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キューブ  作者: 水野 閖
22/29

020 大鬼とエミリー

「ああ、もうめんどくせぇ」


 サミーと大鬼のキューブを乗せたジョンは森に突っ込んだ。バイクなので木々の間でも走れる。

 彼らの前にはサミーのキューブ番犬が蔭川の場所まで先導している。


 そんな彼らを木の上から待ち伏せしていた迷彩服の女がいた。

 手に持つライフル銃の標準を合わせて、木々の間を縫うように走るバイクを撃った。


 ばごぉぉん。


「くそがぁっ」

「うわっ」

 予期せぬ不意打ちを受けバイクのエンジン部が爆発し横転し、ジョンとサミーは投げ出される。森の悪路で速度を落としていたのが幸運だったのか、防備の優秀さか、ジョンもサミーも無事だった。


 ぱしゅ。


 ぱしゅ、からんっ。


 迷彩服の女エミリーは続けざまに銃撃しサミーは即死、ジョンは首元に被弾したものの強靭なスーツと自前の筋肉ではじき返した。


 蔭川の友達であるサミーは犬死である。番犬のキューブ持ちだけに。持ち主が絶命したからか先行していた番犬も動かなくなっている。その様子を確認したエミリーはジョンへと視線を向ける。


 奇襲で手を抜くエミリーではないが、薬物が肌まで届かなければ厚い筋肉のジョンには有効打にならないらしい。

 人気のない森の中、防弾ヘルメット越しにジョンはにやりと白い歯を見せた。

 飛んできた銃弾の方向を探る。


「てめぇ、昨夜はよくもやってくれたなぁ!」

 ジョンはずしんと地面を蹴ってエミリーのいる方向へ駆け出す。


 ぼごっ。


 ぼごっ。


 通り道にある木を殴り倒しながら、血走った目で左右を見ながら駆けて行く様は鬼気迫るものがあった。彼の通った道には無残に倒された木々が残っている。

 身体能力では規格破りのジョンだが、エミリーを視認できたわけではない。ただ、闇雲に手を振り回すだけだ。

 無駄に殴り倒された木はその残骸である。


「うおりゃあ。どうした? 反撃してこないのかぁ?」

 エミリーはと言うと、無音で木々を飛び交いスーツの弱点を探そうとしていた。


 ぱしゅ、ぱしゅ。


 銃弾がジョンの防護服に弾かれる。

 攻撃力に欠けるエミリーと索敵能力に欠けるジョン。サミーのいないこの状況では、このままでは勝負がつかないはずだった。


 そう、これが真っ向勝負の純粋な一対一ならば。


「大鬼、先行って昨夜のあの野郎をぶっ潰してこいっ!」

 しかし、ジョンは既に知っているのだ、蔭川の居場所を。ずっと同じ方向を進んできて、番犬が戻ってからは地図で確認もしている。携帯の位置情報確認システムで現在地を知っているジョンからすれば、先に蔭川から潰せばいいだけの事。


 ジョンと大鬼は蔭川の潜伏しているエミリーの実家へと歩を進めた。

 こうなると、無理をしなければいけないのはエミリーの方だった。


 ぱしゅ、ぱしゅ。


 大鬼への銃弾は一瞬も動きを緩める事さえなかった。


 ぱしゅぱしゅ。

 それならばとジョンへ人体急所である肺に肋骨を突き刺そうと銃弾を撃ち込み、打たれると激痛を受けるはずの肝臓、呼吸の要のみぞおち、股に銃撃し、全て狙いの場所に直撃させた。


 しかし、そのことごとくに効果がなく、エミリーの背に焦りが蔓延はびこる。

 こうしている間にもジョン達は一歩一歩エミリー実家へと足を進めているのだ。


 銃以外のエミリーの武器は催眠ガス、強酸の液体、毒付き投擲用ナイフ、小太刀である。


 屋外の開けた場所では催眠ガスは上空へと逃げて行き、風にも流されあまり効果が見込めない。


 相手のヘルメットの空気を取り込む隙間は顎元にないのは確認済である。頭上にあるのだ。そこで睡眠ガスを爆発させたところで、効果は薄いだろう。


 エミリーは木を乗り移りながら駆けて、ジョンの頭上、進行方向へと飛んだ。

 移動速度を考慮して、ジョンの頭上で爆発するように投げる。


 ぱりんっ。


 睡眠ガスではない、強酸の液体である。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」

 寸分違わずヘルメットの空気穴に当たって入っていく強酸がどういう経路でヘルメット内に入るかはわからないが、ジョンが頭を押さえて暴れまわるほどには効果があったらしい。


