012 世界の要人に名を知られた少女
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
王族に貸し切られている三ツ星ホテルを出ると、ハルカ、エンター、シエルの三人は、昼食をとるために、エンリカ、アルフレット、サミーと待ち合わせをしていた食堂へと入った。
六人は合流すると、皆で食事をとりながら、これまでにあった出来事について、情報を共有することになった。
「おっ、おっ、王子様の~? こっこ、こっ婚約者って。ふあぁぁ~、、、」
エンターは、ここのテーブルでの会話が周囲に聞かれたりはしないかと、チラチラと辺りの様子を気にしていた。エンリカはあまりの事の大きさに、自失呆然とした状態になっていた。
「婚約者という話は公にしない方向で頼むよ。この話を誰が聞き耳を立てているのかわからないんだ。迂闊に大きい声にしないように注意をしてくれ」
「王子様の婚約者になんて、ボクが認めた美しさがはやくも認められたようだね」
「ハルカ嬢ちゃんは至高だからな! こうなるのも当たり前ってこった!」
タンクトップとショートパンツの肌色の多い格好をして、座っている椅子をわざと横に向けて、自慢の美脚を周囲の男たちにみせているのはサミーだった。
アルフレットは己の自制心を働かすために、ハルカから一番遠くに距離を置いていて食事をとっていた。
「ハルちゃん~好き嫌いはだめなんだよ。ピーマンを残しちゃメッなんだよ~」
「にっっっがぁぁぁあああっ! くーー子供の舌って、どうしてこう味覚に鋭敏すぎるんだよ。ひぃはぁ」
シエルとハルカは、そんな話があってもどこを吹く風のようにして、いつも通りの平常運転をしている。
「ハルカの失踪の件と婚約についての報告はこんなものだ。さて、ここからの話は俺たちにとってとても関わり深くなる。皆もよく耳を傾けて聞いてほしい」
エンターは、皆の顔が自分に向かれていることを確認すると、話の続きを始めることにした。
「俺たちには、ジュリオ王から直々に御下命を賜っている。ここにいる五人は今後、ハルカの護衛隊となって働くようにとの仰せだった。期間限定での半雇用の形になるようだが、後はハルカ、君から話すのがいいだろう」
ここへ来る前に、エンターさんとはすでに打ち合わせてあったので、これから言うべきことは頭の中に用意されていたものだった。
「まずは皆さんの意志とは関係なく、このように巻き込んでしまっていることには、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
五人の一人一人の顔を見てから頭を下げる。
「私自身も巻き込まれている自覚があるので、気持ちの上では皆さんと同じで、この状況にただただ驚いている側なんです。勝手を言うようですが、どうか私を助けてください、お願いします」
実のところは、俺がこうして頼んでも頼まなくても、そうするようにと王命が下されている以上は、俺を護衛する任務がどうこう変えられることのない話なのは、百も承知ではある。
でも俺は皆に頭を下げて頼みたかった。
俺にとってのエンターさんたちは、雇われ人ではなくて、親しい仲間と思っているのだから。
「こちらこそ。美しい者同士よろしくね」
「おうよっ、何があれば俺にまかせろよ!」
「心配はいらないさ、皆は君の仲間なんだからね」
「仕方がないわね。ちゃんと守ってあげるわよ」
「全員が賛成して、よかったんだよ~」
エンターさんたちに僕の思いが通じたのか、普段通りに遠慮のない仕方で接してくれる。
俺はこの親しい仲間たちに心からのお礼を言おう。
「皆さん、、、本当にありがとう」
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魔王討伐の成功記念式典の当日。
会場内には世界中の、各国の首脳クラスになる要人たちや、最高位貴族になる人々が集められていた。
ここ百年間は実現することのなかった、国家、種族、民族、あるいは人種の垣根を越えた、魔王討伐で大同することになった集まりであった。
そのためにここに集った人たちは、見方を変えると、この世界を実際に動かしている一握りの人たちだけがいる、そうした特別な場と捉えることもできた。
この会場の壇上には、目立つように巨大な絵画が飾られていた。それは勇者ハルキとその一行が、魔王にトドメをさした瞬間が描かれているものだった。
しかしその主役である、勇者ハルキの姿は会場にはない。壇上にある特別に用意されていた椅子の上には、花輪を付けられた彼の肖像画が置かれていた。
「ーーー以上を持って閉会の挨拶とする。さて最後にここにお集まりいただいた皆さんに、私からの小さなお知らせをしておきたいことがある。まずは、ジュリアンはこちらへ」
ダラッダラララッダララララララララーーーーーーーーーー
ジュリアンは呼ばれると、壇上にいたジュリオ王の横に進んで並んだ。そこで会場にいる人たちへ向けて、ジュリアン王子は簡単な挨拶をしていた。
「次にこの場を借りて、ここに我が息子ジュリアンの婚約者を発表したい。ハルカ嬢、こちらへ参られよ」
ダラッダラララッダララララララララーーーーーーーーーー
鼓笛がしばらく鳴ってはいたが、俺が中々出てこないために、早く登場しろという催促のラッパが、次々とやかましく響きだした。
パッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララ
パッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララ
パッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララ
パッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララパッパラララララララ
パッパラララ、、、
やっかましぃぃぃーーーー!!
