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権限至上主義:世界がどうなろうと知ったことか  作者: biyaozhie


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6/21

文明エンジン――衛同言

  極天の目の前が、突然真っ暗になった。


 周囲のあらゆる音が、同時に消える。


 ジジジ……。


 暗闇の中、古びた機械が擦れる音が耳に入り込んできた。


 数メートル先。


 ぼんやりとした白い光が、ゆっくりと灯る。


 周囲が少しずつ照らされ、視界が次第に鮮明になっていく。


 部屋……?


 極天は素早く視線を走らせた。


 そこは、薄暗い寝室だった。


 カーテンは固く閉ざされ、一筋の陽光すら差し込んでいない。


 窓際の机には、一台のモニターが置かれている。


 最初に見えたあの白い光は、そこから放たれたものだった。


 その前には、一つの黒い影。


 微動だにせず、静かに机の前に座っている。


 部屋の中はひどく散らかっていた。


 床には本や機械模型、それに分解された電子部品がいくつも転がっている。


 極天の視線が、部屋の隅に移った。


 そこには、楕円形をしていて、どこか「ハート」のような輪郭を持つ装置が置かれていた。


 極天は、数秒間そこから目を離せなかった。


 ジジジ……。


 再び、二度。


 音が響く。


 極天の視線が、そちらへ引き寄せられた。


 今度は、はっきりと聞こえた。


 音は、あの黒い影から発せられている。


 見えない。


 誰が座っている?


 極天は近づいて確かめようとした。


 だが――


 自分の身体が、まったく動かないことに気づく。


 目で見ること。


 耳で聞くこと。


 それ以外、何一つできなかった。


 湮甦は、今度はいったい何をしている?


 そのとき。


 モニターから音が流れ始め、画面が映し出された。


 そこには、制服姿の少年にインタビューする司会者が映っていた。


「衛くん、本当に心から感謝しています!」


 司会者は満面の笑みを浮かべている。


「あなたのおかげで、宇宙間リアルタイム通信が可能になったんですから」


 その瞬間――


 ドンッ!


 モニターの前に座っていた影が、机を拳で強く叩いた。


「違う」


 歯を食いしばるような声だった。


 だが、モニターの映像はそのまま続いている。


 司会者はカメラに向き直り、画面の向こうにいる視聴者へ説明を始めた。


「皆さんは、私の隣にいるこちらの生徒さんについて、まだあまりご存じないかもしれませんね」


「こちらの生徒さんは、衛同言くん」


「まだ若いとはいえ、彼が成し遂げた功績は決して小さくありません」


「最近、彼が通信分野で成し遂げた成果だけを見ても――」


「宇宙間リアルタイム通信に、新たな可能性をもたらした人物なんです」


 司会者は振り返り、衛同言の口元へマイクを差し出した。


「衛くん。今回、君がもたらした技術には、どんな名前が付いているんですか?」


 衛同言は、少し俯いた。


 頬がわずかに赤くなっている。


「えっと……まだ考えてなくて」


 顔を上げる。


 そして、カメラに向かって笑った。


「それなら――インタビューが終わってアップロードしたあと、コメント欄で募集するのはどうですか?」


「違う!!」


 画面の外から、怒鳴り声が響いた。


 掠れ切った声。


 まるで喉そのものが裂けてしまいそうだった。


 極天の瞳孔がわずかに縮む。


 心臓も、その声に呼応するように大きく二度、跳ねた。


 画面の中では、司会者が笑顔のまま話を続けている。


「学業をこなしながら、歴史に名を残すほどの成果を上げるなんて――」


「きっと、すべての時間と精力を研究に注ぎ込んだのでしょうね」


「視聴者の皆さん。私たちは皆、歴史の目撃者であり、参加者です」


「ぜひ皆さんの知恵をお借りして、この画期的な技術にふさわしい、素晴らしい名前を付けてあげましょう!」


 画面の外。


 ドンッ!


 再び、鈍い音が響いた。


 机の前に座る影が、両手で机を激しく叩いた。


 モニターが大きく揺れ、今にも倒れそうになる。


 影は両手でモニターを掴み、必死に押さえつけた。


 その指先から、かすかな亀裂音が響く。


 そして――


 頭をモニターへ叩きつけた。


 画面が一瞬でひび割れ、ノイズが走る。


 声が震えていた。


 すすり泣くような音まで混じっている。


「ち、違う……」


「これらは……全部、盗んだものだ……」


 額から流れ落ちた血が、ひび割れたモニターへ伝っていく。


 画面は赤く染まり――


 次の瞬間には、黒く染まる。


「俺……衛同言は……」


「『盗人』なんだ」


 その瞬間。


 極天はようやく気づいた。


 こいつが――衛同言?


 さっき画面の右下に表示されていた情報を思い出す。


 ――2210年。


 二百年以上も前の出来事だ。


 衛同言が言っていた「盗んだ」とは、いったい何のことだ?


