011 王の涙と王子の(仮)婚約者
魔王を倒して少女に変化していた元男勇者のドタバタときどきラブコメディー
「あいつめっ! 平民なのにあの態度はおかしいだろ! 今までに出会った平民は、全て低頭平伏でいたのに!」
王子である僕に一片の恐れも抱いてなかったし、敬意を払う素振りも全くないし、生意気にも僕にお願いと称して命令するし。
「影で僕を小馬鹿にしている貴族も多いけど、そうした奴らでさえ普段は、恭しくおべっかしてくるのが当たり前なのに、、、」
僕はこの国で、一番に権力を持つ父上の息子。父上を恐れている者はとても多い。だから息子の僕にも、大抵の場合は媚のある態度をとる者が常だった。だが僕はそうした態度をする者がとても嫌いだった。
父上はとても尊敬できる方だ。それと同時にとてもお忙しい方だ。それ故に自然と、ロイヤルファミリーに費やす時間は少なくなってしまう。
尊敬する父上に褒められたい、認められたい、という気持ちが僕にはいつもあるんだ。だから何かを成そうとすると、功を焦るばかりで失敗してしまう。今回の一件もそうだった。
ーーーあの兄上がいてさえしてくれたなら。
三ヶ月前に魔王の討伐に出陣された兄上。戸籍上では赤の他人になるけど、でも僕にとっては本当の兄のように慕っていた人が、勇者ハルキなんだ。
最初は色々あったけど、孤独で寂しかった僕を理解して励ましてくれていた人は、今はいなくなってしまった。僕はまた孤独に戻ったのだ。
「ハルカ。年下で生意気で、僕を王子とも思わない失礼で変なやつ」
それなのにあいつからは、親しみが込められた気持ちが伝わってくるし、本心からの心配の気持ちなのか、本気の気遣うようなそぶりも見せてくる。僕の孤独を埋めてくるように。
そう思い返しているうちに、あいつの失礼な態度に、不愉快さを感じなかったことや、あいつの笑顔が、僕に穏やかな気持ちを与えていたことに気づいてしまったのだ。
初対面であるはずの少女なのに、どうしてそうした気持ちになっていたのだろう。
ハルカという少女と一緒にいるときにそうした気持ちになれることだけはハッキリとしている。あいつは本当に不思議なやつだ。
これまで椅子に座って考えを巡らせていた僕は、立ち上がるとベットへ移動して自分の身をその上にのせる。それから両手を頭の後ろに組んでから、天井をじっと見つめていた。
僕はこの春で15歳になってようやく成人したばかりだ。ハルカの年齢は自分よりも五歳年下と父上からは聞いている。
青みが入った銀髪のストレートで、工芸品の白い陶器のような肌の色を併せ持っているその姿は、神話にでてきそうな半神に近い神秘性を感じさせずにはいられない美少女だ。
その容姿だけでも、周囲の注目を集めるのには十分なはずなのに、それ以上にハルカを際立たせていたのは、その歳には似つかわしくない、極めて美しい目鼻立ちを備えていることだ。
ハルカが大人に成長した暁には申し分なく、傾国の美女と揶揄されていてもおかしくはないだろうと思わせる、その下地の美しさがすでに備わっている。
僕だって男子だ。女子には興味があるし、こんな出会いの仕方がなかったら、もしかすると一目惚れ、、、って僕はなにを考えているんだ。
あ、あ、あいつはっ、魔性の少女だな!
