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キューブ  作者: 水野 閖
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022 それぞれの準備

 ひとしきり自分の不甲斐なさを叫んだ蔭川は岩場に座り込み、今回の反省を活かした今後の動き方について考えていた。


「シュゴフ教の事はさっさとケリをつけないと大切な人が危険に陥る……。もう大切な誰かが自分のせいで傷つくのは嫌だ……」


 骨折したエミリーも死亡したサミーも蔭川とつながりの深い人物だ。

 そうはいっても、こうやって人的被害が出た以上、戦果が拡大しないうちにどうにか解消するのは難しそうでもあった。


 蔭川の学友サミーだけでなく、他界したジョンもシュゴフ教の幹部だった。

 こちらは戦闘回避の為に避難していた側とはいえエミリーが骨折しただけである。シュゴフ教側が穏便に引ける程なのか蔭川には判断できなかった。


「こうして戦いは始まってしまった。相手は何人いるかはわからない。キューブ持ちも最低二人は残っている。その内一体は竜だ。対してこちらもキューブ持ちは僕とジョージの一人と一匹。ただし、両方とも戦闘力はあまりない」


 ジョージの七色の雛(ラードゥカ)はAランクだが炎属性という以外強みはない。実験していないが、攻撃を受けた部位が炎に変わるのだと推測できた。山火事を起こす暴挙には出れるかもしれないが、それだと消火問題が浮上してしまう。


 蔭川の影ヒコーキ君(チェーニ)はSランクで偵察には適しているものの高ランクの理由は影属性だ。身体にダメージを受ける程の攻撃を受けた場合に自動でその部分を影に変える。この属性を蔭川も得たので、攻撃は受け付けない。それは実証済みだ。

 しかし、攻撃手段として考えると、竜や他のキューブには劣るだろう。


「ジョージや七色の雛(ラードゥカ)を戦力に数えるのはいけないだろうな」

 能力という意味だけでなく、蔭川の戦いに巻き込むのはあまり気持ちのいいものではない。


「僕独りで可能な有効な作戦といえば、死んだふりくらいか」

「いろいろ悩んどるようじゃな」

 いつの間にか後ろに立っていたジョナサンに蔭川は驚かされた。

 対するジョナサンは静か朗らかな表情だ。


「自分を知るのも大事じゃ。影能力を熟知すれば、それは大きな利点になるじゃろう。それで敵の最新情報をしっかり手に入れたら盤石じゃな」

「最新……情報?」

「そうじゃな。あやつらが例の二人が死んだと分かってどう動くか次第で次の手はかわるじゃろう。恐れおののいて引いてくれるか、怒って戦力増やすか。相手が戦力拡大した場合はどの程度の戦力差で、どういう装備や作戦かで取るべき戦略も変わってくるんじゃ」


「確かに……」

 蔭川を捕縛しようとされるか殺そうとされるかでもがらりと対応方法を変える事になるだろう。


「それで、どうやらあやつらは戦力補強したようじゃな。新しいキューブ持ちが二人増えとったよ。相手の能力は調査中じゃから、それを待ってから作戦を立てても遅くないんじゃないかな。根城も一新したようじゃ」


 ・・・


 シドニー北部の繁華街はんかがいチャッツウッド。

 大型ショッピングモール、駅、バスターミナル、図書館等がぎゅっと一カ所に集まっている。電車で都心まで行けるし、蔭川が一時逃走中に身を隠していたウィラビーはその隣の地区だ。


 蔭川探しにも適している場所と言える。シュゴフ教の新しい根城はそこにあった。

 新たな根城への引越しを終え、再び新たな幹部が揃ったのは翌日だった。会社で働くライアンやスーザンと中学生のズーイが同時に会えるのは通常ならば夕方の僅かな時間しかない。


 しかし、有休を取るのは自由で推奨すらされる事なので空も明るい段階で会う事ができていた。


「昨日も言ったようにライアンの能力は再生、ズーイは超聴覚じゃけん」

「戦うなら某! 某が適任です!」

「私は知っている。怪しいやつの索敵が私の任務だと」


「そうじゃね。ジョンとサミーの仇討かたきうちの作戦を考えていくけん。協力してね」

 円卓に並ぶ椅子に四つの椅子にスーザン、ササ、ライアン、ズーイの四人が集まっている。皆真剣な顔をしている。席にはシュウマイ、担々麺、ほうれん草のにんにく炒めなどが並んでいる。