 まだ頭の中を整理しきれていない。


 そのときだった。


 さっきまで静まり返っていた部屋に、突然、連続する蝉の声が響き渡った。


 ジィ――――。


 蝉……?


 その鳴き声が響いた瞬間。


 周囲の光景が、一瞬で切り替わった。


 極天が瞬きをしたときには、すでに斑模様の木漏れ日の下に立っていた。


 熱気が、正面から押し寄せてくる。


 強烈な日差しに、極天は反射的に手をかざした。


 少しずつ目が慣れてくる。


 そこは、見知らぬ街路だった。


 耳元には、通行人たちの話し声。


 子供たちの笑い声。


 そして、真夏の空に長く響き渡る蝉の声。


「衛同言」


 背後から、誰かが呼びかけた。


 度重なる場面の切り替わりに、極天は少し呆然としていた。


 まるで――


 ある朝、突然目を覚ましたような感覚。


 ここはどこなのか。


 自分は誰なのか。


 そんな巨大な違和感に、意識そのものを包み込まれている。


 背後から、もう一度声がした。


 今度は、もっと近い。


「どうして無視するの? 衛同言」


 その言葉と同時に、極天の肩が軽く二度叩かれた。


 ……ん?


 振り返る。


 そこにいたのは、長い髪の少女だった。


 だが、顔立ちはよく見えない。


 ぼやけた顔の表面を、無数の「0」と「1」が高速で流れていた。


 極天が――


 いや。


 「衛同言」が口を開いた。


「ねえ」


「太陽の光が身体に当たると、影が地面に残るだろ?」


 ……俺が喋っている?


 違う。


 極天は自分の身体を見下ろした。


 そこにあったのは、制服を着た少年の身体。


 さっき、彼女は俺を衛同言と呼んだ。


 極天は素早く状況を整理する。


 俺は――


 衛同言の視点に入り込んでいる。


 衛同言は、続けて口を開いた。


「じゃあ、当ててみてよ」


「意識に何を照らせば、それを残すことができると思う?」


 少女は振り返る。


 どうやら興味はないらしい。


「衛同言って、本当に変なことばっかり言うよね」


「ほら、行こう。授業に遅れるよ」


          * * *


「まだ目を覚まさないの?」


 緋紅鈴は、金属製のカプセルに顔を寄せ、観察窓越しに中を覗き込んでいた。


 その瞳には、隠しきれない好奇心が浮かんでいる。


 中で眠る極天を、じっと見つめていた。


 もう一度声をかけようとした、そのとき。


 緋紅鈴の動きが、ぴたりと止まった。


「……ん?」


 顔を上げる。


 視線が金属カプセルの制御パネルへ向いた。


「なんで、あれが来たの?」


 ピッ、ピッ。


 澄んだ電子音が二度鳴る。


 制御パネルに表示されていた安全ロックが、解除された。


 緋紅鈴は視線を落とし、もう一度カプセルの中を覗き込む。


 極天の瞼が、かすかに震えた。


 そして――


 勢いよく目を見開く。


「お――起きた起きた」


 コンコン。


 緋紅鈴が手を上げ、観察窓のガラスを軽く叩いた。


 カプセル本体が持ち上がり、斜めに立ち上がる。


 やがて、ハッチがゆっくりと開いた。


 ひんやりとした空気が、肌を撫でる。


 極天の意識はまだ少し朦朧としていた。


 それでも視線だけは、本能的に素早く周囲を走らせる。


 左手の少し先には、第二試験場へ続く大扉がある。


 だが、自分がいるのは金属製のカプセルの中。


 周囲には都市も、廃墟もない。


 あるのは、薄暗く、広々とした別のホールだけだった。


 右側の壁には、同型の金属カプセルが何台も並んでいる。


 それらは壁に設置されたレールに沿ってゆっくりと上昇し、そのまま壁の中へ収納されていった。


 極天が口を開くより先に、緋紅鈴が言った。


「おめでとう、おめでとう。極天」


「どうやら――残ったのは、あなた一人みたいね」


 極天は我に返る。


 視線を戻し、緋紅鈴を見た。


 目の前の赤いドレスの少女は、隠す気もないほど嬉しそうな笑みを浮かべている。


 衛同言のことを、あれだけ見せられた。


 なら――聞いてみるか。


「緋紅鈴」


「衛同言は……その後、どうなった?」


 緋紅鈴は、不思議そうな顔をした。


「ん?」


「自分のことより、そっちを気にするんだ?」


 極天は答えなかった。


 緋紅鈴は人差し指を唇に当て、少し考える。


「彼のことなら……」


「遺体が見つかったのは、薄暗い路地裏だったよ」


「手には――自分の子供の心臓を握りしめていた」


 緋紅鈴は極天を見つめる。


 そして、ほんの少しだけ間を置いた。


 次の瞬間。


 顔を極天へ近づける。


 そのまま耳元に唇を寄せ、囁くように言った。


「どうやら……」


「自分の子供を、殺したみたいだよ」


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