第94話 同じ顔になる服
競合工房の前に、テオが六人並んでいた。
顔も背丈も違う。けれど全員が左肩を少し落とし、右足を二度擦ってから歩き出す。腰には同じ支え、外側には同じ青と橙。祭典で人気になったテオの姿勢と色を再現する商品だった。
通りの人々は楽しんでいた。
同じ姿勢を買った友人たちは、誰が一番テオに近いか競い、互いの肩を直し合う。仕事帰りの三人組は、普段なら選ばない大きな動きができると喜んでいた。
一方、姿勢支えを外せなくなった客が工房の裏へ並んでいた。留め具は本人の腰の紋へつながり、一定の笑顔を取ると緩む仕組みだが、緊張で表情が固い人ほど外れない。
競合工房は「正しく笑えば外れる」と説明する。その言葉を聞くたび、客の頬がさらに硬くなる。
「私もテオになった」
「次はエリアーヌ風が欲しい」
友人同士で同じ笑い方を練習し、配信石の前で並ぶ。本人たちが望んで買った物だ。結人はすぐ止める理由を見つけられない。
ノアは店の掲示板を見た。
あなたに一番似合う姿を、三つの質問で。
その質問は、彼女がORIGOで使っていたものだった。入口でどこを見るか。褒められた時にどちらへ顔を向けるか。隠したい場所はどこか。
「私の診断表」
ノアは掲示板の質問を一つずつ読んだ。自分が書いた時は、客との会話の入口だった。今は答えごとに商品番号が付いている。
右を見る人はA型。褒められて目を伏せる人はB型。傷を隠す人はC型。
「人を三つに分けたのは私」とノアは言った。
結人は、使い方が悪かっただけだと慰めそうになった。だがORIGOでも、忙しい日は同じ紙で客を早く分けた。競合だけを責めれば、自分たちの売上はきれいなまま残る。
工房主は、市場へ出回っていた写しを買っただけだと言う。名前は書かれていない。ノア自身が速く客を回すため、店員へ配った紙だった。
「使うな」と彼女。
「権利を持っている証拠は?」
ノアは答えられなかった。
そこへ、商品を着けた少女が駆け込んできた。姿勢支えが外れず、笑顔の位置で頬の筋肉を引き上げ続けている。
結人が留めを切ると、少女は泣き顔へ戻った。
「楽しかったの。友達と同じになれて」
痛かったから泣いたのではない。皆と同じ形を外されたことが寂しかったのだ。
ノアは少女へ謝ることも、商品を悪いと決めることもできなかった。自分の質問は、人を見つけるためではなく、売りやすい型へ分ける道具として働いている。
夕方、通りには同じ肩、同じ歩幅、同じ笑顔が増えた。
テオの動きを買った少年が、本物の前で得意げに回った。
「似てる?」
テオは肩の角度を直してやり、「俺よりきれいだ」と答えた。少年は喜び、友人の方へ走る。
笑ったテオの口元は、その子たちと同じ形だった。自分の癖を真似される楽しさまで、偽物とは言い切れない。
だからこそ、誰がどこまで持っていけるのか、簡単な答えはなかった。
その中を本物のテオが通る。誰も気づかない。彼だけが右足を擦らず、青布も着けていなかった。
ノアは診断表の原紙を持ち帰り、机の上へ置いた。
破らなかった。
破っても、写しは街中に残っていた。