「王と王子が、壇上でお待ちでございますぞ」
俺が焦れて幕下から出て行かないのを見かねたのか、俺の側にいた執事のロイスが、背中を優しく少しだけ押し出すようにしてそう言った。
断っておくが、俺は何も会場に集まった人たちに怯えているわけではないのだ。
むむ。ジュリアンがこちらを向いて、怯えいるんだろ、って顔をして今ほくそ笑んだぞ。
話を戻すと、俺が勇者ハルキのときには、こうした行事への参加は頻繁にあったので、大勢がいる人間などへの恐怖や、世界のVIPクラスから向けられる威圧感などに、今更に動じることはない。
であるのならなにを躊躇っているのか、その理由というのは、俺がいま着せられている服装に主な原因があった。
式典用に用意された、児童少女向けに作られている、いかにもなファンタジー感が溢れた可愛いドレスに、身を包みこんだ俺の姿がここにあったからだ。
ここ三ヶ月間を俺は少女として過ごしたとはいえ、その全ては病院生活に当てられていたので、こうした服装に免疫性なんかまったくない。
正直いっちゃえば、めっちゃ恥ずかしいっ!
俺は少女の立場であるからして、こうした扱いでこのカッコウも正装なのだと、頭では分かっているつもりだ。
しかし、俺にとってはバツゲームで女装させられて羞恥プレイを強要させられているような感覚に近く、俺のアイデンティティは崩壊寸前というわけなのだ!
しかもだ、この会場には勇者ハルキのときに知り合っている人たちがたくさんいるのだ。
あちらからはこちらが別人にみえているんだろうけど、俺のほうからはとてつもない羞恥心と戦わなくてはならないことになる。
本来ならばここにいる俺は、あの一番目立った立派な椅子に腰を掛けて、魔王討伐を成功に導いた最大功労者として出席していたはずの俺がなぜ、、、
わかってる。
俺はもう勇者ハルキじゃないんだ。
何をどう違えたのか、少女に変化しただけでは飽き足らずに、ジュリアン王子の(仮)婚約者として、今壇上に立たされようとしているのだ。
これが人道的支援(ジュリアン王子の監督役)のために(仮)婚約者となったことを頭には理解させたつもりでも、、、
アハハ。アハハ。
でもやっぱり、、、な
やだよ、出たくないよ!
すでに顔は真っ赤で、火が吹き出そうになっているんだけどっ!
あ、おっさん(ジュリオ王)もいまこちらを振り返ったな。もうタイムリミットだといったところだ。
しかたがない。ここはひとつ割り切るんだ。
ビジネスとして考えればいいことだろ?
ジュリオ王と密約を交わした内容は、ジュリアン王子がこのデイルード市の都市長の任期を全うする期間まで。それは最低一年の任期が実績として必要で、ジュリアン王子が都市長を降りた時点で、この婚約も解消される約束になっている。
だからこれからの一年間だけは、婚約者になりきれっ!
開き直るんだ!
演じきれ!
フッハッハッハッハッ♫(自嘲中)
よぉしっ!
パンッと軽く自分の頬を両手で叩くと、俺は深呼吸をしてから、会場の幕裾から体を現す。
王子に相応しい淑女を演じるんだ。
今からはオ、、、私は王子の婚約者。
やってあげますわっ!
