第39話 出張編
あっという間に雫の出張初日の朝になってしまった。
「ちゃんと携帯とか財布持った?」
「うん、持ったわ」
完全に仕事モード全開の雫お姉さんだ。
玄関の前で最終確認中だ。
「ちゃんとこまめにラインするからね?」
「了解〜」
「本当はすんごく寂しいけど、昨日の夜、和樹くんにたくさんむぎゅーってしたから我慢できる!」
「はいはい、遅刻しちゃうから、もう行きな」
「はーい、分かりました〜」
「おっと、忘れ物忘れ物」
「うん?」
玄関のドアを開けようとした雫がまたこっちに振り向いてきた。何を忘れたんだ?
ちゅっ、
唇に柔らかい感触。
「ふふ、ごちそうさま。じゃあ、行ってくるね!大好き!」
ペロ、
いやらしく舌舐めずりをするな!エロいじゃないか!
「い、いってらっしゃい…」
「んー、大好きは?」
「大好きです…」
「誰の事を?」
「雫のことが大好きです!」
「はーい、よく出来ました!じゃあね!」
ガチャン、
「まったく、本当に遅刻しても知らないぞ」
顔から火が出るほど赤いのが自分でも分かる。やっぱり雫の甘やかしモードには敵わないなぁ、
「さてと、俺は在宅だし、ぼちぼち仕事始めますか」
振り返ると、シーンと静かだった。まるでうちじゃないみたいだ。
「覚悟はしていたが、中々に応えそうだな」
そう言い、俺は仕事部屋に向かい、仕事をした。
「よし、休憩にするか」
時刻は昼の2時。そろそろ昼ごはんを食べようと仕事部屋から出る。
ガチャ、
シーン…
うーん、やっぱり寂しいなぁ…自分がどれだけ普段、雫と一緒にいる日常に慣れていたかを実感する。
ピコン!
「うん?ラインか?」
ポケットからスマホを出すと雫からのメッセージだった。
『和樹く〜ん、ちょっと前にホテル着いた!』
無事に着いたみたいで安心した。
「お疲れ様、なんか食べた?」
『新幹線で駅弁食べちゃったから、お腹いっぱいなんだよねー笑 和樹くんは?』
「そっか、俺は今から食べる」
『いっぱい食べるんだよ??』
「子供扱いするな!笑」
『ごめんごめん笑』
「雫は仕事どんな感じ?」
『まだかな!今はホテルで休憩中って感じ』
あー、なんか幸せだなぁ。離れていても、今、雫がどんな風な顔をして、メッセージしているかはいつも見てる俺だから分かる。きっと俺みたいに笑って──
『あとで、担当者と作家さんと打ち合わせして、夜ご飯を食べるみたい!』
ズキン、
あ、あれ?なんだ、この胸の痛みは?
「そうなんだ、その二人って男の人?」
『うん?そうだよ』
ズキンズキン、
痛い。めっちゃくちゃ胸が痛い。
「そっか、じゃあ、頑張ってね」
『え、もうご飯たべおわったの?』
「ごめん、なんか急に仕事入っちゃって」
嘘だ。そんな連絡、会社からは一切来ていない。
でも、ただ、今は雫と話したくなくなった。
『もしかして、不安にさせちゃった?』
俺は雫のそのメッセージを最後に返信をしなかった。どうしても逃げたくなった。
その後は携帯すら見なかった。結局、何も食べずに仕事を再開したが、あんまり集中出来なかった。
6時半。
とりあえず、今日の分の仕事は終わった。
「はぁー…」
深いため息をつく。
なんであんな態度取ってしまったんだ。少し頭が冷えたのか、さっきまで自分がやっていた事は非常にみっともない事だったと思い始めた。
勝手に嫉妬し、逃げてしまい、雫に余計な心配をかけたに違いない。
「雫に謝ろう」
そう思い、やっと携帯を見る。
そこには雫からメッセージがあった。
1時間前──
『和樹くん?』
30分前──
『夜、電話しよ。こっちからかけるから』
これは絶対に怒っている…




