藉は確認された。お前には他にも罪はないか、これから思考探査で取り調べがある。さあ、こっちへ来い!」
「そんなことをされたら、、、や、やめてくれっ!」
男はすぐに数人の警備職員によって確保され、項垂れながら取り調べ室へ連れていかれた。
「余所者だったな」
「お可哀そうに」
この捕物が終わると、周囲の冒険者たちは見世物が終わったかのように、すぐに日常の喧騒へ戻ったのだった。
☆
「ご苦労様でした。それではこちらが今回の報酬になります」
「エッへへ、またのご指名よろしくでーす」
ギルドの報酬窓口では、何かおかしな返事をしていたサミーがいた。いま貰った報酬を確認していると、後ろから馴染みのある声がした。
「どうだ、うまく釣れたのか」
「あ、アル。ボクが失敗するはずがないよ。だってこの美しすぎるボクが囮をしていたんだからね」
自分の美しさを当然のように言う女子は、性別が女ではなく実は男だった。世間的には男の娘と呼ばれている、女子の格好を好んでしている男子である。
「ボクが釣れなかった相手は、今のところはアル一人だけだね」
「俺は成人の女に興味がない。いや、できないからな。俺はカウントに入れないほうがいいと思うぞ」
サミーと話をしているのはアルフレット。筋金入りのロリコンである。以前に囮捜査で捕まらなかったのは、こうした理由があったからである。
「ご苦労だったね。今回もお手柄でなによりだよ。いま取調室にいる男は、別の町で強姦の容疑がかけられているんだ」
そう言って近寄って来たのは、この冒険者ギルドのギルド長をしているカールだった。
「あ、ごくろうさまです」
「、、、おつかれさん」
「おやおやなんだい、少女見守り会の会長は元気がないね」
「うっせえ。お前が用もなく俺に近付くわけがねえ。、、、何か聞きたいことがあるのか?」
「相変わらず俺には手厳しいんだね。、、、君たちのパーティーのシエルとはよく話すことも多いけど、君たちとも仲良くなりたくてね」
「ハン、うっさんくせえ」
「アル、よしなよ」
「まあまあ、今後も何かと会う機会も増えそうだから挨拶にきたまでさ。これで退散しておくよ」
そう言うと、ギルド長のカールは去っていった。
「ギルド長が声をかけてくるなんて本当に珍しいね。いつも忙しい人なのに」
「、、、心当たりはあるけどな。あー飲みたい気分になった。サミー今の金でおごってくれ」
「昼間から? わわわっ、ちょ、ちょっと乱暴にしないでよ。、、、しっしかたがなくて、付き合ってあげるんだからね。でも奢らないよ」
二人は冒険者ギルドを出ると、古馴染みの飲み屋へと向かった。
☆
☆
☆
「あれ? この前に来たときにもこんなだったか? なんだかえらく不景気になっちまったもんだな」
閑散とした店内の状況にアルフレットはひどくおどろいてみせた。
ここは田舎町にはよく見られる、土地はいくらでもただで手に入るからと建てられた、平屋建てで大面積を誇る大衆酒場だ。
かつては田舎町であったデイルード市も、現在は地方の大都市へ様変わりをしたことで、以前には普通にあった、このような建物は次第に少なくなっている。
この店がある立地は、現在では一等地になっていたために、他の周囲の建物が一新されていたこの通りの中では、旧態のこの店はとても古臭く見えて、ひどくバランスが欠いたように感じられるだろう。
「いらっしゃい」
60歳は超えているであろうか、小太りで頭が薄く、使い込まれたエプロンをつけている陰気な主人が、アルフレットたちがいるテーブルへ注文を取りに来ていた。
「そうだな、ビールと果汁酒。つまみはそちらに任せるぜ」
注文を受けた主人は再びカウンターの中へと戻り、しばらくしてから注文通りのものをトレイに載せてこちらへ帰ってきた。
「おい主人、俺達の他にはお客がいないようだが、これから貸し切りの予定が入っているのか?」
ビールを受け取ったアルフレットは、異様な常態の店内について、そう質問をすることにした。
「そうだとしたら、どんなにかいいんですけどねぇ」
