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第104話 テオの失敗衣装

資金の消えた南座で、テオの衣装は古布の継ぎ合わせになった。


役者たちは自分の私物を持ち寄った。ミナの歌衣から外した赤い帯、ラナが汗を拭いた青布、床屋の鏡を包んでいた灰色の毛布。どれも舞台衣としては格が違い、光の受け方も揃わない。


結人は色を統一しようと染め桶を出したが、リュシアが蓋を閉めた。


「時間がない時ほど、全部同じ色に逃げない」


継ぎ目を隠さず、違う布がどこから来たか小さな印で残す。衣装は貧しさを隠すものではなく、何を集めて舞台へ立ったか見える形になった。


祭典で濡れた青、貸衣装棚の赤、セラが壁へ残していた失敗縫い。色も厚さも揃わない。結人は本番までに全部直したかったが、材料も時間も足りなかった。


「裂ける場所だけ教えて」とテオ。


「裂ける前提で着るんですか」


「舞台は待たない」


黒紋工場から検査に来たセラは、危険な裂けと見た目だけの裂けを分け、後者へ白い印糸を付けた。


セラはORIGOを離れてから、言葉より先に黒紋の検査札を出すようになっていた。だが布を触る指は昔と同じで、引けばどこが先に裂けるかを一度で見抜く。


「ここは切れたら首へ回る。縫え。ここは裂けても腰から落ちる。残せ」


結人が全部補強しようとすると、彼女は鋏の背で手の甲を叩いた。


「貧乏を見えなくするための検査じゃない」


テオは白い印糸を数え、「七か所も裂けるのか」と嬉しそうに笑った。


「ここより外なら、身体へ絡まない」


「避けて動きます」と結人。


テオは何も言わなかった。


本番、大きく回った瞬間、腰の赤布が縦に裂けた。白い印のすぐ外だった。


観客が息を呑む。


結人は針を持って舞台へ出かけ、白線の手前で止まった。


テオは裂け目から手を出した。


「助けてくれ!」


役の台詞へ変え、布に食べられた男のように暴れる。青布も自分で引き裂き、腕へ絡め、深刻な場面を喜劇へ変えた。


客席が笑う。


最初は失敗への笑いだった。けれどテオが裂け目を口のように動かし、布に食べられた兵士の台詞を即興で続けると、笑いの質が変わる。


ミナは歌の調子を喜劇へ変え、照明係は裂けた赤だけを追った。舞台裏の全員が、一度起きた事故を隠すのでなく、次の一呼吸へ渡していく。


テオが最後に青布を自分で裂いた時、結人の手は針を握ったまま震えた。直せる。だが直した瞬間、今ここで生まれた演技を止める。彼は白線の外へ足を置かなかった。


テオは笑いが収まるのを待ち、最後の赤布を胸へ巻き直した。そのまま本来の悲しい台詞へ戻る。広場は一瞬で静かになった。


結人は舞台袖で針を握ったまま、何もしなかった。


終演後、審査員はテオを次の公演の主役へ戻した。配信石には裂けた瞬間が大きく映り、反応数も伸びている。


「今度は数字で選ばれた」とテオは苦く笑った。


「嫌ですか」


「嬉しい。悔しい。両方」


裂けた衣装を作業台へ広げる。


「直す?」


「危ないところは。でも、この裂け目は残してください」


結人は外から傷が見えるよう、内側へ別布を置いた。次に開いても身体へ絡まない。


セラは緑の合格糸を一本だけ残し、黒紋工場へ戻った。


テオは縫い終えた衣装を着て、鏡の前で裂け目から指を出した。


今度は誰も笑わなかった。本人だけが笑った。

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