第70話 アミの縫い直し
事故から二十三日後の放課後、アミは「壊してよい箱」を持ってきた。
母のミオラが付き添い、刃物も火も使わない。箱の中には、失敗した留め具、短すぎた支え、穴のずれた試験板が入っている。結人と決めた、一週間に一度だけ、完成品の形を守らなくてよい時間だった。
アミは売れ残りの帯を指した。
「これを試験に使っていい?」
「一本なら。前に決めたように、人が着る前に砂袋で試しましょう」
アミは頷き、母の持ってきた白紙を台へ広げた。十歳の彼女が使う時間は、もう工房の予定に入っている。
結人は一番傷んだ一本を選び、非常糸と安全骨だけ外した。危険な部分へ触れない状態にして渡す。
前にアミが考えた横抜きの部品は、取り替えには便利だった。今日は、替える場所まで持ち手自身が動かせるようにしたいという。布を切らず、外側へ細い筒を通す。筒の中を輪が滑り、そこへ支えが刺さる。
「引いている間は、どこで止める?」
「端だけ。途中に歯を付けると、昨日の位置に戻される」
二人は砂袋を吊った。輪は端へ滑り、力が増すと赤い骨が割れた。アミが位置を変え、結人が次の重さを足す。端の布を二重にした三度目で、袋が台の柔らかい受けへ落ちた。
結人は面白いと思った。
同時に、自分の図面を越えられたようで落ち着かなかった。
「製品へ入れる時は、僕が最終の形を決めます」
「今、一緒に直したのに?」
「売った後の責任は、大人が持たないと」
ミオラが帳面から顔を上げた。
「私も署名する。どの試験を通したか読めるようにして」
アミは、白紙へ書き足された三度分の結果を指で押さえた。
「使う人も、この紙を見て決めるんじゃないの」
結人は、売った後に自分が駆けつける場面を考えていた。試験した人と使う人が隣で話すより、自分が最後の一本を引く方が早い。その手軽さを、まだ手放したくなかった。
気づいたからといって、すぐ譲れるわけではない。
「それでも、販売の前には僕の検査を入れたいです」
アミは木の筒を外した。
「じゃあ、結人の服だ」
「ORIGOのです」
「ORIGOは誰?」
答えが詰まる。
セラはいない。マルタとソウもいない。名札には何人もいるが、最後の線はいつも結人が引いていた。
ミオラは、母として付き添った印の隣へ、工房の支払いを扱う者としてもう一つ署名した。
「検査を飛ばせとは言っていない。ほかの人が確かめた結果も、あんた一人で取り消すのかを聞いてる」
砂袋を外し、結人は自分の腰へ帯を巻いた。魔法は流さず、筒と安全骨の動きだけを確かめる。
「試します」
アミが顔を上げる。
筒を左腰へ。肩へ。腿へ。歩く、しゃがむ、布箱を持つ。位置を変えるたび、同じ一本が別の仕事へ近づく。危険な力を掛けると、安全骨が先に割れ、筒は止まった。
「使えます」
「誰が決めた?」
「着ている僕です」
アミは少し笑った。「なら、次は私じゃない人に聞く」
その日の試作は、製品へ入れなかった。結人とミオラと、実際に試した利用者が揃って確認するまでは売らない。アミの試験結果も同じ紙へ残した。
筒の模型を工房の壁へ掛け、誰でも触れるようにする。下へ紙を置いた。
動かしたい場所へ印を付けてください。名は書かなくていい。
翌朝、紙には十七個の印があった。肩、腰、腿だけではない。背中、腹、胸の横、道具を吊るす位置。
結人は印を見て、最初に自分の案へ丸を付けそうになった。手を引っ込める。
結人は胸の横についた十七番目の印を見た。どんな仕事でそこを使うのか、まだ想像がつかなかった。白紙をもう一枚取り、今日の相談台へ置いた。