深いため息をついた主人は、他にお客がいないのもあって会話に付き合うことにしたようだ。
「ああ、四ヶ月前が懐かしいよ。あの頃は、たくさんの兵士さんがここへ毎日通って来ていて、溢れかえるほどの活気があったもんだ。ところが魔王が討伐されちまうと、兵士さんたちは自国へ戻っていったもんだからこの有様だ。ここが閑古鳥になった一番の原因はそれさね」
「そうだとしても、俺たちもこれまで通い詰めていたからわかるんだが、少し前まではここまでひどくはなかったんじゃないのか?」
アルフレットがそう聞くと、主人は言葉を詰まらせて黙ってしまった。
「、、、、、、このままいれば、いずれは分かると思うが。いや分かってしまう前に、その一杯で帰ることをお勧めするよ」
それだけいうと、主人はひどく肩を落としながら、すごすごとカウンターへ戻っていった。
☆
「おかしいよね。商売してるのに帰れだなんて。普通はお客に使う言葉じゃないと思うな」
サミーはショートパンツから出して見せていた、これまで両足を組んでいた美脚を揃えて降ろすと、テーブルの真ん中の方へ半身を乗り出して、アルフレットだけに聞こえるようにしてそう言った。
そんな会話が続いていたとき、酒場の入り口のほうから下卑た声が聞こえてきた。
「ふひゃふひゃっふひゃっふひゃっ」
入ってきたのは三人組でならず者風の男たちであった。
下卑た笑い声を出しているのは三人の中でも一番小男になる人物だった。
「これで開店してるっていうのかよ。へっ、辛気臭くてかなわないぜぇ」
三人はカウンターへと進んでから、店内にいたアルフレットとサミーを見つけると睨みつけた。
「粗方はもう来なくなったと思っていたんだが、、、ふひゃひゃひゃ、女連れかよ」
「別嬪さんじゃねえか。ソソる格好をしてやがるぜ」
中肉中背になる男がこちらへと近づいてくる。
「えっへへへ、、、さあこっちへきて、一緒に酒を飲もうぜ」
男はサミーの手首を掴むと、引っ張るようにして立ち上がらせた。
「ああーん、引っぱらないで~」
サミーはわざと鈴を転がすような声を出しながら、イヤイヤとしながらか弱そうな素振りをしている。
生脚がとくに卑猥さを醸し出し、カウンターに残っていた二人も、それを見ていて喉をゴクリと鳴らしていた。役者であった。
「あっちでおとなしく飲んでいろよ」
サミーの隣に座っていたアルフレットは立ち上がって、ドスの効いた低い声でそういうと、サミーの手首を掴んでいた、中肉中背の男の腕をねじ上げた。
「アイタタタッ、兄貴ィー、タスケテクレエ~!!」
誰がどう見ても、それがそれほど強くねじ上げているわけではないと分かるのに、ねじ上げられている男は、さも大仰にして助けを呼んだ。しかも棒読み調で。
するとカウンターに腰掛けていた一際大きいレスラーもどきの男が立ち上がり、指をポキリ、ポキリと鳴らしながら、アルフレットの方へゆっくりと歩き始めた。
「おいテメエ、舎弟へのこの落とし前、どうやってつけるつもりだ?」
この絡み方はチンピラそのものである。大男の両肩から腕にかけて、カタギさんにはない大きな刺青が入っている。ハルキ湯の入場はお断りになる人種だった。
「もうやめてくれっ!」
酒場の主人はそういうと、頭を両手で抑えていた。
「お代はかまわないから早く、早く帰ってくれ!」
そういうと、カウンターから飛び出した主人は、立ち上がっていたアルフレットの背中を押して、出口まで押して行った。
「お、おい」
アルフレットは主人に困ったように言うと、
「、、、あいつらの背後には兵士がついているんです。暴れるとブタ箱行きになりますよ」
主人はアルフレットだけに聞こえるように小声でそう言った。
アルフレットを追ってきたサミーも出口につくと、三人組は高笑いをして乾杯していた。
「嫌な思いをさせて、申し訳ありませんでした」
主人は店内に力なく戻っていった。
兵士が?
あのならず者たちと?
アルフレットはこの理不尽さに顔をしかめたのだった。
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