第79話 裸のランウェイ
祭典の相談は、会議室ではなく王都広場で始まった。
朝露の残る石床へ、結人は白い粉で一本の線を引いた。南座のテオが青布を着けて歩き、その後ろを身体装飾師のラナが続く。ラナは服を使わず、肩へ銀粉、足首へ薄い骨輪を置いただけだった。
広場の端で見ていた装飾師たちが、結人の企画札を読んだ。
新しい服の祭典。
ラナが裸足で白線を踏み消した。
「服の祭りなら、私たちは前座?」
「同じ舞台へ出てもらいます」
「最後は服で締める?」
結人は手元の順番表を見た。身体装飾、色膜、布、小さな服、大きな服。最後にはエリアーヌの新作を置くつもりだった。目立つ終わり方だし、注文も増える。
答えない結人から、ノアが札を奪った。順番を示す数字を全部消す。
「歩き終えた人が、次を呼ぶのは?」
テオがラナを呼ぶ。ラナは香油師を呼ぶ。香油師が色膜を使う少年を呼び、少年がまた布を着た役者へ手を伸ばす。誰が最後になるかは決めない。
「名前は?」と広場の役人。
ノアは消えた白線を見た。「裸のランウェイ」
「服屋が主催する名ではありませんね」と結人。
「だからいい」
人垣の後ろから、杖で石を叩く音がした。
白髪の男が前へ出る。身体には飾りも膜もない。腰の紋だけが褐色に揺れていた。
「隠す祭りなら、反対する」
「誰ですか」
「アステル。お前が布を売り始めてから、王都で一番嫌われている名だ」
本人が平然と言うので、周囲が少し笑った。
結人は「隠す人も隠さない人も」と説明しかけた。アステルは聞かず、舞台予定地を歩く。鏡を置く場所、観客の高さ、白線の幅。杖で小柄な踊り手の位置を示した。
「その子は、テオの背中で消える」
見ると、確かに頭しか見えない。
結人は舞台を一段高くする案を出したが、ラナが首を振る。
「高くしたら、下から見上げられる。私たちは腰の光を見世物にしたいわけじゃない」
「では、観客を円形に」
「車輪椅子を押す者が入れない」とアステル。
実際に椅子を借りて試すと、前輪が白線を引く粉へ沈み、鏡の脚へぶつかった。押していた母親は迂回しようとしたが、観客役の人垣が道を塞ぐ。アステルは杖で人の足をどかし、空間を作った。
「言葉で『誰でも』と書くのは簡単だ」と彼は言った。「身体は、その文字を読んで細くならない」
ラナは舞台予定地の中央へ座り、地面と同じ高さから周囲を見た。立っている時には見えた布の動きが、人の腰で全部消える。
「歩く人だけじゃなく、見る人にも高さがある」
結人は舞台を作るより、鏡を低く置いて反射で見せる案へ変えた。だが、低い鏡は幼い子どもの腰の光ばかり拾う。ラナに睨まれ、また角度を変える。午前だけで白粉を三袋使った。
口調は腹立たしいが、指摘は外れていない。結人たちは広場を一日歩いた。白線を引いては消し、鏡の角度を変え、舞台ではなく観客の道を先に決める。
昼過ぎ、アミが学校帰りにミオラと現れた。刃物にも舞台設営にも触れない約束で、布端の色分けだけを手伝う。
アミは大人たちの図面より、足跡を見た。外側の道を歩くテオは、曲がるたび一歩余計に使う。ラナは中央を短く抜けるが、踊りたい場所で止まれない。香油師は客席へ近づきたいのに、白線から出るなと言われていた。
「道、一本じゃないと駄目?」
役人は進行が乱れると言った。ノアは「乱れた時に誰が困る」と聞き、役人は答えに詰まった。結人は自分の店名が正面から見える一本の道を捨てきれず、図面を握っていた。
アミは白粉を指で三方向へ伸ばした。曲がり角に、小さな丸を描く。止まる人の場所だという。
「ここ、歩く人が自分で次の道を選べる」とアミが、白線の交差を指した。
一本のランウェイを三つに分け、途中で合流させる。長く見せたい人は外側、短く歩きたい人は中央。止まりたい人は鏡の前で止まる。
テオが青布で外側を歩き、ラナが中央をまっすぐ進む。どちらも相手を前座にしない。
夕方、告知板へ開催日が書かれた。
一か月後。裸のランウェイ。着ても、着なくても、途中でやめてもよい。
結人は最後に自分の店名を大きく入れようとし、ノアに炭筆を取られた。
ORIGOの名は、開催日の下へ小さく残った。