「唯一の手がかりは蔭川という大学生じゃね。ズーイが蝙蝠こうもりを使って探して頂戴。名前と大学しか手がかりはないけど……」

「私は知っている。きっとすぐに見つけられると」


「それから、蔭川の仲間に迷彩服の女がいるけん気を付けて。武器満載で強いけん。前回は睡眠弾やガスでやられたみたいなんよ」

「対策は某! ライアンにお任せください!」


 料理の脇にはガスマスクが四つ置かれている。

 ジョンが手配だけしていた物で品質は良好だ。元ホームレスなのに有能だ。


「ありがとう。それからササには私の護衛をお願いするけん。よろしく」

「はい」

 少しずつ料理を食べて、和やかに作戦会議が進んでいく。

 他の信者は今回も同席していない。


「蔭川がジョン達を殺した首謀者かはまだわからんのじゃけど、キューブに詳しいのはわかってるんよ。だから、まずは彼の仲間や関連してるキューブ探しから始めるのがいいと思う」

「某も! 某も賛成です! あのジョンを破ったのであれば相当なものでしょう」


「それで、敵の首謀者を見つけ終えたら、ライアンと信者達に戦ってもらいたいんよ。ジョンが持ってた鬼とサミーの犬が返ってくるはずじゃけん。功労者を幹部に格上げして新しいキューブ持ちにさせる」

「私は知っている。これがシュゴフ教の最初の壁、通過点であると」


「ライアン、どんな装備を用意できると思う?」

「防護服、ガスマスク、警棒、防犯スプレー、殺虫剤などですかな!」


「そうじゃね。いいと思う」

 そんなシュゴフ教会議はモート家の密偵によって盗聴されていた。


 ・・・


「大学まで嗅ぎまわられるのは厄介だな。試験が始まる前に見つかったふりした方がいいのか。それでキューブ使いが自分だけだと思わせる」

「そうじゃな。それがいいかもしれんの」


 蔭川とジョナサンの会談である。ただし、この爺さんは相談役であり協力者でもあるが、狙いが同じとは限らない。彼からすれば、シュゴフ教は娘を傷つけられた敵でしかないはずなのだ。

 エミリーはまだ病院で療養中、七色の雛(ラードゥカ)は家の中を歩き回っている。たまに転がっている。


「問題は相手の思惑通りに捕らえられてから、どうやってスーザンと仲間になるなり倒すなりするかだな」

「仲間? そうじゃな。あやつらはお前さんの近辺調査で首謀者探しを継続するじゃろうがよいのかの?」


 蔭川ははっとした。

 実際に撃退したエミリーを隠し通しながらシュゴフ教と協力関係になるのは難しい。いづれほころびが出るんじゃないか。

 その時がいつかはわからないが、後からスーザンを倒すとなると、どれほど組織が出来上がっているかわからない。その頃までに蔭川の情報もどんどん収集されてしまうだろう。


「覚悟を決めるしかないか……。別にあの人達が悪人と言うわけではないけど、この先敵対する運命なんだろうな」


「ほう、ならばどうするのじゃ?」


「方法はわからないけど、どうにかキューブ使いだけを、そうだね、殺しておきたい。その上でキューブとカードは回収させてもらう」

「そうじゃの。あの竜おるじゃろ?キューブの方は儂ら玄人プロより能力は上じゃ。竜を引き離して、スーザンを先に倒す方がいいかもしれんの。将が落ちれば普通はおわりじゃからな」


