第56話 結人の三十七回
二十五日目の放課後、アミは同じ部品を三十七個見つけた。
ORIGOの隅に置かれた箱の中で、どれも同じ形をしている。帯の支えを留める小さな骨片。穴の位置が半寸ずつ違い、端には結人の爪で付けた傷がある。
「全部失敗?」
アミが尋ねると、結人は三十八個目を削りながら答えた。
「濡れた手でも支えを替えられる留め方を探してます。穴は動かせるけど、部品を抜く時だけ両手と小針が要るんです」
「三十七個とも、そこは同じ?」
「抜けやすくすると、荷も落ちるから」
「仕事で引く方と、外す方を別にしたら?」
結人の手が止まった。
アミは十歳で、刃物には触れない約束だ。母のミオラが帳面をつける横で、布端を長さごとに分け、壊れた部品を色箱へ戻す。それでも、毎週工房へ来るうちに、どの糸が危険で、どの骨片が身体より先に割れるかを覚えていた。
彼女は箱から失敗部品を三つ選び、作業台へ並べる。
「横へずらしてから抜いたら?」
アミは三つの骨片を階段のように並べた。荷は下へ引く。外す時だけ、横へ動かす。
「支えを片手で交換できる」と結人は言いかけ、骨片の薄い端へ目を戻した。
「間違えたら危険です」
「結人も三十七回間違えた」
セラが向こうで咳払いをした。笑いを隠している。
結人は意地になった。「僕は試験してます」
「使う人も試す」
「子どもが簡単に言うことではありません」
言った瞬間、アミの顔が変わった。
泣きそうになるのではない。大人を諦めた時の、静かな顔だった。
「じゃあ、聞かない」
彼女は三つの骨片を箱へ戻し、分類札を片づける。
結人は削りかけの三十八個目を見た。自分が守りたいのは安全だ。だが、そこへ「自分が最後に決める人でいたい」という気持ちが混ざっていないと言い切れない。
「待って」
アミは止まったが、振り返らない。
結人は鋭い道具を全部遠ざけ、穴を開けていない柔らかな試験板を出した。そこへ、木の突起を差し替えられるよう三列の溝を作る。刃物を使わず、アミでも位置を変えられる。
「これなら、選んだ場所が危険だった時、骨が割れる前に板が外れます」
「私が決めていい?」
「試験の中で。ミオラさんと、エナさんがいる時だけ」
「結人もいる?」
「呼ばれたら」
アミはようやく振り返った。「呼ばれなくても来るでしょ」
「たぶん」
「それが嫌」
正直だった。
夕方、エナが来て試した。右肩を使わない日、腰で強く引く日、縄を投げる日で、支えの位置を自分で変える。最初の位置では板が外れ、二つ目では脇へ当たる。三つ目で、左腿へ力がきれいに落ちた。
「小針を出すより早い」とエナ。
結人は悔しかった。「安全域を作ったのは僕です」
「外す向きを変えたのは?」
「アミです」
その言葉を口にすると、少しだけ楽になった。
ミオラは娘が描いた図の写しを一枚作り、工房に残した。原本はアミが持ち帰る。
「勝手に製品へ使わないで」とアミ。
「僕が言われる側ですか」
「名前も消さないで」
セラが針箱から小さな札を出し、図の隅へ縫いつけた。
考えた人 アミ。十歳。刃物は使っていない。
アミはそこだけ何度も読み、帰りの鐘が鳴る前に母と工房を出た。
作業台には三十七個の失敗と、横へ滑らせて外す三十八個目が残る。結人は夜になっても削り直さなかった。




