第100話 アミの未完成
子ども舞台の日、アミは完成した服を一着も持ってこなかった。
用意したのは色も長さも違う布片、丸や星の留め具、柔らかい紐だけ。参加者が舞台へ上がる直前、自分で身体へ付ける。
参加者は八人。いつも左右を揃えたがる双子、首へ何も触れさせたくない少年、赤しか選ばない少女、途中で気が変わることで有名な子。アミは名前の横へ好みを書かず、触れてはいけない場所だけ保護者から聞いた。
結人は完成見本を一つ作ってきた。安全な留め位置、踏まない長さ、色の組み合わせまで整った模範だ。アミはそれを箱の底へ入れた。
「最初に見せると、みんな同じになる」
「危ない形を避けられます」
「危ない時だけ止めて」
彼女の言い方は、四年前のセラより柔らかいのに、譲る気は同じくらいなかった。
「紐の長さを揃えた方が安全です」
結人が手を伸ばすと、アミが箱を引いた。
「揃えたら、作るところが減る」
最初の子は布を肩から足首まで垂らし、三歩で踏んだ。結人が駆け寄る前に、本人が留めを一つ外して腰へ移す。
二人目は布を頭へ巻き、前が見えなくなって笑った。友人が目の位置だけ開ける。結人は左右を揃えたくなり、指が勝手に動いた。
「そこ、ずれてます」
「ずらしたの」
五人目の子どもが、結人の手を叩いた。
アミは舞台脇へ白い線を引き、その外へ椅子を置いた。
「壊れたら呼ぶ。変なのは壊れたに入らない」
ミオラが保護者として頷く。刃物はアミではなく大人が持ち、火も使わない。首へ紐が回った時だけ、誰でも即座に切る約束だ。
結人は椅子へ座ったが、落ち着かない。布がねじれるたび直したくなり、色の組合せが悪いと口が開く。
途中、一人の紐が喉へ上がった。
赤しか選ばない少女が、友人に青布を渡され、嫌だと言えず首へ巻いたものだった。本人は苦しくなるまで笑っていた。
アミは手を挙げるだけでなく、舞台の鐘を一度鳴らした。事前に決めた全停止の合図だ。大人の係が紐を切る間、他の子どもはその場で動きを止める。
結人は鐘を二度鳴らして全員を降ろそうとした。少女本人が水を飲み、首をさすりながら首を振る。
「次は赤を腰にする」
保護者が本人へ確認し、再参加を認めた。アミは青布を渡した友人にも怒鳴らず、「好きな色を貸す前に、相手が好きか聞く」と一行だけ足した。
最後、全員が互いの布を一か所ずつ交換した。
交換しない子も一人いた。自分の赤を最後まで持っていたいという。最初、アミは交換を公演の見せ場にするつもりだったが、その子だけ残すと決めた。
双子はわざと別の色を選び、客席の母親が何度も名前を間違えた。首を嫌う少年は、腰の留めを五つ連ねて長い尾にする。途中で気が変わる子は、歩くたび右と左を入れ替え、最後には何も持たず走った。
舞台に同じ完成形は一つもなかった。右だけ長い、背中だけ何もない、星留めが十個、腰の光を全部見せる。誰一人、最初の形のままではない。
観客席の親たちは、自分の子を見つけるため名前を呼び、子どもたちは呼ばれるたび違う方向から手を振った。
公演後、結人は記録札へ「未完成衣装」と書いた。
アミが炭筆を奪う。
「完成したよ」
「でも、形が決まっていません」
「決め直せる形で完成」
彼女は「未」の字だけ塗り潰した。
結人は直したくなったが、白線の外にまだ椅子が残っていた。