俺が登場するのをずっと待ちかねていた会場の人たちからは、一斉に俺の姿へその衆目が集められた。
俺は会場に集まっていた人たちに、その場でドレスのスカートを両手で少しだけ持ち上げながら、軽くお辞儀をして一礼をとった。
それから俺は、周囲からの視線に動じることなく、微笑みを浮かべ可憐さを引きだすように歩き、王の横に進んでから立ち止まった。
「この度はお集まりいただきました皆様に、紹介される機会が与えられたことに感謝したいと存じ上げます。身はかように幼く若輩ではありますが、相応しい者にとこれから努める所存でございます。皆様でこれからのお引き立てのほどをお願いいたします」
そこで優美な所作で中腰をつくると、もう一度そこで深めになった挨拶をする。身を起こしたときには、特段の笑顔を作って周囲に向けて振りまいて見せた。
この一連の所作は、俺が勇者ハルキだったときに、王侯貴族の令嬢たちから挨拶があったことを思い起こして、アレンジを付けて真似てみただけだ。
ちなみに事前の打ち合わせでは、先に出ていたジュリアンと同じように、簡単な挨拶をするだけで済ますつもりだった。
しかし恥ずかしさを紛らわすための、演じていることに没頭するうちに、途中からは気持ちがハイになってノリノリになってしまい、スピーチもあった方がよいだろうと、その場で思いついたことを、自然に話してしまっていたのだ。
さてどうだ。
うまくいったのか?
チラリとおっさん(ジュリオ王)の表情を伺うと、俺がこのミッションをヤツの期待以上にこなしたということが見て取れた。
「ほほぉ、あの少女が王子の婚約者ですか」
「あの立ち振る舞いからすると、高度な知的教育と教養を身につけていて、、、儀礼全般にもかなり通じていると見受けられますわね」
「まだかなりお小さいですな。これでこれから成長期とは、真これは末恐ろしくもありますな(この国と我が国は友好国同士だ。もっと親密になっておけば、将来には得になるかもしれぬな!)」
「知性と気品が磨かれていることが分かるあのスピーチは素晴らしかった! しかもこの並々ならぬお歴々の面々を前に、このように豪胆としていられるのだから、あの度量といったら素晴らしいものだ。この国の将来は、間違いなく安泰といったところですかな」
「そうですな、ジュリオ王が羨ましいですぞ!(、、、クソ! 馬鹿王子の代になれば、この国も容易く御せるものと思うていたのに! あの少女が未来の王妃に収まるとなると、これはとんでもないことになるぞ!)」
「それにあの容姿はどうだ。まるで、、、美しい妖精のようではないか。、、、究極に完成された、神の芸術品をみているようだ、、、」
「然り、然り」
ハルカを見た人たちからは、口々にそれぞれが思った感想を濡らす声が方々から上がっていた。
次第に落ち着きを取り戻した会場で、ジュリオ王が総括して締めくくろうと、最後の言葉に力を込めた。
「諸君、我々は勇者ハルキを、誰にも替えることができないあの人物を、惜しくも失ってしまったことは、残念ではあり悲しくも思う。だが、このように次代を担ってくれる若い世代がいる将来に、皆共にして喜ぼうではないか!」
ジュリオ王がそう言い終わると、会場のそこかしこから、盛大な拍手の喝采が巻き起こったのだった。
☆
万来の拍手が会場で響き渡っている中、その幕下になる奥のほうでは、その会場を苦々しい思いで覗いていた、ある貴人がいた。
「つい昨日までは、このようなサプライズの発表があるということを、王はおくびにも出してなかったが、これはまた一体どうしたことなのだ?」
事の成り行きをみたその人物は、そう呟いていた。その人物の右腕からは、古い時代に作られたと思われる精巧に彫られた金色に光る腕輪が煌いていた。
「閣下。我々の計画を王家側がなにか感づいて、一手を打ってきたというところでしょうか?」
その人物の横で控えていた男は、周囲を警戒しながら小声でそう質問をする。
「、、、ふん。小才が回るとしても、せいぜいが10歳程度の小娘にすぎんのだ。あの小娘自体は、我々の野望にたいした影響は与えんだろう」
壇上にはもはや興味を失ったのか、ふうむ、と一人唸ると、
「しかし念には念をだ。王子の周辺については今は事を荒立てずに、しばらくは様子見をしておくのだ。、、、わかったな?」
すると側に控えていた人たちは、意を得たりとして皆頷くのであった。
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