交流の裏側
人材交流も早半年。魔人達も予定の研修を終え、今は交代で給食を担当するほど馴染んでいる。
「ほんでアークはどうすんの」
「僕はここにいますよ。だって......まだ温泉の事でタケシさんたちの意見もらわないと」
アークがニコっと笑う。
「って、兄が言うんです」
研修を終えた魔人達は、本国に帰るとすぐに温泉地で観光地化に向けた商品開発と生産を開始する。
アークの兄、すなわち第1王子のカイロスが温泉地の開発担当で指揮を執っていた。
進捗状況をアークと取り合い、タケシ達の意見を聞きながら、湯殿や宿泊施設などの建築を進めている。
既に食品工場も出来、帰りを待つばかりだ。
「そっか。まあそのほうがええかもな。後3ヶ月やし」
「はい。調印式までには形整えないと。せっかく皆さんに良くしていただいたので」
「まあな。ボチボチでも大丈夫やけどな」
「あ、温泉スライム。定期便乗せてって言っておいたので、多分明日届きますよ」
「そっか。楽しみや」
「なんかさ、シュワっとせん?」
「そうですよね」
「炭酸泉かな」
「タンサンセン?」
「温泉っていろんな種類あるんよ。でもこのシュワ。ええよね」
「あぁ、ちょい新食感やな」
「アークもう1回送ってもろて、ちょい試してみる」
「ね、タケシさん。こうなるでしょ」
「そうやな。もうずっとおり」
そして1週間後、研修を終えた魔人達は、本国へと旅立った。名前入りのキックボードとクッションを抱えて。
入れ替わりに帰って来たのはバルザ達鍛冶師組だ。
「おかえり。ご苦労さんやったな」
「只今帰りました」
「どうやった?」
「いやー楽しかったです。あ、お土産です」
と、バルザが差し出した綺麗な小箱。
タケシが蓋を開けて........
「??」
「ミスリル製耳かきと爪切りのセットです」
「は?」
「向こうで、お土産用にどうかと作ったんです。これ、すごいんですよ。ミスリルは魔力伝導が高くて、この魔石がですね.........」
延々とミスリルの良さを説くバルサ。
「なんで刃物とかじゃないん」
「つまらんでしょ」即答だ。
「はぁ?」
「刃物は誰でも作れますけど、この耳かきの、この角度曲がり具合ね、これめっちゃムズいんです。ワシ向こうの職人に教えたんですよ」
「ほんでもさー」
「いえ。高価なものです。貴族なら買います」
「うっ。なるほど」
カツミがヒョイと爪切りを取り、パチンと爪を切った。
「うわっ。めっちゃよう切れる」
「でしょ、ミスリルですから。ワシの足の爪でもサクサクですわ」
とドヤ顔のバルサ。
ルークも覗き込む。
「こういう無駄に高価なものって、確かに貴族が喜ぶよね」
アークが箱の中を指差す。
「あの、これは?」
「それは仕上げ用の爪研ぎです。ツルッツルになりますぞ」
「ツルッツル......タケシさん。ちょっと借りていいですか?」
何故かすごく嬉しそうなアーク。
「ん?お前.......角磨く気やろ」
「うっ。バレた」
「ねえねえバルサさん、角磨きね、こっちじゃ売れないけど、向こうだったらヒット間違いないですよ」
「え?そうなんですか?」
「出来れば、根元と先端用に分けて、仕上げ用の布つけて」
「ほぉ。目を変えるんですな」
バルサの目がキラリと光る。
そしてそれから、アークの角が、日に日に輝きを増していったのだが、角カバーによって、誰に知られることもなかった。
しばらくすると、翼人便で、試作中の商品が届くようになり、カツミがチェックして改善点を知らせるようになった。
「海の魔獣缶。いいっすね。ちょい肉っぽい」
「臭みもうちょい抑えたらええね」
「向こうの海域の方が魔獣多いみたいやし、これ特産でいけそうやな」
手紙を読んでいたアーク。
「あ、カツミさん、温泉の美容効果。やっぱあるみたいです。肌ツルッとしてきたって」
「やっぱりな。ほな、美肌の湯って看板作らせて。あとな、美容液や」
ニヤッとカツミが笑う。
「うわっ。タケシさんとおんなじ顔」
「それ儲かる奴や」
「うちが儲かるわけやないけど。なんや嬉しい」
ポルトスの港では、新造魔導船が試験運行を始め、いよいよ条約更新の調印式が迫ってきた。
「タケシは行かないの?」ルークが問う。
「あー。俺、こっちの段取りあるしな」
調印式後、魔王国から使節団がアルネアに入国することになっていた。
王都アルネシアでの表敬訪問とミナセへの視察である。
馬車の手配やミナセでの宿泊などの対応はタケシの担当になり、その準備に忙しい。
「20人くらい来るって言うし、特大寝台馬車だけでも最低5台はいるからな」
車中泊を入れて10日程のツアーになる。体の大きい魔人族向けに、大型馬車を作ってポルトスに配備中だ。
「一応な、こっちでは飛ばんようにしてもらわんとな。みんなビビるやろ」
翼人便以外は極力飛行は控えてほしい。アルネアからの申し入れに、ゼルヴァーンは
「まぁ胡椒玉で撃ち落とされても困るでな」
と、笑って受け入れたという。
「あ、テラには言うてくれたか?」
「うん。テラ様とスサノー様のとこには、行って話ししといたから。間違って攻撃しないでねって」
「ならええわ」
「テラ様興味津々だったよ」
「またこっそり見に来るんやろな」
結局調印式へは、国王カイルと
軍からはリゥトス、貴族からは、アルベルクとグレイス領のセルディオが手を挙げたらしい。古参の貴族達は、やはり魔王国上陸には抵抗が強いようだ。
それでも従者や護衛を含め30名以上。受け入れる魔王国も急ピッチで準備を進めていた。
そして出航日。
船に運び込まれる荷物の中に......
「ねえリゥトス、これは?」
「それなぁ、タケシから魔王様へのプレゼントだそうだ」
大きな自転車が布で包まれ、赤いリボンが掛けられていた。
「翼あるのに、どこで乗るのかな」
「さぁ?」




