第97話 裸で歩く列
三日後、王都大通りを、何も足さない人々の列が進んだ。
先頭にはアステルがいた。服だけでなく、色膜も骨輪も香油も使わない。身体は生まれたままの光で十分だと書いた板を、杖へ結びつけている。
行進の参加札には百三十人の名があった。服の流行で「古い身体」と笑われた職人、色膜を買わないだけで祭りを嫌っていると思われた学生、ただ暑いから何も足したくない魚売り。参加した理由は揃っていない。
アステルは出発前、全員へ飾りを外すよう求めた。魚売りが仕事用の骨輪を残そうとすると、「今日くらい身体だけで立て」と押し切る。
「骨輪は見栄じゃない。網で手首を切らないためだ」
「一日外せば、自分の手がどれほど働くか分かる」
結人は口を挟みかけたが、行進を服屋が止めれば、アステルの言う通りになる。だから軒下から見送った。その沈黙も、後で軽くはなかった。
結人は店の軒下から見ていた。
行進を止める理由はない。参加者の多くは楽しそうで、祭典で服ばかり注目されたことへ、自分たちの身体も見てほしいと声を上げている。
ただ、真昼の石畳は熱かった。
列の中ほどで、若い女サミの歩幅が小さくなる。腰の紋が薄く、肌の守りも生まれつき弱い。日除けの膜を使えば楽になるが、アステルは「今日は何も足さない」と全員へ求めていた。
サミは参加を自分で決めた。祭典で服を試し、便利だと思った一方、職場では「着ないならやる気がない」と言われ始めている。今日だけは何も足さず歩きたい。その気持ちを、アステルは自分の主張と同じだと受け取った。
出発時、彼女は水袋を持っていた。アステルは水まで外せとは言わなかったが、列の先頭が速く、飲むために止まれば遅れる。サミは二度、栓へ手を伸ばしてやめた。
結人には、その小さな動きが見えた。見えても、本人に聞く前に助ければ、また答えを奪う。迷った数十歩の間に、石畳の熱は彼女の足裏へ溜まっていった。
「休みたい」とサミが言う。
「角までだ」とアステル。「不便から逃げれば、外から足す力が普通になる」
サミはもう一歩進み、膝をついた。
結人は布を持って走りかけ、止まった。彼女に着せれば、今度は自分が選ぶことになる。
「日陰を作ります。着なくていい」
市場の天幕を二本外し、通りの壁と荷車の間へ張る。カナが水壺を運び、テオが列を半分に分ける。服を着た人も着ない人も、腕を上げて布を支えた。
サミは日陰へ入ったが、アステルは立ったままだった。
「行進を続けろ」と言う。
誰も動かなかった。
サミの母が彼の板を取り、石へ伏せる。
「あなたは強い。娘は強くない。それを同じにするな」
アステルは反論した。裸身の自由、買えない人が置いていかれること、便利さが義務へ変わる怖さ。どれも間違ってはいない。
だが、サミの唇は乾き、返事を聞く余裕がなかった。
治療師が来るまで、アステルは天幕の端を握った。日陰を作る布を、服と呼ぶ者はいない。それでも彼の手は離れなかった。
治療師はサミの腰の光へ水を当て、薄い肩膜を勧めた。サミは首を振り、まず自分の水袋を飲んだ。しばらくしてから、肩膜を半分だけ貼ると決める。
アステルは「無理に貼らなくていい」と言った。サミの母が睨む。
「今度は、娘が決める前に断るのか」
彼は口を閉じた。助けを拒むことまで本人の代わりに選んでいたと、ようやく気づいた顔だった。
結人は何も解説せず、天幕の結び目を一つ緩めた。風が通り、日陰の中で全員の呼吸が少しずつ戻った。
夕方、行進は再開しなかった。
参加者たちは大通りの木陰へ座り、何を身につけるかを各自で決めた。色膜を貼る者、日除け板を持つ者、何も使わない者。サミは薄い肩掛けを選び、自分で留めた。
アステルの杖から、板だけが外されていた。