 続いて息が荒くなったジョンへと催眠ガスを投げる。


 がしゅん。


 そして、ジョンの巨体が地面に倒れた。

 ふっと息を吐くエミリー、しかし、まだ戦いは終わっていない。


 大鬼は今だに走っているのだ。念の為に宙を舞って番犬に目を向けてみるが、倒れたまま動いた形跡はない。キューブの主が生きている限り止まらないのだ。


 仰向けに倒れたジョンへ投擲用ナイフを飛ばした。

 スーツの上に垂直に飛んだそれは、ゆっくりと倒れた。

 スーツを貫けなかったものの斬りこみは残っていた。


 剛力と言えども眠ってしまえば防護服を脱がせて小太刀を突き刺せばいい。

 エミリーは巨体へ走り、胸元にあるチャックに手をかけた。


 ぼんっ。


「くはっ」


 エミリーは吹っ飛ばされ、木にぶつかって地に落ちた。

 ジョンは意識を失っていなかったのだ。それに気が付かなかったのはエミリーの焦り過ぎが原因かそれともあれほど喚いていたジョンが静かに機を待った作戦勝ちか。

 何にせよ、エミリーは不完全な受け身で一命は取り留めたものの、左腕が折れて血が噴き出していた。


「くそがっ」


 ジョンはのっそりと立ち上がり、二十mほど離れた所でもがくエミリーへと近づいていく。

 エミリーは痛みで意識を手放した。


 残りの距離は十m。


 九m。


 八m。


「お前さん、なかなかやるよじゃ。エミリーを倒してしまうとはの」

「誰だてめぇ!」


 疲れからか幾分勢いを失くしたジョンの脇には爺さん、いや、ジョナサンが立っていた。

 朗らかな顔をしている。ジョナサンは小柄なので、巨漢ジョンと対比するとより小さく見えてしまう。加えて、ジョナサンはパジャマ姿である。


「ジョナサンじゃよ。そして、さようならじゃ」


 そう言うが早いか、ジョンのヘルメットは百八十度反対に回っていた。

 そよ風が流れる。

 そして、ジョンは膝から崩れて地に伏した。程なくして、先行していた大鬼も機能停止し森に倒れた。


「さ、エミリーの治療じゃ。お前たちは後始末をよろしくな」

 パジャマ姿のジョナサンは落ちた枝とどこからか取り出した包帯で手早く応急処置をしたかと思うとエミリーを抱え、歩いて行った。

 残ったジョンとサミーの死体、キューブや彼らの持ち物は整理されるのだった。


 ・・・


 いろんな速度でナイフを自分の身体に突き刺して実験する蔭川に風呂敷を担いだジョナサンが近づいてきた。


「本当規格外じゃな」

「あ、あはは」


「お前さん程ではないが、人智を外れやつが来おったぞ」

「え?」


 蔭川は驚いて腰を抜かしそうになる。

 リビングには蔭川とジョナサンだけがいた。手負いのエミリーはフィーナと共に病院に向っている。


「誰じゃと思う?」


「……エミリーの兄?」


「ふはははは。確かにあやつも人の域からは外れておるな。じゃが、違う」

「はぁ」


「キューブ持ちじゃよ。殺気満々じゃったから、悪いけど始末させてもらった。ほんで、これが戦利品」

 大鬼と番犬のキューブとカードを床に広げる。


 番犬の所有者がサミーである事を知っている蔭川は驚愕した。顔が引きつり、不本意な事ににやけているように見えている。ジョナサンには本心が伝わっているらしく、少し悲しげな顔をしていた。スーザン達を調査していたジョナサンは当然サミーと蔭川の関係も知っているのも影響しているのだろう。


