花咲く角
カイル達の乗る魔導船が、海軍の護衛艦と共に魔王国へ旅立ち、無事到着の報がミナセへ翼人便でもたらされた。
調印式、温泉地での歓迎会。
その都度来る翼人便報告を受け、ルークが王都へ早馬便を走らせる。
回りくどいが、カイルが帰り、国交の回復を宣言するまでは、静かに事を運んでいく。
「上手いこと行ってるみたいやな」
「無事、船に乗り込まれたそうです」とアーク。
「そんでもまあ半月かかるな、往復したら」
「温泉で3日くらいですか」
タケシとルークとアークが今悩んでいるのは、アルネシア発の魔王国観光ツアーだ。
片道でも馬車泊3日、船泊3日。上手くしないと道中で飽きる。
「ちょい道の駅強化やな。食いもん、貴族用のん考えよ」
「ツアー専用パックですね」
「うん。結構お高いツアーになるな」
タケシがニヤリとすると、ルークとアークもニヤリ。
「カイル帰ってきたら、せいぜい宣伝せなな」
ー国王陛下帰国ー
魔王国との不可侵条約が再締結され、同時に、同国との国交回復を宣言。
アルネア国王カイル=アウレリウス陛下は、この度、魔王国国内に於いて、国王ゼルヴァーン=ドラグニル公との会談に望まれ........
その一報はアルネア国内のみならず、人族大陸全国に流れて行った。
会談や調印式の様子、温泉地での歓迎式典なども詳細に書かれた報に、アルネア国内以上に他国が驚愕した。
アルネア国内も、国民は驚きながらも、続々ともたらされる魔王国情報に沸いていた。
そこに使節団が到着し、ポルトスの港に魔人族が降り立つと、周辺領からの見物がごった返すほどになった。
その頃ーー魔王国。魔王城の中庭に、ゼルヴァーンの姿があった。
「おい、しっかり押さえてくれ」
「はい。魔王様」
「よし、行くぞ。ふんっ」
「魔王様ー」
「はなせー」
「はいー」
「おー。お、お、お」ガシャーン
「魔王様ー。大丈夫ですかー」
「くっそー。もう1回じゃ」
庭の端に赤いリボンがおちていた。
使節団は、大型馬車で王都アルネシアへ向かい、城で大勢の貴族たちとの懇親会。
そこでカイルは、魔王国の温泉が、いかに心地よいものかをアピールし、土産や特産品も披露された。
特に、ミスリル製の刃物や装飾品に貴族達は釘付けになり、随行しなかったことを、皆後悔し始める。ちなみにその中には、バルサの耳かきと爪切りセットも含まれていたという。
アルネシア散策を終えて、一行はミナセに入ってきた。
出迎えるルークと握手を交わすのは、オルフェンとヴェルガードだ。
人材交流までは、この2人がルークと連絡を取り合い、貿易の準備を進めていた。
2人共、使節として再来出来たことを、心から喜んでいた。
「お久しぶりです、ルーク様」
「ようこそミナセへ。今日はゆっくりミナセの街をご案内しますね」
「ありがとうございます」
数日前から、ルークがアークを連れて街を回ったので、住民達の驚きも、半分くらいでおさまっている。
それでも、ゾロゾロ歩く翼や角を持つ大柄な魔人は目を引いて、周囲に人が集まる。
すると、一人の子供が駆けて来てた。
ヴェルガードに小さな花輪を差し出す。
「ありがとう」
ヴェルガードが、受け取った花輪を角に挿すと、子供がニッコリ笑って帰って行った。
「ルーク様、いい街ですな」
見物するうちに、いつしか魔人たちの角は、花でいっぱいに彩られていた。
翌日はコンドウ商会と工房の見学。
職員が説明していると、バルサが飛び出してきた。
「おー。来たかー。こっち来いや」と、その中の1人を馬車工房へ連れて行ってしまった。
タケシが工房を覗くと、どうやら馬車の下に2人で潜っているようだ。
「あれ、何しとるん」
「バルサさんの友達らしくて、馬車の足回り見せたいって」
「ま、ええか。向こう、多分技術ないもんなぁ」
バルサは、今でこそ鍛冶が中心だが、元は馬車職人で、車体の事も全て把握している。魔王国の馬車を見れば、口出ししたに決まっている。
「あ、タケシさん」
バルサが馬車下から覗いた。若い魔人が顔を出す。
「こいつ、ワシが預かったらあきません?」
「うちはええけど」
「ちょっとアークさんに聞いてくる」とバルサが走って行った。
「なあ、おもろいか?」
頷く魔人。
「よっしゃ」
タケシもするりと馬車に潜った。
使節団が帰国の途につき、やや落ち着きを取り戻したコンドウ家に、早馬便が来た。
「タケシー。サラディアからやでー」
「はいはい」
封を切るタケシ。
「うぉー。男の子やってー」
「えっもう生まれたん?」
「??」
「やっぱりな」
「勇者の息子も勇者かな?」
「さぁ?」
「ちっこいハリセン作ったろ」
「えぇー」
「名前考えてって書いてる.....」
「うそ。どうする?」
「俺こっちの名前わからん.....」
「んー」
「長男やから一夫」
「んー」
「イチロー」
「んー」
「バース」
「なんでやねん」
「太郎」
「ん?ええかも」
「金太郎」
「金いらんな。うん、タロー」
「タロー=コンドウ?」
「元気そうや」
「カツミ、行ってきて」
「ええの?」
「俺、今ここ離れられんし。第一、生まれたては抱っこ怖い」
「正直やな」
「1月位ええで」
「ほんま?ほな支度する」
タケシは紙に、大きく“太郎”と漢字で書いた。