しかし実のところ、容姿や美貌についてよりも気になるのは、親しみやすさの部分だ。年下のあいつが僕に向けるときだけに態度が大きいことも、返ってそれは親しさの裏返しであるとも受け取れる。
ハルカと過ごす時間が増えれば増える分だけそれはより一層強く感じられて、それがまた自分に孤独を癒やして穏やかな気持ちを与えてくれる原因だと思えてならない。
ハルカの存在が、なぜだか自分にとって重要に思えるのはなぜなのか。
ジュリアン王子はひとり訥々と悩むうちに、答えを出せないまま意識を静かに沈めていたのだった。
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「ハルちゃんがあ、無事でほんとうによかったんだよぉ~」
この場所は魔王討伐の成功記念式典に出席する王族とその関係者のために国で借り占められていた三ツ星ホテル。
その中の特別なラウンジの一室で、ハルカはシエルと再会してからずっと抱きしめられていた。
昨夜に、エンターの仲間が集まっていた酒場で開封されていた封書の文面には、ハルカ嬢を預かっているので、ついてはこちらのホテルまで連絡を取られたし、と記されていたのだ。
しかし時刻は宵を迎えていたために、翌朝を待ってエンターとシエルの二人が代表者として向かうことになった。こうして再会の運びが実現されたのである。
「心配をかけて、、、ごめん、なさい」
一昨日は俺の迷子の件で、そして昨日はジュリアン王子の事故に遭った件と、立て続けに自分が消息不明になる事態には、巻き込まれてのものだったとはいえ、シエルには心配のかけどおしをしていたことを考えると、これは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
シエルに抱きしめられながら、そのぬくもりと流される涙の温かさに、俺は感謝をするばかりになっていた。
「エンターさん。それと皆さんたちにご迷惑をおかけしたようで、すみませんでした」
先程から落ち着きがなく、あちこちと忙しなく目をキョロキョロとしている、エンターさんに話しかけてみる。
「ああ、、、君も大変な目にあったみたいだね。無事でよかったよ」
にこりと笑顔をつくってはいたが、エンターさんの緊張が無くなることはついぞなかった。
しかしそれはしかたのないことだろう。二人がいるこのホテル内には、要所要所に王宮警備兵が配置されていて、ホテルであるはずのここは、一変して王城に来ているかのような物々しい雰囲気を醸し出していたからだ。
「ーーー王のおなりでございます」
執事のロイスが先触れを告げる。
ギギギギギー、、、バタン。
シエルとエンターはおもわず、直立不動の姿勢になってジュリオ王に向き直った。
「俺がジュリオ王だ。まあ二人ともそう固くならないでくれ。ここにいるのは私的な立場でいるのだと思ってほしい。それとハルカ嬢の経緯についてだが、、、」
ここからは俺と段取りで進められる話だ。
事前に打ち合わせをしたシナリオでは、暴走した大牡鹿に巻き込まれて倒れていた俺を、ジュリアン王子が発見して一晩介護してもらったといった設定だ。
王室のスキャンダルにならないように作られた体の良いシナリオだ。だけど張本人であるジュリアンが、良い人設定にされているのが妙にしゃくに触る。
「ーーーだ。さてここからは、俺の私的なお願いをすることでハルカ嬢に頼みごとがあるのだが。いやすまないのだが、お二人には別室でしばらく席を外していてほしい」
ジュリオ王は俺にそう言った。執事のロイスの案内で、シエルとエンターは別室に移動して行った。
ちなみにここからはシナリオとは関係のない話となる。
「これから話すことはすべて他言無用でお願いをしたい。というのも政治的問題も絡むのでな」
俺はこれに頷き返す。ジュリオ王はそれを確認してから続きを始めた。
「それでは前置きという形でこの都市デイルードについての説明をしておきたい。このデイルードは現在急ピッチで大規模な開発が行われていることは知っておると思う。それもそのはずで、近い将来にはこの都市を、この大陸で一番大きな国際貿易中継都市にする計画があるのだ」
ジュリオ王が続けて説明した内容は、デイルードの現状についてだった。
魔王軍と対峙するために長らく諸侯連合軍の拠点でありつづけていたデイルードは、意図せずにこの大陸でも十指に入る規模に成長を遂げていた。
地学的にも大陸の中心部に位置していたことから、貿易量は年々飛躍的に伸び続けて、すでに貿易都市としての実績を打ち出していた。
諸侯連合軍が去った後も多種多様な民族や人種がここに定住して残ったことで、国際色が豊かな異色の都市に変貌しているという。
ここでジュリオ王はわざとらしい咳をすると、一拍を置いてから話し始めた。
「さてここからが本題になる。デイルードは王家直轄の財産の土地、つまりは王領地のど真ん中に存在する都市なのだ。よってその都市長は王族の中から選出されることが決まっていたのだが、今年成人したばかりの息子のジュリアン王子になぜだか白羽の矢を当てられてしまったのだ。表向きには王位継承権第一位のジュリアンに、初代都市長として花を持たせるというのが、名目になっているようなのだ」
「え? あのジュリアンが、都市長に?」
俺は思わずそう聞き返してしまっていた。それはなんて無謀なのだ。あいつにはいくらなんでも都市長なんて無茶すぎる。絶対に大ポカをするにきまっているだろう!