 蔭川は頷いた。そして、毒入りミルクティーを味わって飲む。

 方針が固まってきた。そして、覚悟は固まった。


「問題は四六時中スーザンの護衛をしている竜をどうやって引きはがすか」

「そうじゃの」


「竜のキューブを止めるには所有者を倒すのが一番いいけど、もすごく硬いんだよね?」

「うむ。」


「キューブの能力を共有できるのは本当に厄介だな。ガスマスクもつけられるならやっぱり竜のキューブ持ちを直接狙うのは無理だろうな」

「それはそうとな。殺すんじゃったら、場所を選ばんと牢屋にぶち込まれるぞ」


 蔭川は文字通り頭を抱えた。当たり前の事を忘れていた。

 ジョナサンは相変わらず朗らかに微笑んでいる。


「ん?ちょっと待てよ、スーザンの能力次第だけど殺すだけなら何時でも可能だ。確かに問題は場所だ。キューブとカードは回収できて、尚且つアリバイがなければならない」

「心配せんでもキューブ使いさえ人目につかん場所で倒してくれれば回収も後始末もしてやるからの」


「それなら……」

 スーザン、蔭川、いろいろな人の思惑が巡り時間は過ぎていく。


 ・・・


 蔭川はモート家の折りたたみベッドに横たわっていた。

『もしもし、クラッチ』

『鈴蘭、こんばんは』

 蔭川は寝転がって携帯を弄る。

 暗くて静かな部屋に液晶画面からの明かりだけが漏れている。


『キューブ召喚してみたよ』

『ああ、どうだった?』


『まずね、召喚前の売却値段は二ヨム、召喚したら一ヨムに下がってた。売る気はないけどね』

『そっか。中古になると値段が下がるのか』


 ある程度予想していた事であるが、こうやって事例が増えて行くと実証できて嬉しい。

 蔭川は寝返りをうった。


『そうみたいだね。あと、馬鹿母が激怒した』

『え?』

『自業自得だけどな!』


 重くなってきた瞼を必死に上げて返事を確認する。

 頭が重い、もうすぐ寝てしまいそうだ。


『部屋を守らせて外出してたわけ。そしたら、馬鹿母が勝手に入ろうとしたらしくて、切り傷できたんだってさ』

『たしか鈴蘭のキューブって灰色の守衛・蟷螂かまきりだよね?』

『そうそう』


 Fランクの防衛専門のキューブ灰色の守衛シリーズだ。事前に防衛区域を決めれるのだが守る以外の選択肢がない。眠気のせいか、多すぎる悩みのせいか、鈴蘭の母の事など頭には入ってない。


『それは、カッコ良さそうだね』

『ああ、まぁまぁね』


『御免、鈴蘭。そろそろ眠い』

『あ、もう寝るの?』


 携帯の上部にある時計には零時二十分と表示されている。

 日本との時差は二時間なので日本ではまだ二十二時二十分だ。


『まだだけど、こっちはもう日跨いでるからね』

『そっか』


『返事なくなったら寝たと思って』

『了解』


 蔭川は目をぎゅっと瞑った。そして、眼を開ける。


『そうそう、クラッチ。もしかしたら、キューブ持ちに喧嘩売りに行くかも』

『はぁ?』


 眠気が吹っ飛んだ。

 キューブ持ちは特殊な能力を持っている。紋章もつかないような雑魚キューブの場合は別だが、蔭川もジョージもシュゴフ教の幹部達もそれぞれ常人とはかなりの差がある。


『いや、私じゃなくて大場がね』

 大場のキューブ『剣王 千』はAランクで能力値が高かった。蔭川やジョージが属性によるランクだとすれば、大場のは戦闘力によるランクだろう。

 ほっと息を吐いた。


『そっか。相手は?』

『他人を操り人形みたいにする奴らしいよ』


『うわ……。厄介だな。木乃伊ミイラ取りが木乃伊にならなきゃいいけど』

『そうそう。そう言ったら、守りを任されちゃったよ』


『馬鹿じゃん』 

『ば、馬鹿って言う方が馬鹿なんだからね!』

蔭川の持ち物

5ヨム

闇S 影ヒコーキ君チェーニ(支配者)

F  灰色の守衛・蜘蛛(道具)

F  ただの薬草(魔法)

F  ただの猫(道具)

F  灰色の守衛・海老(道具)


ジョージの持ち物

0ヨム

炎A 七色の雛(支配者)

F  ただの鳥(道具)x5


鈴蘭の持ち物

1ヨム

F  灰色の守衛・蟷螂(道具)


ジョナサンに保管されている物

B  贈与の番犬(眷属)

B  贈与の大鬼(眷属)


スーザンの持ち物

―ヨム

―  イソギンチャク型キューブ(支配者)

F  灰色の守衛・蜘蛛(道具)


ライアンの持ち物

―  贈与の死人(眷属)


ズーイの持ち物

―  贈与の蝙蝠(眷属)


ササの持ち物

 B  贈与の双竜(眷属)


次回「殺戮」

それはもう戦いとは言えない・・・。


27日昼12:00頃記載。

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