「なんで……」

「さすがに黙って殺されるわけにはいかんのじゃ」

「……」


「あと、エミリーが攻撃を受けて骨折した」

「ええ!?」

 驚きの連続で蔭川の頭はショート寸前だった。力なく項垂れた姿からは狼狽の色がにじみ出ている。


「心配はいらん。命に別状はない。二か月もあれば十分元に戻るじゃろ。死んだ奴らの後片付けもやっておく。でも、これで、お前さんも腹を括るしかないの」

「……結婚?」


 蔭川が窮地に陥らないように救う為に負傷させてしまった。婿にしようと提案していたジョナサンならそんな風に事態を収束させようとするのではと蔭川は推測した。


「それは望むところじゃが。そうじゃない。スーザン教、今はシュゴフ教と名乗っておったか、あやつらが身内の死を知ったら、どうするかの?」

「ああ……戦いになる」


「そうじゃな。まぁ、どうあってもお前さんは死なないかもしれんが、束縛して海に放り捨てるくらいならできるじゃろうからな。人の恨みは怖いもんじゃ」

 蔭川は顔をにやけ、いや、引きつらせていた。

 対するジョナサンは微笑んでいる。


「そうじゃな。知らぬ存ぜぬで通すか、根絶やしにするか」

「はぁ……」

「最悪、総力戦になる事も視野にいれて準備しておく方がいいじゃろう」


 ・・・


 一方その頃のシュゴフ教根城。

「ライアンありがとう」

「いえ!某が財政援助をさせていただきたいと!そう願ったのです!」

 スーザンの前で黒褐色の男が意気揚々と声を出していた。口にカールした白髭が立派な筋肉質の中年だ。三mm丸刈りでいかつい。


「それから、ズーイは来てくれてありがとね」

「私は知っています。ここにいると世界が変わる事を」


 グミを手に話すのは漆黒の肌をした百四十cm程の小さな女子中学生だ。

どちらもササがキューブ持ちになるのを目撃してから、信者になったのでサミーの同期である。


 子連れで活動に深く入れなかったライアンや現時点では社会への影響力の低い中学生のズーイは幹部になれていなかったが、一般の信者より上の扱いではあった。


「君たちも活動に協力的で助かっとるんよ。すぐには力を与えられんけど」


 スーザンは手元に頁が一枚しかないぴらぴらの冊子を広げている。スーザンの目線の先には『贈与の悪魔』、『贈与の死人』、『贈与の蝙蝠』、そして『灰色の守衛・蜘蛛』のカードが佇んでいた。


「いえ!主と一緒にいられるだけで!某は!某は嬉しいのです!」

「私は知っています。時はいづれ来るのだと」


「ありがとね。んー、ジョン達にも様子を伝えてもらおうかな」

スーザンは裏表紙の『眷属』にそっと指を置く。


『贈与の双竜 所有者ササ ウォール 待機中、贈与の大鬼 所有者なし、贈与の番犬 所有者なし、贈与の死人 所有者なし、贈与の蝙蝠 所有者なし。』


「え……ジョン! サミー!?」


蔭川の持ち物

5ヨム

闇S 影ヒコーキ君(チェーニ)(支配者)

F  灰色の守衛・蜘蛛(道具)

F  ただの薬草(魔法)

F  ただの猫(道具)

F  灰色の守衛・海老(道具)


ジョージの持ち物

0ヨム

炎A 七色の雛(支配者)

F  ただの鳥(道具)x5


鈴蘭の持ち物

1ヨム

F  灰色の守衛・蟷螂(道具)


ジョナサンに保管されている物

B  贈与の番犬(眷属)

B  贈与の大鬼(眷属)


スーザンの持ち物

―ヨム

―  イソギンチャク型キューブ(支配者)

F  灰色の守衛・蜘蛛(道具)

―  贈与の死人(眷属)

―  贈与の蝙蝠(眷属)


ササの持ち物

 B  贈与の双竜(眷属)



読んでくれてありがとうございます!


次回、「傷跡」。

26日昼12:00頃記載!

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