ジュリオ王は眉間に縦皺を立てながら、俺と同じことを思って憂いている、そうした顔になっていた。
「親からいうのもあれだが、息子のジュリアンは問題ばかりおこす困ったやつなのだ。俺もこれまでに、あれに親らしいことをしてやれない償いとして、これまでに起きた問題は全てもみ消してはきたのだが、あれが都市長として政治的な失敗をやらかすとなると、これまでのようにあいつを救ってやることはできなくなる。最悪だと王位継承権の剥奪にもなりかねんのだ」
ジュリオ王はそれから続けて爆弾を投下する。
「今回のジュリアン王子の都市長の決定は、王子を失脚させようとする勢力が糸を引いたのかもしれんのだ。、、、そこでなのだが、あれには手綱を取ってくれる補佐をつけたい。ハルカ嬢には万が一の時のために、あれの婚約者となってジュリアンを守ってやってほしいのだ」
チクタク、チクタク。
部屋の柱時計以外に音のない世界になった。
すでにこちらへ戻って一緒に聞いていた執事のロイスも、めったに見ることができない驚きの表情をしていた。
ロイスは、このおっさん(ジュリオ王)の最も近い腹心なのだ。それなのに事前にこのことを知らされていなかったなんて、とても珍しいことになるんだろう。
俺も同様にびっくりしているが、誰だってそりゃそうなるだろう。この話自体が博打の過ぎる内容に聞こえるんだから。
王族の、それもだ、王権の第一継承権を持つ王子と平民の少女が婚約する。
普通は絶対にあり得ないし、王は気が触れたと周囲に思われるのがオチになると思われる、そんな話だった。
しかしこのおっさんの尋常ではないところは、こうした奇妙奇天烈なことを言い出しては、結果的にそれが正解になるといった、先読みの能力があることだ。
するとそうか。俺とジュリアンがね。
、、、婚約者になるのが正解というわけか。
、、、
、、、ヲイ。何の罰ゲームなんだ。
断固拒否! 抗議だ、抗議!!
「オ、私は平民ですよ。無理ですよ? 身分がとても違いすぎますからっ!」
「そ、そうですぞ。このような前例のない、、、」
必死で逃れる言い訳を見つけて、すかさず反撃をすると、上手い具合にロイスも援護射撃をしてくれた。いいぞ、これで婚約を阻止できた!
するとジュリオ王は、それを聞いても、フン、と鼻息で一蹴していた。
「ジュリアンが都市長で問題を起こすのなら、その時はどうせ王位継承権を剥奪されるのだ。この際、婚約者が平民かどうかなぞは、とるにたりぬ問題なのだよ。だったら望みの低い賭け率でも、俺はハルカ嬢に賭けてみたいと思う。あのジュリアンがこうまで心を開いた相手は、勇者ハルキを除いては、君が唯一であるのだ。、、、親バカになる願いではあるが、どうか我が望みを叶えてはもらえぬだろうか?」
ジュリオ王はすでに号泣をしていた。そしていつの間にやら自らの片膝を倒して、俺の手をしっかりと握っていたのである。
ロイスもハンカチで自分の目元の涙を拭っていた。そこまでの深いお考えが、、、と感涙している様相を見せていた。
あれれ? なぜだ。どうしてこうなっているんだ。
何かこう、嵌められた感も無きにしもあらずだったが、俺にとってはジュリアンは弟も同然で、あいつを他人事にしておきたくないといった気持ちも強かった。
こうして俺は詰んだ局面に、渋々頷くしかなかったのである。
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